リミット


 本当は初めから反対だった、と言ってももう遅い。

 俺が不機嫌な理由はきっと分かっているだろうから、あえて黙っている。さっきから両腕を組んだままソファで仏頂面をさらしているのは、そのためだ。

「そういう顔、久しぶりに見た」

 俺を不機嫌にしている当の本人であるお前は、俺の顔をべたべたと触りながら、そんなことを言い出す。

「やっぱり、むっとしてると人相悪いねぇ」

 一重の切れ長。昔から目つきが悪いと言われることは多かった。しかし、多少つり上がり気味のその目は、笑顔を作るとなぜか少し下がり、人相が悪い、とまでは言われたことがない。

 お前は楽しそうに俺の目じりを指先でぐいと下げている。

「どっちにしろかっこいいことはかっこいいんだけどさ」

 ぱっと手を離すと、お前はそんなことを言った。相変わらず、本人を目の前に平気で俺のことを褒める。

 ──やばい、今、思わず顔がにやけるところだった。

 俺は今、怒っている。だからこの不機嫌な表情を崩すつもりはなかった。

 整ったその顔と、姿勢がよくて均整の取れたスタイルで、お前が店に来る女性客を虜にしまくっていることは知っている。それに関してはもう諦めた。どうせお互い女性には全く興味の持てない種類の人間だ。どんなにモテようと、誘われようと、心が動かないことは知っている。だからわざわざ妬いたりはしない。

 しかし、ひきつけるのが女性だけじゃないとなれば、話は別である。

「不可抗力だってば」

 俺の顔にいたずらするのをやめて、お前が呆れたように溜め息をついた。

「それに、さ来週からはまた昼勤務に戻るから、大丈夫だって」

 お前は、2週間前から急病で入院したスタッフに代わり、今まで昼のみだった勤務から、週のほとんどを夜の勤務も掛け持ちすることになった。働いているカフェは、夜はバーになる。バイト時代、元々はどちらにもシフトが入っていたらしいが、色々と考慮した結果、昼のみの勤務になったと言っていた。詳しい話は聞いていないが、多分、そうせざるを得ない事情でもあったのだろう。

 夜の勤務に変わって、まず、一緒に食事をする時間が減った。俺が帰ってくる頃、お前は丁度仕事中である。そして帰宅は俺が完全に熟睡している朝方に近い深夜。もちろん朝食は二人分用意しているが、お前がそれを食べるのは俺が仕事に行ってしばらく後だ。

 夜勤務が入ってから、今までの昼勤務も時間が変わった。開店前には出勤していたのに、今は昼頃出勤する。だから顔を合わせない日というのも多くなった。

 今日は、しばらくぶりにお前の休みと俺の休みが重なって、俺は朝からずっと、お前が起きてくるのを待っていた。

 仕事だから仕方ない、と割り切ってはいた。お互い大人なのだから、そんなことくらいでごねるつもりはない。

 しかし──

 顔が見られないなら、見に行けばいい。そう考えた俺が浅はかだったのかもしれない。

 そのカフェを結構利用してはいるが、バーになる夜に行ったことはほとんどない。

 同僚を誘ってこっそりと店を訪れると、普段より明るさの落とされた照明と、昼間にはない雑多な空気、話し声、それらがどこか新鮮に感じた。

 お前は俺に気付いてほんの一瞬だけ口元を持ち上げ、すぐにいつもの無愛想な顔に戻り、空いたテーブルに案内してくれた。ドリンクメニューを渡され、とりあえずオーダー。頭を下げてカウンターに戻っていく姿を見ていると、同じようにその後ろ姿に視線を送る女性客が何人かいる。

 まあ、いつものことである。

 けれど、観察していると、昼間とは違い、お前を気にする人間があからさまにその視線を向けたり、話しかけたりしているのに気付いた。酒の勢いもあってか、馴れ馴れしく触れているような客もいる。

 いつもは女性相手に妬いたりはしない。けれどこれはさすがに気分が悪い。

 むっとしていると、同僚がおかしそうに笑いを堪えていた。

 なんだ、と訊ねると、意味ありげに笑って、別にー、と答える。

 お前は慣れた感じでそれをやんわりと受け流したりかわしたりしてはいるが──

 注文した酒をあおっていると、同僚が俺の顔をがしっとつかんで固定した。いきなり何なんだ、と言うと、うむ、と訳の分からない返事をしてまるで俺の顔を動かさないように力を入れている。その手を振り払おうとしたら、よけられた。そしてまた、がしりと固定する。

