第10話くらえ!愛の弾丸

「ちょうど見かけたから……二人から貰っていたね」


「え? うん、まあ……ね」

 彼は更に驚いたが、麻美が何を聞きたいのか?何が目的でそれを聞いてくるのか全く分からずに戸惑っていた。


「なんで読んであげないの?」

麻美は迷いに迷った挙句、気持ちを抑えきれずに高畠翔に聞いた。



「え?」


「ラブレターでしょ。なんで読んであげないの?」


「そんな事、お前に何の関係もないだろう?」


「関係ないけど、彼女たちはそれをどんな思いで書いたのか? 考えた事ある?」

麻美の声は大きくはなかったがしっかりとした声だった。そして視線は少し怒りの色を宿して高畠翔の瞳を貫いていた。


「なんでもいいだろう。そんな事は。お前には関係ない」

そう言うと高畠翔は麻美から視線を外した。


「関係ない事はないよ。私もそうだけど、少しは相手の気持ちも考えてあげてよ」


「勝手に好きになってきたんだろう?一々対応なんかしてられないよ」

と吐き捨てるように高畠翔は言った。


麻美は高畠翔のその態度、仕草をじっと見つめていた。それはまるで科学者が実験体を見るような表情だった。


「あんた、人を好きになった事ないでしょ」

麻美は聞いた。


高畠翔の瞳が一瞬大きく見開かれ

「うん。ないな……ないと思う」

そう言い直しながらも、まだ少し考えているように目を伏せた。


「あんたも一度、人を好きになったら分かるわ。それがどんなに切ないものか」


「ああ?そんなもんは知りたくないよ。大体、俺が惚れるよりも先に相手が惚れてくれるからね。お前だってそうだったじゃん」


「そう。私もさっきの彼女たちと一緒。あんたの言う通りだわ。でも一度自分から惚れてみる事をお勧めするわ」


「ふん。気が向いたらね」


「……で、話はそれだけ?」


 彼は麻美が何故こんな事を聞いてくるかは分からなかったが、話はこれだけのようなので少し安堵した。そしてこのウザい状況から早く脱出したくなった。


「うん」


「じゃあね」

 高畠翔はそう言うと麻美の横を通り抜けて家に向かって歩き出した。

麻美はゆっくりと振り返り彼を見た。同時にピンク色した弾丸か高畠翔目掛けて迫って来るのが見えた。撃ち抜く!!と思った瞬間、それは彼の頬をかすめて壁に当たった。

壁がピンク色に一瞬染まって、麻美にハートマークを送り出した。


「え?」

麻美は思わず声を上げた。屋上ではキューピッドも唖然としていた。

「え?」


「なに?」

高畠翔は怪訝な顔で麻美を見た。


「ううん。なんでもない」

麻美は慌てて首を振った。


高畠翔は何も言わずに家の中へと入って行った。


麻美は呆然と彼を見送った。

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