第48話告白

 夕方、夕子の病室に倫太郎の姿はあった。

いつものようにベッドの脇に座り倫太郎は学校であった今日の出来事などを夕子に話していた。


「だからさ、みんな夕子が退院するのを待っているよ」


「うん。ありがとう」


「早く元気にならないとね」


「うん……」


「……どうした? 今日は、なんか元気ないね」

 病室に入ってしばらくしてから、いつもとは違う夕子の雰囲気を倫太郎は感じ取っていた。

はじめは気のせいかと思ったが、どうやらそうでもなさそうだと。

 彼が敢えて直ぐに聞かなかったのは、その原因が彼が聞きたくない理由しか思い浮かばなかったからだった。

しかし、彼は言葉にした。


 夕子は意を決したように一度頷くと、倫太郎の顔をまっすぐ見つめて口を開いた。

「うん……倫ちゃんに言っておかなきゃならない事があるの」


倫太郎は無言で頷いた。


「私の病状は相当悪いみたいなの……あと少ししか生きられないかもしれない……」


「え?」

 耳障りのいい言葉は出てこないだろうと思っていたが、残された時間が余りないという言葉は予想してはいなかった。


「それってどういう事?」

倫太郎は我が耳を疑った。


「今まで黙っていたけど、私の病気はもう治らないみたいなの。先生には『卒業式まで頑張ろう』って言われたの」


「卒業式って……」

倫太郎はそれ以上言葉が続かなかった。


「入院した時に倫ちゃんが『ずっと一緒に居たい』って言ってくれたのがとても嬉しかった……でも返事が出来なかったのはそのせい。いつまで倫ちゃんと一緒に居られるか分からないから返事が出来なかった……」


 夕子はそういうと毛布を握りしめて俯いた。手の甲に涙が数滴落ちた。彼女はここまで話をするのが精一杯だった。もうこれ以上は涙を我慢できなかった。

キューピッドには倫太郎は夕子を受け止めてくれると聞かされてはいたが、やはり不安だった。


 倫太郎はどう声を掛けて良いのか分からずに夕子の震える肩を見ていた。彼自身、頭の中が真っ白になっていた。しかし我に返ったように顔を上げるとそっと夕子の手を取って両手で包むように握った。彼は必死に自分の感情をコントロールしていた。


「夕子。お前に残された時間が少ないんだったら、その少ない時間の中で少しで良いから俺と一緒に居てくれないか?」


「え?」

夕子は涙があふれた目で倫太郎を見た。


「お前がどんな病気でいつまで一緒に居られるか分からないけど、少しの時間でもお前といたい」


「うん」


「だから、俺と付き合ってくれ」


「本当にいいの?」


「うん。少しでも一緒に居たい」


「ありがとう……でも……さっきから残り少ない少ないって言い過ぎ……そんなに早く私に逝ってほしいのか?」

と夕子は涙をいっぱい溜めた目のまま倫太郎に言った。


「いや、そういう訳ではないから……というか、そこを突っ込む?……だって残り少ないっていうから……あっ……」

と言って慌てて倫太郎は自分の口を押えた。


「また言った」

と夕子は言うと倫太郎に抱きついた。


「大好き。ありがとう」

夕子の頬は涙に濡れていたが明るい声だった。


「うん」

倫太郎は夕子の身体を優しく抱きしめた。


「本当は怖かったの……」


「ごめんね。気が付かなくて……」

倫太郎は彼女を抱きしめながら片手で優しく頭を撫でた。


「ううん。良いの。こうしているだけで、もう幸せだから」


「うん」

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