姉妹の休日(キララ編)その1

 今日は日曜日。

 もちろん学校はお休み。

 お休みはお父さんとずっと一緒にいられるので幸せ。

 それに朝から家のお手伝いもできるし、いいこと尽くめです。

「お父さん。お洗濯物干してきますね」

「うん。キララ、お願い」

「はい!」

 私はお父さんにうなずいて、カラの洗濯カゴを持って部屋を出ます。

 陽ノ目ひのめそうには共用の洗濯機が三台あります。

 洗濯機が並ぶ様はコインランドリーみたい。

 私は洗い終わった洗濯物をカゴに詰め、階段をのぼって屋上に向かいます。

 屋上のベランダには物干し竿が何本も並んでいて、ここも共用です。

 人に自分の洗濯物を見られたくない人は自室に干しますけど。

 ウチもお父さんに、私たちの下着は部屋に干しなさいって言われてます。

 世の中には私みたいな中学生の下着を欲しがる人もいるとか。

 陽ノ目荘は女子寮なので、そういった犯罪の予防も管理人のお父さんのお仕事です。

「ふぅ……」

 二十分ほどで干し終わりました。

 あとは下着を部屋に戻って干すだけですね。

 私は下着だけのカゴを持って部屋に戻ります。

 と。

「おっ、キララちゃんじゃん」

 戻る途中で面倒な人に会いました……。

 この方は二ノ木にのぎつづらさん。

 陽ノ目荘201号室の住人です。

 もう大人なのにいつも陽ノ目荘にいます。

 平日の昼もずっとです。

 一体何のお仕事をしている方なのでしょう?

 お父さんは知っているみたいですが、なぜか教えてくれません。

 ツヅラさんに興味があるわけではないですが、お父さんに秘密にされるのは少し悲しいです。

「……って、何勝手に人の家の洗濯カゴを覗いてるんですか!?」

「え? 今時の中学生の下着事情の調査を」

 ツヅラさんはまるで悪びれる様子を見せません。

 しかもよく見たら私のショーツを指でつまみ上げてます!

「これってこの前買ったブラとお揃いのやつ?」

「そうです! 返してください!」

 私はツヅラさんの手から水玉のショーツをひったくりました。

 部屋に戻ったらお父さんに下着ドロが出たって言いつけてやります!

「んー」

「な、何ですか?」

 ツヅラさんがジッと見てくるのでつい尋ねます。

 彼女はしばらくうなったあと、うんとうなずいて。

「ちょっと子供っぽいと思ったけど、キララちゃんみたいな美人が穿いてるとギャップがあって逆にアリ」

「?」

 何がアリなんでしょうか?

 なんだかよく分からないので、適当に断りを入れてその場を離れました。

 まったく大人なのに非常識な人です。

 昼間でもお酒飲んでますし。

 もしかしてさっきも酔ってたのでしょうか?

 いえ、別にお酒を飲むのはあの人の自由ですけど。

 それにお父さんをつき合わせるのはやめて欲しいです。

 お父さんも頼まれたら断らないですし……。

 ていうか、酔って絡んで胸を押しつけるのが一番ダメです!

 あの胸は反則でしょう。

 何ですかFカップって!?

 私なんて最近ようやくCになったのに……。

 年齢的にもお父さんに近くて、でもお父さんより若くて、しかも綺麗で。

 とにかくツヅラさんは陽ノ目荘の中でも要注意人物です。

 今日みたいな休日には、絶対にお父さんに近づけないように私が見張ってないと。

 お父さんは私のお父さんなんですから。



 洗濯も掃除も午前に済ませて、もうすぐお昼です。

「セイラ。もうお昼よ。起きなさい」

「んー……」

 未だにベッドの中の妹に声をかけますが、返ってきたのは生返事。

 あれはまだ当分起きそうにありませんね。

 やれやれと思いながら、そっとふすまを閉めます。

「お父さん。カレーでも作りましょうか?」

 私は居間でテレビを観ていたお父さんに尋ねます。

「ん? キララが食べたいなら今から作るけど」

 そう言ってお父さんはソファから立ち上がろうとしました。

「いえ、お父さんはゆっくりしててください。私が作りますから」

「え? でも」

「いいから座っててください。お休みの日くらい私に任せてください」

「そう?」

 お父さんは若干悩んでいましたが、少ししてから頷きました。

「じゃあ、お願いしようかな」

「はい!」

 というわけで、今度はお父さんのためにお料理です。

 家事の中でも料理は大の得意です。

 なにしろ昔からお手伝いしてきましたから。

 私は陽ノ目荘の共用キッチンに向かい、冷蔵庫の中身を確認します。

 あ、トリ胸肉もありますね。

 ウチのカレーのお肉はいつもトリ胸肉です。

 まずは野菜とお肉を大きめにカットしてよく炒めます。

 次にお鍋で弱火で煮込んで、一度火を止めてからルーを溶かします。

 最後にもう少し煮込んで完成。

 念のため味見。

「……よし!」

 ひと晩寝かせたカレーとはいきませんが、いつも通り美味しいです。

 管理人室に戻ってお父さんを呼んできます。

 ちなみに、案の定セイラはまだ寝ていました。

 仕方がないのでお父さんと先に食べてしまうことにしました。

「いただきます」

「いただきます」

 ふたりきりでお食事。

 こういう機会はなかなかありません。

「うん。やっぱりキララの作ってくれたカレーは美味しいね」

「ありがとうございます!」

 お父さんに褒められました!

 とっても嬉しいです!

 あ、と思って私は手をぱちんと叩いて。

「でしたら御夕飯も今日は私が作りましょうか?」

 そうすればお父さんも今日一日ゆっくりできます。

 それにもっと喜んで貰えますし。

 しかし、お父さんは首を横に振って。

「いや、それは僕の仕事だし、自分でやるよ」

 断られてしまいました……。

 でも責任感の強いお父さんもカッコいいです!

「はい。ちょっと調子に乗りすぎました」

「ううん。キララの気持ちは嬉しいよ」

「はわわ!」

 お、お父さんが頭を撫でてくれました!

 中学生になってからははじめてです。

「~~~」

 お父さんの手の平気持ちよすぎます。

 顔がトロンとなっちゃいます。

 思わず自分からも頭をぐりぐり。

 今度はお父さんがくすぐったそうに笑います。

「あ、そうだ」

 と、不意にお父さんが手を離してしまいます。

「どうしました?」

 とても残念ですが、何かあったみたいなので話を聞きます。

「そういえばみりんと醤油しょうゆの替えが切れてたんだ。買ってこなくちゃ」

 どうやら冷蔵庫の中身の話のようです。

 お父さんは管理人ですから、寮の備品や食材の買い物もお仕事の内です。

「それならカレールーもさっき使い切ってしまいました」

「そっか。じゃあそれも買わないとね」

「あと柔軟剤も残り少なかったです」

「あれ? 石鹸の予備もこの前ので最後だっけ?」

「あ、それと確か……」

 その後もふたりであれこれ思い出していたら、結構いろいろ出てきました。

 これを全部ひとりで買いに行くのは大変そうです。

 となれば、私のすべきことはひとつ。

「お父さん。午後はお買い物に行くんですよね?」

「そうだね。ドンキでも行こうかな」

「なら、私もお手伝いします」

「え? でも」

「お父さんひとりじゃ大変ですよ」

 それにこれはあくまでお手伝い。

 だったら、お父さんの仕事を取ったことにはなりませんよね?

 私がじっと見つめると、お父さんは観念したように笑って。

「じゃあ、キララも一緒に行こうか」

「はい!」

 やりました!

 午後からはお父さんとお買い物デートです!

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