 同僚の視線が窺うように俺の後ろに向いた。俺は同僚の両手をつかみ、思い切り爪を立ててやった。うっとうめいて思わず同僚がその手を離した隙に、俺は振り返った。

 俺の背後、お前が男性客に抱きつかれていた。お前の胸に顔を押し付けるように密着したその客の腕はお前の腰に回されていた。

 アルコールが悪い、と俺は言った。

 同僚が、は? と間抜けな声を出す。

 アルコールのせいで、判断力がない。

 俺はそう言って、席を立つ。足の長さだけは結構自信がある。その長い足を目一杯駆使してお前の元まで数歩でたどり着いた。後ろから同僚の声が飛んできたが、俺は無視した。

 お前に抱きつくその客の肩をつかんで、思い切り引き?がそうとした。お前がぎょっとしたような顔をしたのが分かった。その客の頭がぐいんと反り返り、お前の腰から腕が離れた。

 ちょっと待って、とお前が言った。けれど遅かった。俺がその客に殴りかかろうとしたとき、後ろから同僚がそれを止めた。お前がその客に抱きつくようにその身体を支えた。

 客は、ずるずるとその場に崩れ落ち、支えきれなかったお前もろとも、床に潰れた。

 俺は振り上げた右手を同僚に無理矢理下ろされ、ようやく理解した。

 ──ただの泥酔だ。

 お前、結構嫉妬深いな、と俺を後ろから羽交い絞めにしていた同僚が、呆れたように言った。

 だから、アルコールのせいだ。

 俺は同僚の束縛から逃れ、溜め息をついて、その場に座り込んでいたお前に手を伸ばした。お前がその手を取り、立ち上がる、ぐでんぐでんに酔っ払い、床の上で眠りこけている客が、むにゃむにゃと寝言を言っている。

 お前も少し呆れたように俺を見て、ぽん、と俺の肩を叩いた。それから、無言で俺たちの席を指差した。まるで、ハウス、と言われているような気分になって、俺は肩を落としてとぼとぼと席に戻った。同僚がその様子にくっくっくとおかしそうに笑っていた。

 他のスタッフと一緒にその客を介抱しているお前を横目に、俺は口を尖らせて同僚をにらんだ。

 だから見なきゃよかったのに、と同僚の目は言っていた。

 俺はグラスに残った酒を飲み干して、伝票をつかんで席を立った。

 それが二日前のこと。そうして今日、ようやく顔を合わせて話ができたというわけだ。

 ──つまりは、俺の一方的な勘違いと一方的な嫉妬である。

 それにしたって、あの手はないだろ。酔ってるなら勝手に倒れればいい。わざわざ抱きついて、腰に腕を回すことはない。しかも、あの手、無意識になのか、お前の尻、撫で回してたじゃないか。

「あのねえ」

 お前が仕方ないなあ、という顔をして溜め息をついた。

「普通、男は男の尻撫でても楽しくないよ」

「──俺は楽しい」

「…………」

 お前の目が少し冷たい。だから慌てて付け加える。

「もちろん、お前の限定で」

「いや、そうじゃなくて……」

「どうせ、俺が悪いよ。勝手に店行って、勝手に嫉妬してんだから」

 俺がふて腐れたようにつぶやくと、お前が頬を赤くした。

「──それは、単純に、嬉しいけど」

「嫉妬が?」

「だって、あんまりしてくれないから」

「してるよ」

 俺は不機嫌な顔をしたままお前を見る。

「いつも、嫌になるくらい、してる」

「嘘」

「嘘言ってどうする」

「だって──やきもちやくの、俺ばっかりだと思ってた」

 うつむいたお前がそっと俺を見上げる。

「俺、あんたのこと好きすぎて、何にでも嫉妬するよ。一昨日だって、店来てくれたの嬉しかったけど、あの人とすごく仲よさそうだったし」

「ただの同僚で、友達だろ」

「分かってるけど」

 ランチを食べに行くときに、時々同僚も一緒に店に行く。まだ俺たちの関係がばれていなかった頃は、同僚の態度ひとつで、お前の視線が普段より冷たくなり、ひやひやしたものだ。

