キューピッドと歩兵銃

うにおいくら

キューピッドと歩兵銃

第1話書き込み

 それはあるネット上の相談サイトのたわいもないコメントだった。


恋に破れた女子高生がやけくそでネット上に投稿したコメント。

もう少し正確に言えば誰かに聞いてもらいたくて投稿したコメント。


それが始まりだった。




「思わせぶりな態度をとられ続け、両思いだと思っていたのにフラれました。

同じクラスになってから席が隣だったので仲良くなりました。その人は、私に思わせぶりな態度ばっかり取ってきました。

それで、私はますます彼の事が好きになって行きました。


なので私は、その人に告白したんです。

しかし、

『仲のいい友達でいよう』

と、ありがちな言葉でフラれました。初恋なのに。

何とか彼をこちらに振り向かせる方法なないでしょうか? このままでは最悪な高校生活になってしまいそうです」




というモノだった。もっと正確に言い表すと未練たらしい愚痴を世間にまき散らしているだけとも言えた。




 それから数時間たった深夜、彼女は自室でPCを立ち上げた。少しは冷静になったが、未練は尽きない。


――明日が休みで良かった。でも月曜日どんな顔をして学校に行けばいいんだろう――


そんな事を考えると気が重くなってきた。冷静になった分、後悔も感じ出していた。



 彼女はマウスを操作して自分の書き込んだページを開いた。そして自分が書き込んだコメントを見た。

そこには彼女のそのほとんど愚痴のような悲痛な叫びに呼応する数多くのコメントが寄せられていた。

「諦めて他を探しなさい」という書き込みが大半だろうと思って読んでみたが、大方のコメントは同じ高校生からの「頑張れ!」的な応援メッセージだった。

「諦めるな!」とも書かれてあった。

 彼女はその一言一言が嬉しくもあり、また他人事のようなその台詞の責任の無さに少し腹立たしくもあった。乙女心はややこしい。


 その沢山の同世代のアドバイスの中、彼女はたった一言だけのコメントに目が吸い寄せられた。


「あなたの願いを叶えてあげます」


彼女はそれを見た瞬間

「ふざけんな!」

と直感的に思った。そして怒りもこみ上げてきた。私は真剣だったのだ。

「こいつはどうやって見ず知らずの私の願いを叶えられるというのだ!」

 こんな茶化され方をされたくない。そう思った……が、その一言はジワジワと彼女の気持ちをぐらつかせていった。


――もしかして私の知り合い?――


――いや、そんなはずはない。ここに書き込みしたことは誰も知らないし、そもそも私が告白した事さえ誰にも言ってないのに――


――もしかして私が告白したあいつ? 彼が私のコメントを読んで気が変わったとか?――


――そんなはずはない。こんな手の込んだ事をする必要もない。こんな妄想まで浮かぶなんて、脳が沸騰しているな――


そういいながら実はこの妄想は案外長時間に渡って脳内をスキップしながら駆け巡っていた。


――じゃあ、誰?――


 暫くその文字を見つめ続けた彼女は迷った末、結局そのコメントに

「お願いします」

と返した。どうやら疑心暗鬼の心の葛藤は未練に軍配が上がったようだ。





 背後で音がした。人の気配もした。


彼女は恐る恐る振り返った。



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