第5話

 翌日……俺は再び冒険者ギルドを訪れていた。


 ちなみに、ゴブリンの集落を潰した事についてはすでに報告しており、なぜこんなに早くそんなことができたのかと鬼ような顔で受付嬢に追求されたのはいうまでもない。

 そして本日、俺は一人ではなかった。


「あ、あの……後ろのお二人は?」

 顔を赤らめた受付嬢の視線の先には、浅黒い金髪のイケメンゴリラと、同じカラーリングをした美人メスゴリラがたたずんでいる。


「俺の兄弟だ。 似ていないのは、血がつながっていないからだが、そのあたりは察してくれ。

 そうそう、男のほうがガスパールで、女はリリサだ。

 冒険者として登録したいから、手続きをお願いしたい」


 名前でピンときたかもしれないが、実はこの二人……人間ではない。

 その正体は、俺が日本から持ち込んだチートカレーを食べて人化と翻訳のスキルを身につけたドラゴンであった。

 なお、やや垂れ目がちの優しげなイケメンゴリラがガスパールで、切れ長の目をした少し気の強そうな美人メスゴリラはガスパールの嫁のリリサという。


 兄弟というフレーズが気に入ったのか、俺の言葉を聞くなり二人は笑顔で俺の体をがっちりと抱きしめた。

「ぼく、カオルのおとうとー」

「あ、がすぱーるズルい。 じゃあ、わたし、かおるのいもうと?」

 おいこら、リリサ! ガスパール!!

 人前で俺の首筋をなめるんじゃない!!

 変な趣味があると思われちゃうだろ!!


 さて、なぜ二人がここにいるかというと……本当は今日も一人でくる予定だったのだが、ドラゴンたちがやきもちを妬いて付いてくると言い出したのだ。

 で、ドラゴン同士の話し合いによって俺についてくることになったのがこの二匹……もとい、二人である。


 ……翻訳のスキルはともかくとして、まさか人化のスキルに需要があったとは、我ながら予想外だ。


 なお、どちらも目のやり場に困るほど露出度が高い服を着ているため、周囲の視線はこの二人に釘付けである。

 俺は恥ずかしいからやめろといったのだが、肌に触れる布地の感触がお気に召さず、この二人最低限の着衣しか受け入れなかったのだ。


 そんなわけで、ガスパールは黒のブーメランパンツ。

 リリサにいたっては、大胆な赤の紐ビキニである。


 しかも、リリサの体はがっちりと筋肉のついたメスゴリラであるにもかかわらず、女性特有のなだらかな曲線は失われていない。

 むしろハリウッド女優のような、たくましさと美しさを感じさせる代物だ。

 なお、ガスパールについては……悔しいので割愛させてもらおう。


「おい、ぼーっとしてないで手続きを進めてくれ。 身体測定もあるんだろ?」

「え、あ、はい! し、失礼しました」

 俺が声をかけると、受付嬢はガスパールの甘いマスクに名残惜しそうな視線を向けつつも、いそいそと登録の書類を用意し始める。


 くそっ、俺の時とはえらく態度が違うじゃねぇか。

 差別主義者なんて、大嫌いだ!


 そして、俺を前回さんざんに叩きのめしたマッチョの教官はというと……ガスパールを見て冷や汗をかいていた。

 どうやら、自分の勝てる相手ではないことを本能で察知したらしい。


「えっと……もしかして、今回も模擬線やるのか?」

「お、おう……」

 なお、この二人は外見こそ人間のようであるが、身体能力はドラゴンのまんまである。

 常識を疑うような身体測定が終わり、模擬戦闘にうつるころには、教官の顔が土気色になっていた。


「なぁ、悪いことは言わないからやめたほうがいいぞ」

「……これが俺の仕事だ」

「じゃあ、リリサからやってくれ。 ガスパールだと本当にしゃれにならないと思うから」

 そして教官のマッチョは……一撃で沈んだ。

 やっぱり、こいつら手加減が出来てない。


「カオル、わたし勝った! わたし強い! カオル、嬉しい?」

「あ、うん。 すごかったなリリサ。 でも、もーちょっと手加減してあげることが出来たら、もっとよかったかも」

 担架にのせられ、意識の無いまま運ばれてゆく教官を横目でみながら、俺は彼の無事を祈らずにはいられなかった。

 言い訳にしかならないが、ここまでひどいことをするつもりはなかったんだ。

 

 さて、教官の不幸はおいといて……俺にはやらなければならないことがある。

 魔物の氾濫に関する情報集めだ。

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