39.あえて伏せる

久しぶりにドキドキしながらこれを書いています。なぜならこれから創作論っぽいことを書くからです。しかもそれだけじゃない。自作語りまで展開しようとしています。


ぐはっ。僕なんぞの素人創作論に自作語り。凶悪コンボだ。毒が、毒が強すぎる。……まぁあくまでもこのエッセイは僕個人の整理の場でもあるので、なにとぞご容赦ください。あるいは服毒しないよう細心のご注意を。


で、今回のテーマはタイトルにもある通り、あえて伏せる、です。伏せるって何を? って話になるわけですが、一言では難しく、あえて言うなら設定を、でしょうか。


物語を書いていくには、キャラクターとか人間関係とか、世界観とか背景とか、いろんな設定を作者はこねくり回す必要があるわけで。そうしてできあがった設定を作中でひとつひとつ説明というか、明かしていくわけなのですが、


じゃあ全部で100ある設定を、作中で100全部明かす必要があるか


でいうと


必ずしもない


で多くの人が同意してもらえるかなと思います。が、さらに踏み込んで、100あるうちの20はあえて語らず、実際どっちでしょう? みたいな問いかけで物語を終わらせたり、可能性を匂わせるだけでさっと引いて、


ひょっとして本当の設定はこういうこと?


みたいに読者に想像を巡らせてもらう。つまり、あえて伏せる、ってことも重要じゃないかなと思っていたりします。後を引くとか言われたりしますが、そうすると物語に深みが生まれるはずなんです。


たとえば名作『1984年』。監視社会の中で、名前だけはたびたびでてくる反政府組織「ブラザーフッド」。この組織は一度も作中姿を現さないままで物語が終わります。そうすると、え? あの組織は結局なんだったの? ほんとに存在するの? になり、ひょっとしたら監視社会の体制側が不満のはけ口として用意した架空の組織なのでは? の可能性に行き当たる。そうするとその監視社会がより完成された凶悪な姿にパワーアップするわけですよね。本の中ではなく、読者の頭の中で。物語が何割増しかに膨れ上がるわけです。そうとは描かれてないのに。


かー、かっこいいい。なに、このテクニック。


個人的にすごい好きなんです、こういうの。いま僕が創作もどきをする中で、これを綺麗に決めることが一つの目標になっている気がします。


自作『人間判定』ではそこそこ綺麗にできた気がします。早々にジョン・ホワイトという犬を登場させて、人間じゃない例としてコミカルに描くわけですが、その後に人体の機械化とか意識のインストールとかのテクノロジーを登場させて、最後に主人公の意識を犬にインストールさせる。で、物語を終わらせます。すると最初のジョンはひょっとしたら誰かの意思がインストールされてたのかもしれない、という残り香になると。この終わりは結構評判がよかったのでうれしかったです。


ただ、ここら辺はうまくやらないと読者に伝わらないという致命的なデメリットがあり、実際やらかした例もあります。自作掌編集『場当たり的ショートショート集』の1話目「ロボット・オブ・ザ・デッド戦争」です。


これはロボット社会を描いたもので、ウイルスに感染して通信が途絶した別のロボット集団との戦いが続いています。最終的に押し切られて追い詰められた主人公に、ゾンビロボットたちが「感染しているのはそっちで、こっちは治療をしているんだ」と告げるのがオチです。つまり、どちらも相手がゾンビだと思っているという状況、実際ウイルスに感染しているのはどっちかわからない泥沼(実際にどっちが感染ロボットかを伏せている)というのがこの話のポイントなのですが、


まー伝える技量がなかったですね、僕に。


プライベートなコンテストに出していたのですが、オチの意味が分からんの感想が相次いで寄せられて凹みました。いま掌編集に載せているのは改稿してわかりやすくしていますが、それでもどこまで伝わるものなっているかどうか。(汲み取っていただいた感想もあり、それは本当にうれしいですね。)


もうひとつデメリットを挙げるとすれば、読者の消化不良を招くということですかね。タイトルは伏せますが爆弾テロを扱った某映画を観たことがありまして。正体不明な犯人が警察をおちょくりまわしていくのですが、企みが阻止されて追い詰められたとたん、正体、動機、全部不明のまま犯人が自爆して映画終わっちゃったんですよ。


ええええええー!? てなりましたね。※個人の感想です。


そこらへん全部観衆に丸投げ&想像にお任せは、さすがに伏せ過ぎだろ、と。あまりにも材料が少なすぎると、ライターさんもうちょっと描写しようよ、な気分になります。


このあたり伏せる伏せると一概に言っても、WhatやWhyを伏せると消化不良になりやすい気がしますね。せいぜいWhichの質問というか、Yes Noで答えられるレベルで伏せるのがちょうどよい塩梅になってくれる気がします。


……と、まぁそんな感じで、いろいろと注意事項があるので、僕みたいな素人が手を出すのは少々ハードルが高いわけですが、これって文章力の世界というよりは構成力の世界なんですよね。最後になにを読者の頭に残すかを決めて、提供する情報としない情報を決める、みたいな。


作家の力量でいうと、綺麗な文章や巧い文章を作る力が真っ先に挙がることも多いと思いますが、これは読書量や書いた量、そして感性に依るところがきっと大きく、自分みたいな凡人素人じゃなかなか太刀打ちができんわけです。それならこういう構成力で爪痕を残す方がいいんじゃないか、とか考えたりもするわけで。


当然短編や掌編のほうがこの、あえて伏せる、はやりやすいです。一方で、長編でやろうとすると相当なセンスが求められるのも間違いないでしょう。僕はこれまでひとつ長編を書いて、もうひとつしたためている最中ですが、それらに関してはこの伏せるテクニックは意識していません。いつか長編でこれにチャレンジしてみたいなーと思う次第でございます。


さて、いつもの倍くらいの分量で創作論を垂れ流してきたわけですが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


次回はもう少しさっくりとした何かで更新できればと思います。


ではまた。

 

 

 

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