第11話反省だけならサルでもできる
「なんなのよ!このへたっぴぃ!」
屋上でキューピッドが正座していた。そして無言だった。それを見下ろす様に麻美が彼の目の前で仁王立ちしていた。
イケメンのキューピッドは見るも無残に打ちひしがれていた。傍らには自慢の三八式歩兵銃が横たわっていた。
「あれだけ外さないって豪語しておきながら何なの?」
麻美は仁王立ちのまま腰に手を当ててキューピッドを見下ろして詰め寄った。
俯いたままキューピッドは消え入りそうな声で
「スミマセン……」
と呟いた。
「射程は何mって豪語していたっけ?」
「3000m」
「今回は?」
「200m」
「あ~ら驚いた。何なのこれは?」
「スミマセン」
更に消え入りそうな声で彼は呟いた。
「私の想いが足りなかったとでも?」
「いえ。そんなことはありません。とても綺麗にピンク色に光り輝いておりました」
キューピッドは俯いたまま答えた。
「じゃあ、なんで外したの?」
「……それは、分かりません」
麻美は少し考えてからキューピッドに言った。
「どうしてくれるの?」
麻美は更に詰め寄った。元々降ってわいたような話なんだから、ここまで言う必要な無いのだが、彼女は嬉々としてキューピッドを詰めているように見えた。
「もう一度チャンスをください……」
キューピッドはか細い声で懇願した。
「信用ならんな」
と麻美は冷たく突き放した。
キューピッドは顔を上げて
「そこを何とか……なんでもいう事を聞きますから……」
と涙目で懇願した。
麻美はキューピッドの瞳をじっと見つめて
「なんでも?」
と聞いた。
「……はい」
キューピッドは動揺して完全に我を失っていた。
「じゃあ、私をキューピーちゃんの秘書にして。これからキューピーちゃんの愛の狙撃は私を通してやるように……良い?」
と言った。
「え?それは……」
キューピッドの瞳は大きく見開かれて、それ以上の言葉は失われたように続かなかった。
「なによ。だったらネットで全世界にこの事をバラスわよ。ネタにして小説にしてネットに流すわよ」
「いや、それだけはご勘弁を……」
「だったら私を秘書で雇いなさい。分かった?」
「……はい……」
キューピッドはなすすべもなく頷いた。そしてこれからは彼女にキューピーちゃんと呼ばれることになった。
「じゃあ、これからネットで恋の悩みを見つけても気安く安請け合いしてはダメよ」
「え?」
「当たり前でしょ?そんな腕前で安請け合いしてどうするの?更に恥をかくだけよ。違う?」
「……はい……その通りです……」
今のキューピッドは何も言い返せない。
「本当に、まともに弾も当たらないようなキューピッドなんてお話にもならないわ」
というと麻美はふんと鼻で笑った。
「……なんでだろう……外すわけないのに……あれだけ強い気持ちがこもった弾丸だったのに……」
キューピーはいまだ納得できない様に呟いた。
「ま、修行が足りないという事よ。これから初心に帰って特訓ね」
「はい……」
「じゃあ、今日は解放してあげるわ。でも私が呼んだらすぐに飛んでくるのよ。分かった?」
「それは……」
「なに?このへたっぴが!なんか文句ある?」
「いえ……判りました……」
完全に自信を無くしたキューピーは力なく、返事するしかなかった。
そしてのそっと立ち上がると、肩を落としたままトボトボと出口に向かうと静かに消えていった。
それを見送った麻美は
「だってねえ……あんなの見たら想いなんて弾丸に込められる訳ないじゃないの……本当に翔の奴と来たら……最低だわ」
と呟いた。
そして
「イケメンなキューピッドなんて存在するから悪いのよ」
と誰もいない空に向かってそう呟くと麻美は、出口に向かって歩き出した。
どうやら込めたのは高畠翔への想いではなく、このイケメンキューピッドへの想いだったようだ。
「さて、これから恋に迷える子羊たちを救わなくっちゃ。それにイケメンのキューピーちゃんに悪い虫がつかないようにちゃんと見張らないとね」
空はそこまでも青く澄み切っていた。
――絶好の告白日和なのにな――
階段を下る前に屋上で振り返った麻美はそう呟いた。
どうやら彼女は、新しい恋に目覚めたようだ。
了……多分^^;
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