one day
親父に似ている、と昔からよく言われた。
一重のシャープな目も、まっすぐに伸びた眉も、口角の下がる口元も、確かに親父譲りだ。輪郭だけは、四角い親父に反して、俺のそれは顎がとがる少しそげたような形。
毎朝、鏡を見るたびに、また少し親父に似てきたなと思う。
家族の中で、唯一、俺の必死の告白を受け入れることのなかった親父とは、もう10年口をきいていないし、顔も見ないままでいる。
「おっはよー」
いきなり俺の背後からジャンプして背中に抱きついてきたお前が、やたらハイテンションで声を上げた。鏡の中の俺に向かって、
「今日もめちゃくちゃいい男!」
朝っぱらから酔ったように機嫌がいいのは、今日がかなり前から予定していた「お出かけ」の日だからだ。まるで遠足の前日の子供のように、昨日は遅くまでわくわくして眠れないままだったのは、その少し赤くなった目で分かった。
「……おはよう」
ひげを剃って顔を洗った直後だった俺は、まだ濡れたままの顔で鏡越しにお前を見た。
「朝っぱらから元気だな」
お前はえへへ、と笑って、俺の背中におんぶ状態のまま片手を伸ばして背後の棚からタオルを取った。俺の頭の上にちょこんとそれを乗っけると、両腕を俺の首元でクロスさせるようにしてすがりつく。
重い、と文句を言う気力もないまま、俺は頭の上のタオルを取って顔を拭いた。俺の支えなしで、両足まで俺の腰のあたりで絡めるように踏ん張っているお前が、ぐりぐりと俺の首の後ろに鼻先をこすりつけた。
「何だよ」
「俺、何か、わくわくしすぎて、おかしくなってる」
「だな」
「何着て行けばいい? スーツ? ……あ、就職活動で着たやつと、冠婚葬祭用しかないけど」
「──スーツはやめろ。浮く」
「そっか」
「とりあえず、下りろ。重い」
お前がぴょこんと俺の背中から下りた。俺は洗面所をお前に譲って、廊下に出ようとした。お前が俺の腕を引いてそれを止め、短くキスをする。
「卵焼き、甘いやつね」
嬉しそうに笑って、俺の腕を離し、蛇口をひねった。俺は呆気に取られながら鼻歌交じりで鏡と向き合っているお前の後ろ姿を見て、力が抜けた。
余計な心配をしているのは俺だけか、と思った。
今日は、弟と会う予定だ。1か月ほど前、2人で飲みに行ったとき、チケットを2枚、渡された。弟が趣味で入っているフットサルチームが大会にエントリーしたから、応援に来い、と言う。
大した大会ではなく、素人のチームが集まってわちゃわちゃと楽しむだけのものだろう、と思った。一応、有名スポーツメーカー協賛なので、大会は有料。その金額は微々たるものだが、こうしてきちんとチケットが売られているのだから、割と大きな大会なのだろう。
チケットが2枚、ということは──
弟は、にっと笑って言った。
──兄ちゃんの恋人、すっげー興味ある。
人懐っこい笑みを浮かべる弟がよこしたチケットは、やたら重たく感じた。
そして、その大会が、今日というわけだ。
お前は昨日から楽しそうにしていて、お弁当を作って行こう、とやたら張り切っていた。──作るのは俺だけどな、と突っ込むと、当たり前じゃん、と平然と答える。昨日のうちに買い物を済ませ、下ごしらえも済ませておいた弁当の材料が、キッチンには並んでいる。
俺は溜め息をついて、それからよっしゃ、と気合いを入れて弁当作りに取り掛かった。いつの間に洗面所から出てきたのか、お前もカウンターの向こう側で覗き込んでいる。
お弁当といえば絶対、とお前が力説したから揚げは、昨日の夜から酒、しょうゆ、おろしにんにく、おろししょうがに漬け込んである。片栗粉をはたいてからりと揚げる。
四辺に水を塗ったワンタンの皮にプロセスチーズを細く切って乗せ、くるくると巻き、両端をぎゅっと押して中身がはみ出ないようにしっかりと留める。これも揚げて油を切っておく。
