第43話お見舞い
週末になった。
夜遅めに約束通りキューピッドは麻美を連れて彼女の病室を訪れた。
この時間は他の病室は消灯している時間だった。
「今、良いかな?」
というキューピッドの声にベッドの上で本を読んでいた夕子は顔を上げた。
キューピッドの後ろには麻美が居た。
「こんばんは」
キューピッドの陰から出ると麻美があえて明るい声で挨拶をした。
「こんばんは。ごめんね。こんなところまで来てもらって。でもとっても嬉しいわ」
と明るい表情で夕子は答えた。
「ううん。全然。気にしないで。私も会いたかったんです。夕子さんですよね?」
そう言って麻美はベッドの傍に歩み寄った。
「はい。そうですよ。あなたの名前は……聞いていいかな? 」
「あ、すみません。私は麻美って言います。もしかして夕子さんは三年生ですか?」
麻美は目ざとくベッドの脇にあった受験用の参考書見つけて聞いた。
「そう。もうすぐ受験なの」
そういうと夕子は軽く笑った。
「えー、入院しても受験勉強ですかぁ?凄いなぁ。私だったら漫画しか読まないと思いますけどね」
麻美はキューピッドから前もって夕子の事は聞かされていたのである程度は好意的に見てはいたが、会った瞬間にとても気に入っていた。夕子の持つ人を優しく受け入れる雰囲気が本当に心地よかった。
麻美のようにズケズケと人の領域に入っていける人間にとって、それを優しく迎え入れてくれる人は居心地のいい人だった。
「そっかぁ。でも私も漫画は読むわよ」
「ああ、そうなんだ。それを聞いて少し安心しました。私は二年生だから受験勉強はまだ先の話ですけどね」
とベッドの横の本棚の参考書の類を見ながら麻美は言った。
「二年生かぁ…… でもあっという間よ。受験なんて」
「そうなんですかぁ」
と残念そうに言う麻美。
「もしかして勉強嫌い?」
「はい。嫌いです……と言うか苦手ですね」
麻美は顔をしかめて答えた。
「そうなんだぁ。良かったら教えてあげよっか?」
「本当ですかぁ? 助かります。嬉しいなぁ」
麻美の表情が一気に明るくなった。彼女は本当に勉強が苦手のようだったが、実はいう程嫌いではなかった。ただ単に勉強が面倒くさいだけだった。だから教えてもらえるのであれば、案外それは歓迎だったりした。
出会ってから数秒でこの二人は親しい友達になったようだ。
キューピッドはこの会話を呆れたような表情で黙って見ていた。
――この分なら麻美も余計な事は言わないで済みそうだ――
とほっと一息ついていた。
麻美はベッドの横の椅子に座って
「私の作ったWEBサイト見つけてくれてありがとうございます」
とお礼を言った。
「ううん。余計な事を書き込んでゴメンね」
そう言って夕子はノートパソコンを立ち上げて、麻美が作ったWEBサイトを開いた。
「いえいえ。そんな事はないです。みんな掲示板を見て心配しています」
「本当ねぇ。誰も見ていないと思っていたんだけど、案外あのサイトって見ている人多いのね」
と夕子は感心したように言った。
「そうなんです。作ったばかりなのに案外みんな見てくれているんです」
それもこれもみんなキューピッドのお陰だ。麻美は心の中で少しだけキューピッドに感謝した。
「もしかして誰も見ないと思って書き込みましたぁ?」
と麻美が聞いた。
「ごめんなさい。実はそうなの」
夕子はあっさりと認めて頭を下げた。
「え~それは、ひっど~い!」
と麻美は笑いながら言った。
「ごめんなさい」
と夕子も笑いながら頭を下げた。
「いえいえ。良いんです。書き込んで貰えただけでも嬉しいです」
と麻美は笑顔を見せたが、一呼吸おいてから真顔で
「でも、なんで彼と付き合わないんですか?」
と唐突にここで直球で聞いた。
キューピッドの顔が一瞬で凍り付いた。この流れでこの質問が出るとは流石のキューピッドも予想していなかった。やはり麻美の辞書にはTPOという言葉は存在しない。
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