~残された時間・I never lay down under my distiny~

第31話ユウコ




「私には今好きな人がいます。その人も私の事を大好きだと言ってくれます。とても優しい人です。

でも付き合えません。私はその人の気持ちに応える事ができません。


とても苦しいです。


本当はできるだけ早く、彼の前から消え去りたい……」


ある日、キューピッドの掲示板にこんなコメントが書き込まれた。


書き込み主のハンドル名はユウコと書かれていた。


「う~ん。何なんだろう? 親の反対でも受けているのかな? それとも彼氏以外の人を好きになっちゃったとか……」

麻美はこのコメントの真意を測りかねていた。余計な妄想は膨らむがこのコメントからなんとなくだが違和感を感じていた。


――どう考えても相思相愛だよねえ。付き合えない理由ってなに?――


「ねえ、キューピーちゃん……居る?」

とモニターを見つめたまま麻美はキューピッドを呼んだ。


「どうしたの?」


いつものように麻美のベッドに座ってキューピッドは現れた。


「これ、このコメント見てよ」

と麻美はモニターから目を離さないで背中越しにキューピッドに言った。


「なに?」

そういうとキューピッドは立ち上がって麻美の座っている椅子の背もたれに手を置き、彼女の肩越しにモニターを覗き込んだ。


 柔らかな金髪が風もないのに揺れて、甘い優しい香りが麻美の鼻をかすめていった。

その香りにつられて麻美はモニターを覗き込むキューピッドの横顔を見つめながら

「このコメントを読んでいると、とっても切ない気持ちになっちゃうの」

と言ってモニターから離れた。


 キューピッドのその横顔は甘い香りとは裏腹に徐々に厳しくなっていった。


「このなぁ……」

と、ひとこと言葉を発して黙ったままモニターをじっと凝視するキューピッド。

麻美はキューピッドの次の言葉を待っていたが、彼は黙ったままだった。我慢しきれなくなった麻美はキューピッドに聞いた。


「この娘がどうしたのよ?」


 少しイラつきながらも麻美は愁いを含んだキューピッドの横顔を不思議な思いで見ていた。


「うん……」

 とだけ応えてキューピッドは眉間に皺を寄せてモニターから目を離さなずいたが、ふぅっと息を吐いて天井を見上げた。


「なに?そのため息は?」


「残念ながら、この娘の願いは叶えてやれないなぁ……」

そう言って麻美の顔を横目で見た。


「どうして?」


「どうしてって、消え去りたいなんて僕には関係ない話だよ」


「そこじゃないでしょ!!」

麻美はコメントを額面通り受け取ったキューピッドに更にイラつきながらなじった。


「そもそも想いを寄せる人と一緒になりたいなんて書いてないじゃない。僕の仕事は人を結びつける事だよ」

そういいながらキューピッドはPCのモニターから離れ、いつものように麻美のベッドに腰を下ろした。


「でも相思相愛って書いてあるじゃん」

麻美は椅子をくるりと回転させてキューピッドに対面した。


「書いてあるけど、同時に付き合えないっても書いてあるでしょ」


「そうだけど……でも本当は付き合いたいって思っているのは分かるでしょ? キューピーちゃんには何とかできないの?」

と苛立たし気にキューピットに聞いた。「私が聞いているのはそんな事ではない!!」と大きな声でなじってやりたかった。



「なんでか……か」


「うん。どんな理由でこんなことを書いたか、キューピーちゃんには分かるんでしょう?」


「ああ……判るよ……」


「それって何よ?」


「この娘……あと少ししか生きられないよ」

キューピッドは麻美の追及に観念したように真実のみを答えた。彼なりに麻美に気を使って答えをはぐらかしていたのだが、それは意味のない行為だった。

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