ミートボールは豚肉と鶏肉のミックスに水気を切った豆腐が少々。昨日のうちにこねて丸めて、揚げずに茹でておいたものを、甘酢あんにからめる。あんは固めにして、液だれしないようにする。
アスパラは茹でてベーコンで巻き、フライパンで焼き色を付ける。
エリンギはフライパンで焼いて、昨日のうちにオリーブオイルと醤油でマリネしてある。汁気を切って、ブラックペッパーを挽く。
ピーマンはきんぴら。千切りにして、簡単にめんつゆで調味。仕上げにごまをふる。
お前がワクワクしながら見ているので、ひとつ、遊び心を加えてみた。ウインナーは切れ目を入れて、タコとカニを作ってみる。茹でるより揚げた方がきれいにくるりと形ができる。お前がうわあ、と嬉しそうに声を上げる。
そして、卵焼きは、お前のリクエスト通り、砂糖多めの甘いもの。四角い卵焼き用のフライパンでくるりと回転させながらきれいに形作る。
ニンジンは千切りにして、お酢と砂糖、塩、レーズンを加えてサラダにする。これは小さい別容器に入れておく。
昨日の夜、ホットケーキミックスとすりおろしたニンジンで簡単に作っておいた蒸しケーキも、アルミのカップに入ってふんわりふくらんでいる。
そしておにぎり。小さいボウルにしょうゆをまぶしたかつおぶしと小さく切ったプロセスチーズを混ぜ込み、握る。同じように、細かくちぎった梅干しとしらすと千切りの青じその混ぜご飯、刻んだ万能ねぎと塩昆布の混ぜご飯で同じように握る。もちろん、定番の海苔を巻いた、おかか、梅干し、焼き鮭も忘れずに。
お前がおにぎりを一個ずつラップに包んでいる間に、俺は大き目の容器に弁当を詰めた。ウェットティッシュと割り箸を添えて、準備が終わったのは、試合開始時間の約2時間前。会場は歩いて30分ほどのところだから、充分間に合う。
「あー、お昼楽しみ」
お前が弁当を入れたバッグを持って、頬ずりしそうな勢いだ。
家を出て並んで歩き出す頃には、俺も開き直っていた。
「──俺のこと、弟さんに紹介するの、嫌だった?」
俺の機嫌があまりよくなかったことに気付いていたらしく、お前がそんなことを訊ねてきた。さらりと茶色い前髪を揺らして、首を傾げるようにして俺を見上げている。
「──そういうわけじゃない」
「そう、かなあ」
さっきまであんなに楽しそうだったのに、お前の表情が少し陰る。
「あんまり、嬉しそうじゃなかったよね」
お前にそんな顔をさせたいわけじゃない。俺は諦めて、小さく溜め息をついた。
「俺は、小さい頃から野球をしてたんだ」
「うん。高校までだよね」
「小学校の頃から少年野球チームに入っててさ。中学でも、高校でも、続けてた。親父も学生時代野球をやってて、俺が野球部に入ったのを喜んでた」
まだ小学生の俺にスパルタで練習を強いる親父は、きっと、俺をプロ野球選手にでもさせたかったのだろう。もちろん、俺にそんな才能があるわけもなく、中学時代も、高校時代も、名門とはいいがたいチームで、そこそこの勝利しかできずに引退した。
親父だって分かっていたのだろう。熱心だったのは中学に入るくらいまでで、あとは俺がのびのび部活をするのを認めていた。
弟は俺とは違い、子供の頃からサッカー一辺倒。親父は俺より4つ下の弟が必死になってボールを追いかけるのを、今度は熱心に応援し始めた。
あんなに野球好きだった親父が、弟がサッカーを始めたことで野球だけでなくサッカーにも興味を示しだした。休みの日には地元チームの試合を観に行ったりするようになった。
別に、見捨てられたとは思っていなかった。野球に熱心になっていた頃よりも、俺と親父の関係は良好になっていたから。まるで家庭内監督と選手みたいだった俺たちは、またごく普通の家族になれたと思っていた。
──けれど、それが一変した。
俺が大学卒業と同時にカミングアウトした途端、親父は俺を見なくなった。存在すら無視するかのように、同じ家にいても顔も合わさなかった。
俺はすぐに家を出て、1人暮らしをすることになった。それきり、親父とは会っていない。
