54.嫌な予感しかしない
嫌な予感しかしない。
漫画やアニメの感想でしばしば目にする一文ですが、もちろん小説でもこういう感想を抱くことはあります。
単純には、凶悪な登場人物にデスノートを持たせるとか、外で誰かの悲鳴を響かせるとか、鍵のかけ忘れとか外れた部品とかどう考えても危険な薬品が赤ん坊の傍に置かれているとか。2つくらいの要素で嫌な予感というのは簡単に醸成できるみたいなのですが、それが物語の進む先を示してくれるとき、
うわ、おもしろっ!
と脳幹がゾクっとなる感覚が最近何度かあったので、ちょっとここで整理していきたいと思います。
※注意※――――――
とある作品のネタバレを多分に含みます。作品名を見て、まさしく嫌な予感がしたらブラウザバック推奨です。
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さて、僕の場合、物語がどこへ向かうのか、がなんとなくわかっていないと読むテンションが上がっていかない、というのが何となく自分でもわかってきました。
どこかの回で書いた気もしますね。魔王を倒すのか、犯人を暴くのか、想い人と結ばれるのか。最終的にそれが裏切られるかどうかはともかく、登場人物がどこに向かっているのかがわからないまま大量の文字数が積み上がっている状況は、僕だけに限った話ではなく、多くの読み手にとってなかなかにしんどい状況なのではないかと。
ただ、幾つかの作品で、その方向性は最初はよくわからないのだけど、いろんな要素が組み合わさって、パズルの絵柄が浮きあがてくるようにその方向性がグワっと見えてきたとき、結構な快感がありました。
なるほど、こういう手法もあるのか、と思ったものです。
※具体例
『風神の手』
著者: 道尾秀介(敬称略)
最近読んだ中で、すげぇ、と思ったのがこの作品ですかね。3章あるうちの最初の1章の部分です。
正直言ってしまうと、最初は結構キツかったんですよ。唐突にある女性主人公の昔話が始まって、はて、この話はどこへ向かっていくんだ? があまり見えてこない。
ただ、いろんな要素が小出しにされていって、着地点が終盤になっていきなり見えてきました。直接そうと書かれたわけじゃないのに。
あーーーーっ、ってなりました。嫌な予感しかしない、と。
要素はこんな感じで提示されていきます。
・冒頭、時は現代で、ある青年Aが随分前に亡くなったことが示される
・話は過去に戻り、舞台は海に近い川沿いの村
・主人公は青年Aと恋仲な関係だった
・Aは写真が好き
・Aの父親はなんだか気難しい
・村では橋の上からクラゲめがけて石を投げる遊びが昔から子供たちの間で流行っていて、Aの父親はその遊びでは名人級の腕前だった
・その村では毎年お祭りがあり、夜、暗がりの川に小船を浮かべて篝火をたいて漁をする
・船は漕ぎ手と篝火の持ち手の2人組で乗る
・Aは漕ぎ手として参加する予定で、主人公はその様子を写真に収めてほしいと頼まれ快諾する
……どうでしょう、ここまでだと話の着地点見えてこないですよね。そもそもなんでAが死んじゃったのかもよくわからないし。
しかし終盤で、新しい要素が急に提示されるのですよ。
・ある日、Aの父親と登場人物Bが尋常じゃない剣幕で口論をしており、どうもBに対して相当な恨みがあるらしい
・BはAの同僚で、祭りでAと同船する予定だった
・AがBに、祭りで写真に撮られる予定がある、と明かすと、より目立つ篝火の持ち手と役割を交代しようという話になる
ここで僕は「あーーーーっ」ってなりました。嫌な予感しかしねぇ、と。
皆さんがそうならかったとしたら↑の僕の書き方が拙いせいです。本の中ではもう嫌な予感しかしないように描かれています。そして、
・祭りの当日、Aの父親の姿が見えない
ときたらもうAのオヤジさん、Bさんを橋からの投石で殺そうとするじゃないですか。でも暗がりで、AとBが入れ替わってるわけじゃないですか。そうとしか想像できないんですよ、この先。
ただこれ、暗い悲惨な流れでしかないのに、すごい快感だったんですよね、読んでいて。
見つけた! ってなるからですかね。自力で、自分が探していたものを。
それで、なるほど、こういうやり方もあるのか、という感想になったわけです。
もちろんちゃんと考えるとこれは結構諸刃の剣というか。方向性がわからない状態でそれでも読者を引っ張らなければいけないわけなので、文章の巧さとか、キャラクターの面白さに自信があってこその手法のような気もして、プロだからできるのかなぁという結論になるというか。序盤で見限られやすいWeb小説にはあまり向かない手法かもしれないですね。
いやぁでもこういうのも、いつかできるようになりたいですよねぇ……。
まぁもしこの先技量が上がってきて、良いのが思いついたらチャレンジする目標として胸に秘めておくことにしましょうか。
皆さんの方でも、この作品もそういう手法だったぜ、みたいなのがあれば勉強してみたいのでぜひぜひ教えてくださいな。
ではまた。
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