「あんた、かっこいいしさ」

「──だから、俺をかっこいいなんて言うのは、お前くらいだよ」

「そんなことないもん」

 お前が口をへの字にしている。

 ──なんだか、さっきまでと逆の立場になりつつある。

「かっこいいよ。だから、一昨日、あんたのこと見てる客、片っ端から店から追い出したかった」

 見られていた記憶はない。お前に向けられていた視線なら、うんざりするくらい見つけてしまったが。

「──それに、本当はちょっと嬉しかったし」

「迷惑かけただけだろ」

 お前はぶんぶんと首を振った。

「ううん。本当は困ってたんだよ。抱きつかれる前まで、やたら馴れ馴れしく話しかけてくるし、酔ってるからこっちの話聞いてくれないし──でも、お客だから」

「あいつが止めてくれなかったら、俺、殴るとこだった」

「──うん、それは、困るけど」

「お前が勝手に触られてるの見たら、頭に血上った」

「──うん」

「人のもんに触るなって思った」

「うん」

「俺が勝手に勘違いしてただけだけどさ、お前は冷たく追い返すし」

「──それは」

「俺、かっこ悪いな」

 右手で頭を抱え込んだら、突然、お前がぎゅうっと抱きついてきた。

「もう、そういうの、ずるいー」

 俺を抱き締めながらじたばたと暴れて、お前は俺を見た。

「そういうかっこ悪いとこ、すごくかっこいい」

「──意味が分からん」

 俺は、なぜお前がそんな風に思うのかが理解できなくて、思わず眉間にしわを寄せた。

 かっこ悪いとことは、かっこ悪いだろ?

「だって」

 お前は俺の両肩をつかみ、身を乗り出すようにして俺に迫った。

「俺のこと守ろうとして殴りかかろうとしたり、俺のものに触るなって言ったり、勘違いしたって思ってくれたり、俺が冷たくしたらしゅんとしたり、そういうの簡単に認めてかっこ悪いって言ったり──」

 必死な顔をして、お前が力説する。

「二日も前のことなのに、まだ、怒ってたり──」

 目の前で、お前の顔が少しずつ赤く染まっていく。俺が黙ってお前を見返しているのに気付いて、急に恥ずかしくなってきたらしい。

「それから」

「それから?」

「嫉妬してくれたり」

「ああ」

「そういうの、全部、俺、嬉しいから」

 俺は両手を伸ばし、お前の腰を抱え込む。俺の膝の上に乗りかかるようになっていたお前が、急に勢いを失くし、身を引こうとした。けれど俺はそれをさせなかった。両手に力を入れて、自分に引き寄せる。