時々、弟とは会う。そのときに、親父がまだ弟のサッカーに熱心だということは聞いていた。俺と違って、大学までサッカーを続けた弟は、そこそこ活躍したせいもあるだろう。そして、社会人になった今、休日フットサル選手になる弟の試合を、時々観に行っているということも知った。
だから、チケットを渡されたとき、少し、不安だった。
親父と鉢合わせする可能性を考えてしまったからだ。
けれど、あの弟がそんな回りくどいことをするとは思えない。俺をいつも兄ちゃん兄ちゃんと慕ってくれる素直な弟だ。家族の中で、唯一、俺の性癖を知っても態度が変わらなかったのは、あいつだけだった。母親ですら受け入れてくれるのに時間がかかったというのに。
道々そんな話をする俺に、お前は黙ってうなずいていた。
「お父さんには会いたくないんだ?」
「──向こうが、会いたくないんだ」
「どっちもどっちじゃない?」
言われてみればそうだ。けれど、それを認めるのは癪だった。
「俺は、弟さんに会いたかったんだ。だって、あんた、いつも弟さんの話をするとき、すごく嬉しそうだから」
「──そうか?」
「かわいくて仕方ない、って感じがする」
「向こうもいい年だぞ。かわいいなんて表現は微妙だな」
俺より2センチ高い身長と、全体的には親父にも似ているのに、パーツが母親似で柔らかい印象を与える二枚目だ。性格は柔軟で、モテる。結婚する気があるのかないのか、付き合っている彼女は長続きするわけじゃなく、いつの間にか次の彼女を見つけてくる。
「そういえば俺」
会場に着いたお前が、困ったように俺を見た。
「フットサルって、ルール全然知らないや」
それに関しては大丈夫だ。
俺も全く、分からない。
サッカーのルールでさえ怪しいのに、フットサルなんて、未知のスポーツである。まあ、あれだろ。サッカー同様、足だけ使ってゴールにボールを押し込むんだろ?
俺は入り口でチケットを渡した。その考えを改めることになったのは、約1時間後のことである。
第一印象は、狭い、だった。
野球場や体育館のように客席があるわけではないので、コートの外からの観戦だ。ネット越しの芝コートは狭く、ゴールもサッカーのそれより小さい。
そして、とにかく、スピーディだ。選手やボールとの距離が近い分、やたら技術力が必要なのだということも分かった。
周りの話を聞いていると、普段は素人が参加してもなんら支障のないレベルで、子供から年寄りまでが楽しんでやるようなスポーツなのだという。弟が出ているこの大会はそれよりはレベルが高く、出ているチームも身体つきからしてスポーツ選手のそれである。
弟が未だに引き締まった身体をしている理由が納得できた。
初めはめまぐるしく動く試合展開について行くのが必死だったが、慣れてくると楽しかった。お前も途中から声を上げて応援していた。
一対一になる機会が多いからか、技術力の差が物を言う。弟は、ひいき目抜きでも上手かった。
けれど3回戦で、惜敗。お前がああー、と感嘆の声を上げた。昼時はとっくに過ぎていたけれど、俺たちは昼飯も食わずに試合に集中していた。
弟が、チームメイトと別れて俺たちの方へやってきた。
「兄ちゃん」
いつものように俺を呼ぶ。そして、お前を見て、にっと笑う。
「兄がいつもお世話になってます」
「いえ、こちらこそ」
お前が慌てて頭を下げた。抱きかかえるようにしていた弁当の入ったバッグが、斜めになる。おにぎりが二つほどころりと転がり、弟の足元で止まった。お前はひゃああ、と小さく悲鳴を上げ、素早く拾って手渡してきた弟にすみません、と謝る。
「おにぎりってことは、弁当? 俺のもある?」
「──チームに戻らなくていいのか?」
「ん、今日は兄ちゃんと会うからここで解散。あとで打ち上げには顔出すけど」
「お弁当、食べよう」
お前が俺の袖を引っ張る。
「絶対おいしいから、弟さんも、一緒に」
「──作ったのは俺だ」
「だからおいしいに決まってる」
