第14話書き込み
キューピッドはこれ以上の反論を諦めて黙ってモニターを見つめはじめた。
するとブラウザがリフレッシュされて、さっきまで何も書き込まれていなかった掲示板にコメントが書き込まれていた。
「え?」
モニターを見ていた麻美は驚いて振り返りキューピッドに聞いた。
「これはあんたが書き込んだの?」
「まさか! 僕がここに恋の悩みを書き込んでどうする?」
キューピッドは呆れ気味に麻美に答えた。
「あ、そうか! じゃあ、これは本当の書き込み?」
「そうだよ」
「早や」
麻美はキューピッドを見直した。
少なくとも神様である事は認めてあげても良いと思った。
「当たり前だ」
キューピッドは胸をそって自慢げに言った。
「少し尊敬したわ……」
そう言うと麻美はそのメッセージを読み始めた。
「なになに……卒業して20年ぶりの高校時代の同窓会に出席して、当時大好きだったマドンナと出会いました。(一度見事に玉砕しましたが……)時の流れは残酷でお互い20年の月日を感じるような風貌になりましたが、彼女はやはり美人です。そして彼女はバツイチで今独身でした。僕も2年前に離婚して今は独り身です。
それ以来、何度かこの彼女と食事に行きました。とっても話が合うし、高校時代よりも彼女は優しくなってました。お互い歳を取って丸くなったのかもしれません。
不思議な事に会っているうちに、20年も経っているのに高校時代と同じように若い頃の彼女とあまり変わりがないように見えてきました。高校時代に戻ったような錯覚さえ覚えます。
でも、今更、彼女に付き合ってくれなんて言えません。こうやって飲み友達で充分だと思っています。
人生で同じ人に二度もふられたくありません(^^;)
今はこの関係が少しでも続けば嬉しいです。
また明日もデートします。楽しみです」
「……ってなにこれ?ノロケ? それもオッサンの……」
麻美は読み終えた後に、とんでもないものを見てしまったかのように呆れていた。
「多分」
キューピッドは苦笑いしながら答えた。
「なんで初めての書き込みがこんなオッサンなの? 第一マドンナっていつの時代よ?」
麻美は声を荒らげて叫んだ。
「それは知らん」
キューピッドは麻美の感情の行き場を計りかねていた。
「もっと若い子を選べなかったの?この世の中には恋に悩む多感な乙女が腐るほどいるというのに、なんなの?この賞味期限を遥か昔に過ぎ去ったオッサンは?」
「いや、まだ30代だぞ……それは言い過ぎだろう?」
「高校卒業して20年なんて40前じゃないの! アラフォーよ! ア・ラ・フォー!! 賞味期限どころかすでに廃棄されていてもおかしくないわ!」
「そ、そこまで言うか……」
キューピッドは麻美をなだめようと思っていたが、どうしていいのか分からなかった。
それほど麻美の言葉には怒気が含まれていた。
「なんでそんなに怒っているの?」
キューピッドは恐る恐る麻美の顔色を伺うように聞いた。
「え? ……怒ってる?」
麻美は意外な顔をした。
「怒ってはいない……でも私こういうの嫌い。付き合うか好き合わないかはっきりしないのは見ていてイライラする。そんなに若い頃と見栄えが変わらないんだったらさっさと付き合えばいいのに……」
「まあ、多分に想い出補正がかかっているからねぇ……本人もそれは気が付いている様だけど……」
キューピッドは麻美の感情の起伏に戸惑いながらも、近頃の女子高生はこんなものかと納得していた。
「そうなんだ……でも、何かイラつく……ここまで書いたら普通は『より戻します』とか『再度挑戦します』とか『今度こそマドンナをものにします』でしょ? 何なの? この触らぬ神に祟りなし的な態度は? 男らしくないわ!」
と怒りは収まったものの麻美は吐き捨てるように言った。
麻美はこういう煮え切らない男が大嫌いになったようだ。彼女がそうなった原因の一つは高畠翔の存在である事は間違いないだろう。
「付き合う気が無いのにダラダラとデートを続けるなんていい加減すぎるわ」
まだ言い足りない様だ。
「そうかなぁ……まあ、お互いバツイチだからそんな関係でも良いんじゃないの? 色々としがらみもあるだろうし……」
とキューピッドはこれ以上この書き込みには興味がないようにベッドに座り込んだ。
「そっかぁ、同じ人に二度もフラれるのは嫌だって書いてあるもんね。それだけは分かるわ……その気持ち」
麻美は自分が高畠翔に玉砕した事を思い出しながら、もう一度掲示板の書き込みを読んだ。
勿論、彼女も高畠翔相手に再度玉砕する気も告白する気も全くなかった。そう思うとさっきまでのイライラが嘘のように治まった。
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