第5話愛のスナイパー
――これのどこが幼気ない撫子だ?――
キューピッドはそう思っていたが、それは口に出さなかった。そう見た目よりずっと大人のキューピッドだった。包容力だけはありそうだ。
「スナイパーなんでしょ? スナイパーならスナイパーらしくもっといかつい恰好で来たらどうよ。眉毛だってもっと太くて吊り上がってなくちゃおかしいじゃない!! 台所から味付けのりを持ってきてあんたの顔に張り付けてあげるわ!! それでこれからはゴルゴって呼んであげようか? 」
「いや、それは違うだろう? それは本物のスナイパーだろう?」
もう麻美の話はまったくもって支離滅裂になってきていた。
「ふん。いいわよ。だったらあなたが高畠君を打ち抜くところを見せてよ」
「え?!」
思わぬ反応にキューピッドは驚いた。それは表情にも一気に表れた。
適当にこの場をごまかしてサッサと退散しようかと思っていた矢先に麻美はとんでもない事を言い出した。
「明日、狙撃するんでしょ?」
「いや、そうだけど狙撃って……」
「違うの?」
「違わないけど」
「じゃあ見せてよ」
麻美はそんな銃で大好きな高畠翔が打ち抜かれるのはどうしても許しがたい行為だった。
しかし言われてみれば矢で射抜かれるのも似たようなものなのだが、何故か銃は許せなかった。
見るからに幼児体形の羽根が生えた天使のようなかわいいキューピッドにハート形の矢じりで打たれるのであれば許せるが、こんな黙っていたら悪魔にしか見えないようなイケメンに狙撃銃で撃ち抜かれるのどうも許せない。
本当に撃ち抜かれるのではないと分かっていてもその情景が気に食わなかった。
「いや、それは……」
さっきまでとは違って思わに強気の態度にキューピッドも戸惑っていた。
「何よ。ダメなの?」
「いや、かまわないけど……今から?」
「こんな時間から出かけたらお母さんに叱られるわよ。だから明日よ。明日。分かった?」
「うん。まあ、それは分かったけど……」
「何よ。なんかあるの?」
「いや……こういうのはあんまり見せるもんではないんだけどなぁ……」
「ダメ?」
麻美は上目遣いにキューピッドを見た。
人間のそれも少女と言っていいい麻美に媚びを売られたからと言って、判断が変わるようなキューピッドではないが、彼はこの少女の事を気にかけてはいたようだ。この短時間の間に、何かとキューピッドの琴線に触れる少女であったのは間違いなかった。
キューピッドは天井を見上げて何かを考えているようだった。
「高畠翔君ねえ……ふむ。なるほど……明日かぁ……」
そう独り言のように呟くと
「明日、朝早いけど大丈夫?」
「え?良いの?」
「うん良いよ。でもちゃんと起きないと連れて行かないよ」
「うん。ちゃんと起きる! ありがとう!!」
そういうと麻美は目を輝かせてキューピッドに抱きついた。さっきまでの怒りはどこへ行ったんだろう?
今まで色々な人間と話をしてきて矢を放って狙撃銃を撃って男と女を結び付けて来たが、抱きつかれたのは初めてだった。さすがの愛の神様もこれには驚いた。
「分かった! 分かったから……明日ね」
そう言って麻美の肩に手を置いて抱きついた体を離すと、キューピッドは麻美の顔をじっと見つめて
「なんでその彼氏が好きになったんだ?」
と聞いた。
「最初は何とも思ってなかったの。でもね、話も面白いし、何かを気を使ってくれるしとても優しくしてくれるから『もしかしたら私に気があるんじゃないのか?』と思ったの。メールも毎日やり取りしていたし……。そうしたら彼の事が気になりだして……」
「ふ~ん。それで告白したら、ふられたと……」
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