真面目な顔で言い切ったお前に、弟がぶっと吹き出す。
「兄ちゃん、やべえ」
何がだ、と問う前に、弟がお前と2人で歩き出した。どうやら少し離れたところにベンチがあるらしい。俺はやれやれと思いながらあとをついていく。
歩きながら自己紹介して、あっさりと打ち解けている。あまり他人となれ合うことのないお前だけど、心配はしていなかった。弟のなつっこさは、もはや特技といってもいいくらいで、いつの間にかするんと懐に入り込む。
ベンチに座って弁当を広げたら、弟がおおー、と声を上げた。
「すっげ。全部兄ちゃん作ったの?」
「すっごくおいしいよ」
「また食ってないだろ」
俺がつぶやくと、お前がなぜか胸を張るようにして、
「まずいわけないし」
「……兄ちゃん、料理に惚れられすぎ」
それは否定しない。俺は二人に割り箸を渡してやる。ウェットティッシュで手を拭いていた二人がそれを受け取り、同時にいただきます、と言った。──何だか、妙に似ている。
「おお、タコだ。マメだな、兄ちゃん」
「カニもいるよ」
箸でウインナーをつまみ上げた2人が、幸せそうに弁当を食べる。おにぎりを片手に持ってかじりながら、どんどんおかずが消えていく。
「うっわ、やべ。何このから揚げ。母さんのよりうまいんじゃん?」
「卵焼きおいしいー。甘いのすごく好き」
「ミートボール、柔らかっ。何で?」
「それね、豆腐入りで、しかも茹でてるの。ヘルシーだし、甘酢が固めでよく絡んで、すごくおいしいよね」
「ピーマンて、こんなにうまいっけ?」
「きんぴらにすると、いっぱい食べちゃうんだよねー」
ものすごいスピードでおにぎりをかじりつつ、おかずを食べつつ、会話をする、という高等技術を駆使している2人の横で、どんどん減っていく弁当を、俺が食べる隙が無い。仕方ないので、途中で買ったお茶を飲みつつ、大人しくおにぎりを食べることにした。
デザートのニンジン蒸しケーキまできれいに全部、ほとんど2人で食べ尽くした。
「お前ら……」
俺は呆れて空っぽになった弁当容器を見下ろす。
「作った人間に少しは残してやろうという配慮はないのか」
「だって、運動して腹減ってたし」
「俺が食べるのはいつものことだし」
また、同時に言った。頭を抱えたくなった。
「つーかさ、兄ちゃん、料理めちゃくちゃうまいね」
なぜか、お前が得意げな顔をしているのは無視して、俺は容器にふたをする。
「趣味なんだよ」
「家にいたときはやんなかったよね」
「まあ、ストレス解消もあるしな。1人暮らしし始めてからハマった」
「へえ」
実家にいた頃は、専業主婦だった母親が料理をしていた。もっと前からやっていたら、少しは手伝えたかもしれない。
「今度食いに行っていい?」
「────」
俺は、お前を見た。お前がうんうんとうなずいている。
「いいってさ」
「──決定権、こっち? 尻に敷かれてる?」
「うるさい」
弟の頭をつかんでぐりぐりと握りこぶしを当てると、楽しそうにけたけた笑いながら、痛いって、と声を上げる。お前が羨ましそうにそれを見ていることに気付いた。
「──ええと、俺、ゴミ捨てて来る」
お前はベンチを立ち、空になったペットボトルや使い終えた割り箸を持ってゴミ箱へ向かった。弟の頭を抱え込んだままそれを見送っていたら、するりとそこから抜け出した弟が、乱れた髪を直しながら、少し真面目な顔になった。
「何か、ちょっと、安心した」
「そうか」
「仲いいね」
「まあな」
「いい人そうだし」
「ああ」
「──実は、結構ビビってたよ。いかついひげマッチョとかだったらどうしようって」
「…………」
俺の呆れた目を、弟は慌ててかわす。
「なんか、かわいいね、あの人」
「惚れるなよ」
「はは。そういうこと言うんだ、兄ちゃん」
弟が笑う。
「違う意味でびっくりはしたけどね。──すっげーきれいな顔してるしさ。あー、これ、兄ちゃん完全に騙されてるなって」
「兄に失礼だな、お前」
