第27話 崩壊②
「……ははっ。いきなり何を言ってるんだよ」
やけに神妙な口調で加々爪が言うものだから、僕も危うく引っかかる所だった。危ない危ない。
だって、白鹿凛子は僕の大切な後輩であって。
誰でもなく、本人が証言していて。
……もし、加々爪が正しのならば、白鹿はこの数か月に渡って僕に嘘をつき続けたことになる。
そんな事をして、白鹿になんの意味があるのだろうか?
「加々爪。白鹿は間違いなく僕らの後輩だぞ。だって、僕は白鹿が僕らの制服を着ていたのを見たことがあるし」
自信満々に僕は答える。思い出すのは図書館で出会って二日後の月曜日。
あの日――僕と花音は間違いなく白鹿の制服姿を目撃した。
『……それを見たのって、どこ?』
「え、校門前だけど?」
『実際に白鹿ちゃんが授業を受けている姿は見たことは? 学校の廊下で出会ったことは?』
「……ないけど。でも、学年が離れているから別にそこまでおかしいことでも――」
『おかしいよ。どう考えても。普通の人ならまだしも、彼女の肌と髪は目立ちすぎる。あんなインパクトのある子なのに校内で見たことないということは、それは同じ学校にいないという何よりの証拠だよ。太一君は白鹿ちゃんを普通の女の子扱いし過ぎだって』
「う」
僕は言葉を詰まらせる。確かにあの白髪はかなり目立つ。でも――
「…………いや、間違いなく白鹿は同じ学生だ。白鹿は学校の話をするのを嫌がっていたから、もしかしたら保健室登校あるいは不登校なのかもしれない」
認めたくなかった。僕は必死に白鹿が後輩である可能性を考える。
別に白鹿が嘘をついた事についてはどうでも良かった。何らかの事情があって嘘をついたのなら、誰も迷惑していないし咎めるつもりもない。
問題は彼女の行動力である。
出会って二日後に僕らと同じ制服を調達して、同じ学生だと勘違いさせるために校門前で待つか?
――明らかに常軌を逸した行動であった。
『いや、それはあり得ないよ。間違いなく白鹿ちゃんは私らの後輩じゃないって』
「証拠はあるのか?」
『うん。あるよ』
淡々とした口調で答える加々爪。僕は足の震が止まらなくなって、勢いよくソファに腰を下ろした。
『実は私ね、生徒会長を狙っていた時に、接点を増やすために生徒会の書記をやっていた時期があるんだけどね。生徒会新聞とか作る際に書類をいちいち探すのが面倒で、よくスマホで撮って保存していたんだけど――』
ポンとスマホから音がなる。加々爪から画像が送信されたようだ。僕は通話したまま画面を切り替えて、画像を見る。
全一年の名簿だった。クラス分けされていた名簿を一人一人目でなぞって白鹿の名前を探すが――
「…………いない」
どこにも白鹿凛子の名前は無かった。白鹿という苗字は一人だけいたが、名前が異なっていた。
「……まて、この名簿っていつのだ? もしかしたら転校してきた可能性が――」
『今年の六月。生徒会長とは別れたけど、まだ書記はやってるんだよね』
「―――――――」
完全の論破された。僕はもう、加々爪の論破する言葉を持ち合わせていなかった。
『まぁまぁ。そんなにショック受けるなって。何かしらの事情があったんでしょ。今夜でも本人に聞いてみたら?』
「……おう。ありがとな」
加々爪に励まされ、少しだけ元気が出た。
確かにショックだったけど――白鹿のことは嫌いになれない。
僕の知っている白鹿は、
人見知りで、
謙虚で、
仲良くなったら意外と甘えてきて、
優しくて、
可愛くて、
ゲームが上手くて、
よく怯え、
よく笑う、
大切な友達だ。
「……分かった。聞いてみる」
『それがいいよ』
「だから電話切っていいか? すまん」
『いいよー。後で教えてねー』
「ああ。教えてくれてありがとう」
『いえいえ。好感度上がった?』
「爆上げ」
『えへへー。そろそろ乗り換えてもいいんだよ?』
「それはないかな」
いい感じに緩和された空気になったので、ばいばいと別れを伝えた後に通話を切ろうとした瞬間、
ピンポーンと。
インターホンが鳴った。
――ゴトン。
僕は驚いて、スマホを落とした。
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