「怒ってるの、かっこいいし」

「そうか」

「それも、俺のためだって思ったら、すごく嬉しくて──」

 どんどん赤くなっていく顔が、羞恥で消え入りそうだった。

「俺のこと、好きなんだって、思うから──」

 答える声まで、どんどん小さくなっていく。俺はさっきよりもお前を引き寄せ、顔を近づける。

 お前の言葉を聞き逃さないように。

「好きだよ」

 お前の顔を見上げて、俺は言った。

「だから、ずるい……」

 俺を見下ろしていたお前が、顔を背ける。

「その顔、かっこいい」

 俺はぷっと吹き出した。

「だから、お前だけだよ、そんなこと言うの」

 お前の方がよっぽど、整って、きれいな顔をしている。人の好みは千差万別だろうが、それにしたって俺を美化しすぎている。

 お前のそのきれいすぎる顔のせいで、俺はいつも、余計な心配ばかりしている。

 ただ見とれているだけならばいい。すれ違いざま、誰もが振り返るくらいに整ったその顔を、本当はあまり好きじゃないお前を知っているのは俺だけだから。

 俺を好きだと言う。

 俺をかっこいいと言う。

 いつも嬉しそうに。

 俺が醜い嫉妬をしても、お前はそれを嬉しいと言う。

 俺自身が嫌になるくらい身勝手な、理不尽なそれを、お前が受け入れる。

「──本当に、かっこいいよ」

 おかしくて笑っていた俺に視線を戻して、お前が言った。ふわりと微笑むその顔に、嘘はない。

 こちらが照れるくらいに、ストレートに、そして恥ずかしげもなく、お前はいつも俺を褒める。

 お前の顔が近付いてきて、俺にキスをした。

「俺には、最高にかっこいいんだよ」

 再び笑顔を見せたお前に、さっきまでの恥ずかしそうな様子は見当たらない。

「やばい」

 俺は、思わずつぶやいた。お前が首を傾げる。

「昼飯作るつもりだったのに──無理だ」

 お前はきょとんとしている。

「今すぐ押し倒したい」

「え」

 さすがに、お前が驚いたように声を上げた。

「煽ったお前が悪い」

「え、え?」

 俺はお前の身体を引き寄せ、俺に向かって倒れてきたお前を受け止め、さっきお前がよこしたキスとは比べ物にならないくらい乱暴に、唇を奪う。

 お前があわあわとパニックに陥っている間に、体勢を入れ替えて、お前をソファに押し倒す。

「ご、ご飯は?」

「あとで山ほど、作ってやる」

 俺はにやりと笑って、真っ赤な顔に諦めの表情を浮かべたお前に、今度は優しくキスをした。


 そんなわけで、俺は今、一人でキッチンに向かっている。

 カウンター越しにソファを見たら、俺がかけてやったタオルケットに包まって、お前がくーくーと寝息を立てていた。とりあえず、脱ぎ散らかした服はまとめてソファの背もたれに引っ掛けておいた。

 ここのところ、2人でゆっくりと食事をする暇がなかったから、昼も夜も、今日はお前が満足できそうなものをいっぱい作ってやるつもりだったのだが。

 まずはスープのために、鍋に洗った手羽元を6本、入れた。水と酒を入れて中火にかけ、時々アクをすくいながらだしが出るまで30分以上煮込む。塩と、しょうゆ少々で調味し、千切りのねぎを散らして完成。

 丸ごとのキャベツは4つ割にして、厚手の鍋に入れ、酒と水を控えめに加え、コンビーフを一缶ぶち込む。蓋をして中弱火でコトコトと煮込んで、塩少々で調味し、キャベツがくたりとなったらオーケー。

 溶いた卵に冷めただし汁を加え、しょうゆ、酒で調味。ついつい買ってしまうおしゃれな蕎麦猪口に鶏肉、しいたけ、かまぼこ、冷凍していた銀杏を入れ、卵を注ぐ。蒸気の立った蒸し器に入れて蒸し、茶碗蒸しを作る。

 かつおの刺身は薄切りにして、にんにく、生姜、ねぎ、大葉をごくごく細い千切りにしたものをたっぷりと乗せて、しょうゆかポン酢で食べる。

 インゲンはゆでて、すりゴマ、砂糖、しょうゆでごまあえにする。

 厚切りの豚ロース肉は塩コショウし、衣を着けてトンカツにする。一枚は普通に、もう一枚は横に切り込みを入れてスライスチーズを差し込み、チーズトンカツ。分厚いそれは千切りキャベツとともに皿に盛り付けると、なかなかの迫力がある。

 あとは昨日のうちに作っておいたピーマンの煮浸しを出した。

 ついでに常備菜を片付けてしまうことにした。またしばらくは食事の時間が合わないのだから、明日からは新しい常備菜を準備し、お前が1人の食事に困らないようにしてやるつもりだからだ。

 こんにゃくとゴボウのきんぴら、赤パプリカと塩漬け玉ねぎスライスのマリネ、鶏レバーの佃煮、鰯の梅煮。どれも小鉢に上品に盛り付けるくらいの量だ。

 食卓にそれらを運んで、俺はソファのお前に声をかける。名前を読んだら、ごそりと身体が動いた。タオルケットの隙間から俺を見て、にこりと笑った。

 かわいいな。

 俺は小さく笑い、頭を撫でた。

「飯だぞ」

「うん」

 お前はタオルケットを身体に巻きつけたまま身を起こした。ずるりとそのままソファを下りて、テーブルの前に座った。

「服、着ろ」

「んー……」

 まだ寝とぼけているらしく、仕方なく俺はソファに引っ掛けていたシャツを手に取った。

「ほら」

 後ろから声をかけると、俺の広げたシャツの袖に億劫そうに腕を通した。ぼんやりとした頭でボタンと格闘しているので、俺はお前をこちらに向かせ、ボタンを留めてやる。するりと肌理の整った肌が隠れた。

「下は」

「いい」

 ノーパン飯……。

 俺は呆れて溜め息をつく。

 お前はタオルケットを下半身に巻きつけたまま、両手を合わせた。

「いただきます」

 練り辛子とウスターソース、それにトンカツソースを渡してやると、お前はそれを独自のブレンドでカツにかけた。さらさらのしょっぱいウスターソースだけでは物足りないし、トンカツソースだけではしつこくて甘い、というのがお前の言い分。俺は皿の端っこに大量の辛子と、少量のウスターソース。一気にかけるのではなく、少しずつつけて食べるのが好みである。

