32.抽象から具体
僕は小説の書き方をちゃんと勉強してきたわけではありません。かなり感覚でやってるところが大きいです。が、1つ気を付けていることがあります。
それが今回のテーマ、「抽象から具体」です。
話はまだ僕が受験生だった頃にさかのぼります。英語の長文読解の授業で、先生が口を酸っぱくして言っていました。
「抽象から具体だ。それを意識して解け」
なんのこっちゃ、だと思いますが、先生曰く、英語の文章(ただし小説ではなく)の構造にはルールがあるというのです。
そのルールこそ、抽象から具体。初めに主張や結論といった大まかにまとめられた文があり、それをサポートするような例、理由、原因といった文が続くぞ、と。だからある1文や単語がわかんなくても、必ずそばに近しい意味の何かが在るからそれを参考にして解いていけ、ということです。
文章構造にルールがある、というとあまりピンと来ないかもしれません。日本語の文章って、起承転結とか言われることもありますが、かなり自由度が高い印象があります。国語の授業でもあまりルールとかを教えられた記憶がないです。
しかし英語には明確に抽象⇒具体のルールがあって、エレメンタリースクールの頃から叩き込まれるのだとか。それが本当かどうかはわかりませんが、言われてみれば英語の長文って綺麗に構造化されていることが確かに多いです。
主張:温暖化は対策しないとヤバイ
理由1:農業や酪農に大ダメージ
理由2:海水面上昇で土地が沈んじゃう
理由3:感染症が広がる恐れも
理由4:夏の熱波で死者数が増えてる
結論(繰り返し):世界で協力して温暖化をなんとかしよう
みたいな。この構造だと主張がわかりやすいですよね。
ビジネスの資料でもこの考え方が入り込んでいて、「結論から先に書け」と指導を受けたりします。実際、結論先行で書いた資料の方がうまくいく感触が強いです。
で、始めに小説は別とか言っときながらアレですが、これって小説に活かせるところもあるのかな、と僕は思っています。そりゃ味がある文、綺麗な文を作る人はそれで充分かもしれません。が、僕はそういう面はまだまだ未熟なので、文の順番でクオリティが上げられないか、はやっぱり気にするところです。
1つ例を見ていきましょうか。おなじみ、『走れメロス』です。ほんとはもっと文があるのですが抜粋しています。
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・メロスは激怒した。かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。
・メロスは、村の牧人である。
・十里はなれた此のシラクスの市にやって来た。
・市全体が、やけに寂しい。何かあったのか。
・「王様は、人を殺します。」
・「人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。きょうは、六人殺されました。」
・聞いて、メロスは激怒した。「呆れた王だ。生かして置けぬ。」
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これ、いきなり「メロスは激怒した」で始まるわけですが、読者の頭の中には「なんで激怒してんの?」の疑問が浮かぶと思います。で、そのあとメロスが誰で、今どこにいて、王様が云々という理由がでてきて、「なるほど」となるわけですね。
では最初の「メロスは激怒した」の文がなかったらどうでしょう。村の牧人であるとか、シラクスの市だとかいう説明が、「だから何?」みたいになりませんか。最初の文があるだけで、そこら辺を読んだ時の感覚に大きな差が出てくると思います。
抽象から具体、という表現だけだとちょっとしっくりこないかもですが、
・結果⇒原因
・行動⇒理由
みたいに書く順番を逆にして、最初に不十分な情報を先行させ、あえて読者の頭にクエスチョンマークを作っておく。そして続く文でその答えを与えていく。この構造が綺麗にできていると、読み手にとってあまりストレスのない文章になるのかなと思っています。小説の評価で、文に引きずられていく、みたいなことを聞くこともありますが、これは文そのものというよりは、構造によって生み出されているものなんじゃないかと。
このエッセイも、その構造はかなり意識して書いています。この話もそうですし、これまで書いてきたいくつかも。もし読みやすいと思っていただけているなら、組み立てがうまくいっているということなので、うれしいですね。これからの作品でも、そのあたり上手くやっていきたいです。
さて、そろそろ長編作りに本腰を入れていこうと思いますので、またしばらくエッセイの更新が途絶えるかもしれません。まあ何か言いたくなったらまた気まぐれに更新するでしょうし、Twitterでものほほんとやっていますので何かあればそちらまで。作品も早めに届けられたらいいなあと思うので、そちらも楽しみにしていただけたら嬉しいです。
ではまた。
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