「だって、そうでしょ。あんなにきれいな人、見たことないし」
「そうだな──でも、そこに惚れたわけじゃない」
「……そっか」
お前がゴミを捨てて戻ってくるのが見えた。俺たちは2人でその姿を見つめる。戻ってきたお前が、目を丸くして、あのね、と言った。
「遠くから見ると、すっごく似てるよ、2人」
「小さい頃は言われたよね、そっくりだって」
「そうだな。──成長するにつれ、お前が勝手に男前になって行った」
「ははは、なんだそれ。兄ちゃんの方がかっこいいじゃん」
「──うん、かっこいいよね」
お前が言うと、弟が、おお、と声を上げた。
「かっこいいってさ、兄ちゃん」
「毎日散々言われてる」
「うーわ、弟の前で惚気とか、やめてよ」
お前がにこにこしながら俺たちのやり取りを聞いている。弟は、いつも、俺のことを立ててくれる。俺を慕って、いい大人になった今も、兄ちゃん、と呼ぶ。
お前の言う通り、俺はこの弟がかわいくて仕方がない。
「──あのさ、兄ちゃん」
弟はベンチを立ち、軽く背伸びした。俺よりわずかだけ大きくなったその長身が、ますますでかく見える。
「親父、もう、怒ってないよ」
「────」
俺は息を飲む。
「でも、絶対自分から折れたりしない。──分かってると思うけど」
嫌になるくらい知っている。
親父にそっくりな俺が、受け継がなかったものの一つは、それ。
俺は根気がない。お前とけんかしても、必ず先に謝るのは俺。
だけど、これだけはと意地になっていた。俺はけして、親父に許しを請うことはない。
「許してほしいなんて思っていない」
「兄ちゃん」
「許してもらうとかもらわないとか、そういうことじゃないんだ」
「──うん」
「これが俺なんだよ。──許すとか、許されるとか、そういうんじゃない」
「分かってる」
弟がうなずいた。お前が黙ってその様子を見守っている。
「今すぐは無理でもさ」
弟が俺の前にしゃがみ込み、人懐っこい笑顔を見せる。
「いつかはちゃんと家に帰ってきて。一度だけでもいいから」
4つ年下のこの弟は、いつも俺に甘える。昔から、ずっと。
俺を慕い、俺を頼り、俺を全身で好きだと言う。だから俺も、この弟がものすごくかわいい。
「俺も、母さんも、親父も、待ってるから」
子供の頃から変わらない笑顔でそう言った弟の頭に、俺はそっと手を置いた。くしゃりとその頭を撫でると、くすぐったそうな笑顔に変わる。
「今は、まだ──」
俺の言葉は、やけに小さく感じた。自分でも驚くほど、かすかに。
「でも、いつか──」
その声を、聞き取ってくれればいい。そう思った。
弟が立ち上がる。俺の手を離れた長身のその姿を、俺は見上げる。
「いつか──2人でね」
弟の言葉に、お前がぐっと何かを堪えるような顔をした。
俺は、隣に座るお前の手を取って、うなずいた。
多分、そのいつか、は、まだまだ遠い先のことだけれど。
弟がにこりと笑う。その顔は確かに、俺と──そして親父と似ている、と今更のように思ったのだった。
了
弟は、女関係ルーズですが、よくモテるので、仕方ない感じです。
来るものは拒まず、去る者は追いません。
そんなとこを、兄に「しょうがないやつめ」と言われて頭をこつんと叩かれるのが、とても嬉しいのです。
そんな裏設定を作っているので、書きながら「兄ちゃん」って呼ぶ弟にきゅんきゅんしてました。自分の小説なのに……_| ̄|○ lll
ちなみに、「お前」より一つ年上で、「俺」とは4つ年の離れています。
この兄弟は、「同じ意味を持つ漢字」の名前をお互いにつけてあるんですが、名前が出ないシリーズなので、何の意味があるのか疑問です。……ううむ。日の目を見るんですかね、いつか。
お弁当の玉子焼きは、甘いのがおいしいと思います。
個人的にはだし巻きの方が好きですけどね~。
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