「料理してるとこ、見られなかった」

 ぽつりと、お前がつぶやいた。

「寝てたからな」

「……見たかった」

「そんなにか?」

「うん」

 スープの手羽元は、ほろほろと簡単に骨から外れるくらいに柔らかくなっていた。スプーンでそれをこそげながら、お前は本当に残念そうに言った

「それに──もう、ずっと、見てない」

「ああ、そうだな」

 食事を一緒に取ることができないということは、料理するところを見ることもできない、ということだ。お前は少し、すねるような顔をした。

「料理してるあんた、好きだ」

 今日もいつも通り、白飯を食べる勢いが素晴らしい。

「今のシフトが終わったら、カウンターに張り付いてやる」

「そうだな」

 俺は苦笑した。

 しばらく黙々と食べていた。昼飯抜きだったせいか、普段よりも真剣に食べている。邪魔しないように、俺も黙って食事を続けた。おかわりを繰り返し、テーブルの上の皿が空になった頃に、ようやくお前が満足そうににこりと笑った。

「お腹、いっぱい」

「そうだろうよ」

 相変わらず、異次元にでもつながっているらしいその胃袋に、俺は感心した。

「片付け、やるから、休んでな」

 俺は食器を運び、片づけた。お前は大人しく、上はシャツ、下はタオルケットを巻きつけただけという妙な格好でソファに寄りかかっていた。どことなくうとうとと揺れている。

 片づけを終えてコーヒーを渡してやると、一口飲んでカップをよこした。テーブルに戻すのも億劫なのか、身体を起こそうともしない。俺はカップをテーブルに置き、お前の隣に座った。

「大丈夫か?」

「うん」

「ふわふわして、かわいいな」

 思わず頭を撫でたら、お前が少しむっとした。かわいい、はあまり好きではないらしい。だから、いつもちょっとだけ機嫌の悪いフリをしてみせる。

「眠いなら部屋に──」

 俺が言いかけた途端、お前がはっとしたようにうとうとしていた目を見開き、身体を起こした。

「あああ!」

「な、何だ?」

 俺は驚いて、飲もうとしていたコーヒーをこぼしそうになる。

「やっぱり見たかった!」

「……はあ?」

「だって、そうでなくてもかっこいいんだよ! エッチしたあとのフェロモン駄々漏れで料理してるとこなんて、想像できないくらいに超絶かっこいいんじゃないの?!」

 俺の胸倉につかみかかって、お前が勢いよく言った。

「──お前、なあ」

 さすがに、俺も赤面した。

 フェロモン駄々漏れなのは、お前だろう。

 しかも、超絶って、なんだ。超絶って。

「あー、もう、悔しい!」

 お前がじたばたと両手を振り回し、地団駄を踏んだ。──タオルケットが外れるから、あまり暴れるな。

「今度は絶対、見るんだからね!」

 びしっと俺を指差して、言った。

「──何の宣言だよ……」

 俺は頭を抱え込む。

「だって、かっこいいものは、かっこいい!」

 お前は今日、そればっかりだな。

 俺は呆れ、溜め息混じりでそうか、とつぶやいた。

「あんたが、かっこよすぎるのが悪いんだからね」

 頬を染めて、そうつぶやいたお前が、恥ずかしそうにうつむいた。

 だから、やばいって。

 何か、色々、限界です。

 俺はとりあえず、コーヒーカップを傾けながら、もう一度お前を押し倒すべきかどうか、思案することにしたのだった。


 了



 手羽のスープは、コラーゲンも取れるので、女性におすすめ。

 おいしいですよ。案外早く煮えるので、圧力鍋とかじゃなくても全然構わないです。

 私はだしの出きった鶏肉が好きなので、剥げた肉をもそもそ食べてます(笑)

 コンビーフキャベツは、炒めて食べるのも好きです。薄く切ってトーストしてバターと辛子を塗ったパンにはさんで食べると、めっちゃ幸せ。コンビーフ高いので、ニューコンビーフでもいいと思う(こっちの方が、ヘルシーですよ。馬肉なので)

 かつをは、これでもかと言うほど薬味を乗せましょう。かつをが見えなくなるくらい、たっぷりと。上から醤油ちょろりとかけて食べたら、はわわわわ~って、なりますよ(笑)

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