親子でお風呂
湯船は結構広めで、4~5人くらいなら一緒に入れる。
と言っても、管理人の僕が入るのはいつも最後だ。
「ふぅ~」
湯船に浸かりながら、一日の疲れをため息とともに吐き出す。
当然だけど、男の僕はひとりで風呂に入っている。
陽ノ目荘のお風呂は時間割制で、18時から23時までは女性、それ以降が男性(というか僕)が入る時間となっている。
必然的に残り湯だが、足を好きなだけ伸ばせるお風呂はなかなか
広すぎて少し寂しい気もするが。
まあそんなことを言う
「明日の夕飯は何を作ろうかな」
今日は
なら明日はお肉系がいいだろうか?
それとも陽ノ目荘は女性ばかりだし、もっとヘルシーな物が喜ばれるか?
段々と皆さんとも打ち解けてきたことだし、誰かにリクエストを訊いてみるのもいいかもしれない。
逆に
サキさんは……全然予想がつかない。
こうして考えてみると、やっぱりまだまだ皆のことを知らないな。
明日、朝ご飯が終わったら訊いてみよう。
そんな、明日のことについて考えながら、僕がそろそろ体を洗おうかなと思っていると。
パタンっと、脱衣所の扉が開く音がした。
「……ん?」
扉の
誰か脱衣所に忘れ物でもしたのかな?
と思っていたら、今度はガラガラと音を立てて浴室のドアが開く。
「え!?」
「お父さん、久しぶりにお風呂ご一緒しましょう」
浴室に入ってきたのはキララだった。
その肌は日本人とは思えないほど白く、ホクロひとつ見当たらない。
この前ブラジャーを買いに行った時に見た胸は、やはり中学に上がると同時に急成長を果たしたようで、見事なお
こうして見るとケガも見当たらず、健康に育ってくれているのは親として喜ばしいことだ。
さて、それはそれとして。
「……キララはさっきお風呂入ってなかったっけ?」
「二度風呂です」
「明日も早いからもう寝なさい」
「大丈夫です。お背中流すだけですから」
「……」
ダメだ。この手の押し引きにキララは滅法強い。
それに彼女は親子で一緒にお風呂に入りたいと言っているだけなのだ。
キララももう中学生だが、あり得ないというほどでもない。
発育が中学生離れしてるところが、問題と言えば問題かもしれないけど。
それを僕から指摘するのも、逆にそういう目で娘の体を見ているようで居心地が悪い。
かといって、この現場を二ノ木さんや狩野さんに見られでもしたら、それこそあらぬ疑いをかけられてしまうかもしれない。
仕方ない……。
かくなる上はささっと背中を流してもらって、早めに出て行ってもらうとするか。
「それじゃあ、ちょっとお願いしようかな」
僕は浴槽から上がって、風呂椅子に腰かける。
キララは洗面器を持ってきて傍に座り、早速スポンジを泡立て始めた。
「失礼します」
「ん」
スポンジが背に当たり、娘の手で
僕の疲れを労るように、その動きはやさしい。
体は大きくなっても、こういうところは変わらない。
僕はしばしここが共用風呂であることを忘れ、スポンジが背中を擦る感触を味わった。
「力加減はどうですか?」
「ちょうどいいよ」
「よかったです」
キララは小さくほっと息を吐く。
「お父さんのお背中流すのも久しぶりですから、まだ上手くできるか不安でした」
「久しぶりって……そんなにだっけ?」
「三ヶ月ぶりです」
「そっか」
言われてみれば結構久しぶりだった。
「この前まで引っ越しの準備で忙しかったしね」
「……私、寂しかったんですよ?」
キララはふと手を休め、僕の背中にピタリとくっつく。
……娘に密着されている。
風呂で。
全裸で。
いやまあ子供の頃から見ている裸だけども。
さすがにこれはこう、
しかし、キララはそんなこと気にせず。
「こうしてお父さんの背中に触れられる時間が減って、凄く物足りませんでした」
「えーと……」
「お父さんの体を求めて毎日
「そういう誤解を招きそうな表現は控えてねキララ」
「誤解?」
あ、ダメだ。分かってない。
キララの場合、無闇に
とにかくいろいろと無自覚だ。
たぶん今も。
「あー、続きしてもらっていいかな?」
「あっ、ごめんなさい。体冷えてしまいますよね」
キララはパッと体を離し、再び僕の体を洗い始めた。
その手つきは非常に丁寧で、正直気持ちいい。
ちょっと困ったところはあるけれど、本当にできた娘だ。
僕がそんな感慨に耽っていると。
「それじゃあ次は前を洗いますね」
「いや、前は自分で洗うよ」
「別に遠慮なさらなくても」
「いやいや遠慮とかなくてね?」
「ダメです! さっきも言いましたけど、私はお父さんのが欲しくて欲しくて体がムズムズしてるんですから!」
「だからもうちょっと表現に気をつけて!」
「いいから全身くまなく洗わせてください!」
洗おうとするキララ。
断固死守する僕。
親子喧嘩というには些細な、非常にくだらない攻防が始まる!
共用風呂でドッタンバッタン。
管理人としてあるまじき夜の大騒ぎ。
しかし、親子といえど死守べきラインというものは存在する。
何とかこの防衛戦は守りきらなければ。
と、僕らがそんなことをやっていたら。
「お姉ちゃん!? 何してんの!?」
急に浴室のドアがバタンッと開き、泡を食った様子のセイラが駆け込んできた。
「あらセイラ。あなたも一緒に入る?」
キララは至って平静に、なんてことないように提案する。
それに対してセイラはガァーーッと両腕を振り回して吠えた。
「入るわけないでしょ! いつの間にか部屋にいないから探しに来てみればお風呂で何を……って、キャアアアア!」
と、姉に向かって捲し立てていたセイラだが、ふと僕を見て悲鳴を上げる。
「お父さんもなんて格好してんのよ!」
セイラは両手で目を隠しながら、耳まで真っ赤にして叫ぶ。
「いや、ここお風呂だし……」
「そういうこと言ってんじゃないの!」
やや理不尽にも感じないでもないが、思春期の娘として
その後、親子三人でギャアギャア騒いでいるのを住人たちに目撃され、警察呼ぶだの漫画のネタにするだのの騒動に大発展。
結局、全ての誤解が解けたのは深夜
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