第7話

 7度目の異世界訪問。

 今日はカレーも持たずにドラゴンの元にやってきた。


「まだ……生まれないのかガスパール」

「あと太陽、三回のぼってしずむ、かかる」

 どうやら、ドラゴンの出産というのは相当に時間がかかるものらしい。


 なお、街へは行かない。

 いったところでトラブルに巻き込まれるだけだからだ。


 街のすぐ近くにドラゴンが大量にやってきたことでパニックを起こしているところに、さらに森からすさまじい数の魔物の群れが姿をあらわしたという知らせが入ったため、もはや完全な発狂状態になっているらしい。


「やれやれ、まったくもってタイミングが悪いなぁ。

 モンスター共のスタンピード、どうやらこっちに向かってくるようだぞ」

「関係ない。 きたら、ころす。 ドラゴン、強い」

 ガスパールは自信ありげだが、こいつもけっこう抜けたところあるからなぁ。

 それに……とてもいやな予感がするんだ。



「ひどいものだな……」

 翌日の夕方、街の中までやって来た俺は、思わずそうつぶやかざるをえなかった。

 見上げれば、夕闇に染まり始めた上空には魔物の群れが飛び交っている。

 それはちょうどイナゴを巨大化させたような姿をした生き物で、精査を行ったところによるとかなり凶暴な肉食の魔物であるらしい。


「今は、こちらの様子を伺っているといったところか」

 むろん街の人間もむろんただ見ているだけではなく、それなりの戦力はそろえている。

 だが……相手が空を飛ぶのでは、せっかく国から派遣された騎士団も、街を守るために集まった冒険者たちもほとんど役に立たない。

 なにせ、相手は剣も槍も届かないところを自由に行き来するのだから。


 そして、唯一有効な戦力であろう弓兵や魔術師たちが対応するにも、明らかに数が多すぎる。

 それがわかっているからだろうか……街の中には絶望感があふれていた。


「あぁ、もうこの街はおしまいだ!」

「くそっ、なんでこっちにくるんだよ!」

「どけ! 俺はさっさとこんなところから逃げ出すんだ!!」

「きゃあっ!?」


 周りが見えていないのか、それとも良識をどこかに落っことしたのか、逃げ惑う街の住人たちは弱者を突き飛ばし、そして自分も他の誰かに突き飛ばされる。

 立ち並ぶ商店の窓は叩き壊され、略奪された跡がそこかしこに見受けられた。


 だが、そんな自分のことしか考えてない連中も、俺の姿を見るなり驚いて動きを止める。

 なぜなら、俺がいつもとは違う格好をしていたからだ。


 黒のライダースーツに、暗幕用のカーテンを流用した黒いマント。

 怪傑ゾロを意識した黒いアイマスクに黒い帽子……かなり前のハロウィンで友人と冗談で購入した黒尽くめの衣装である。

 その奇抜さはこの世界においてもそのままだったらしく、俺はやたらと人の目を引いていた。


 さて、なぜこんな姿をしているかというと、ひとえに正体を知られないためである。

 でないと、魔物のスタンピードを解決した後も、事あるごとに面倒を押し付けられるに違いないからな。


 ――よし、あそこがよさそうだな。

 俺は逃げ惑う人の流れに逆行し、街を見下ろす鐘楼へと上ってゆく。

 そして一番上の鐘突き堂にたどり着くと、ポケットから懐中電灯を取り出した。


「攻撃は最大の防御なりってな!」

 そして何度か点灯させて合図を送ると、魔物の群れと逆の方向から大きな生き物の群れがその姿を現した。

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