20年後のラブレター
第12話WEBページ
麻美は朝から自分の部屋でパソコンを触っていた。今日は土曜日で高校は休みだった。
彼女は学校で教わった知識を最大限に活用してホームページを作っていた。
内容は
「キューピッドの恋の悩み相談室」
というライトノベルのタイトルにありそうな名前のサイトなのだが、これをベースにキューピッドへのお願いを取りまとめるサイトにしようと考えていた。
勿論このサイトの主催者はキューピッドという事にしてある。まさか、ユーザーも本物のキューピッドが管理者とは思わないだろうが、サイトの趣旨としてはこれが一番分かり易いだろうと麻美は思っていた。
事実、本当にキューピッドが願いを叶えてくれるのだから嘘偽りは微塵もない。
HPの表紙には彼女がイラストレーターで描いたキューピッドの絵が恥ずかしげもなく鎮座していた。
彼女は今そのサイトのデザインの最終チェックをしていたところだった。
机の上のスマホが鳴った。
彼女はスマホを取り上げた。
「はい」
「麻美か?」
「うん」
電話の相手は高畠翔だった。彼には見事にフラれた麻美だったが、彼がラブレターを女子高生からもらう現場を目撃した事で何故か気分的には楽になっていた。と言っても二・三日は同じ教室にいながら顔もまともに見れなかったのだが。それはどうやら彼には悟られなかったようだ。
「掲示板できたよ。メール送ったからそこへリンク張ったらOKだよ」
「ありがとう」
「バナーからのリンクの張り方分かる?」
高畠翔が心配そうに聞いてきた。
「うん。それはだいじょうぶだよ」
麻美は明るい声で答えた。
「でも麻美がホームページを作るとはね」
スマホの向こうの高畠翔の声はとても優しかった。
「うん。お兄ちゃんにも教えてもらったしね」
「ああ、そうかぁ。お前の兄貴、WEB会社に勤めているんだっけ?」
「うん。WEBデザイナー。だからHTMLとイラストは兄貴に手伝ってもらったよ。でもCGIの事は分からない訳ではないんだけど今一つ自信がないみたい」
「そっかぁ」
「まあ、ドローソフトやビルダーの使い方は詳しいけどね」
「そりゃそうだろう。一応プロなんだから」
高畠翔はスマホの向こうで笑った。
「でも、翔がプログラムに強くて助かるわ」
「まあな」
「この掲示板のプログラムも自分で組んだの?」
「まあ、そうなんだけど、昔作った掲示板のプログラムをちょこっといじくって作り直したんだよ」
「そっかぁ……凄いな。人は見かけによらないね」
麻美は素直に感心した。
「うるさい! 最後の一言は余計だ……で、何のサイトを作るの?」
高畠翔は笑いながら聞いた。
「これ?これはねあんたみたいなロクデナシにフラれた人が悩みを書き込むサイトだよ」
「なんと悪趣味な……」
高畠翔の呆れた声がスマホから伝わって来た。
「もらったラブレターを読まずに捨てる奴に言われたくない」
「捨てたりはしていない」
「でも読んでないでしょう?」
「う、うん。まあ、読んではいないけど……」
高畠翔は語尾を濁して沈黙した。
「だったら同じじゃん」
そう言いながら麻美は「まだ読んでなかったのか!このバカは!」と心中で毒づいていた。
「そうかなぁ……」
スマホからはあまり納得していない高畠翔の声が聞こえた。
――黒ヤギさんたら読まずに食べた――
高畠翔の声を聞きながら彼女の頭にやぎさんゆうびんの歌詞が浮かんだ。麻美の口元が緩んだ。
「そうだよ。ま、でも今回は助かったよ。これまでの過去の罪滅ぼしにはなったんじゃないのかな?」
「よく言うよ」
「まあいいわ。これからその掲示板を張り付けるから……助かったわ。ありがとう」
「うん。また何かあったら相談してよ。手伝うから」
高畠翔はそう言うとスマホを切った。
彼は麻美をふってからもいつもと変わらない対応で、いつも通りに優しかった。
――本当にこの男だけは何を考えているのか分からんわ――
高畠翔に掲示板のCGIを頼んでおきながら心の中で悪態をつく麻美だったが少しばかりは感謝していた。
そして部屋の中は彼女が打つキーボードの音だけが響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます