BOY CAN'T MEETS GIRL ON GLASSES.(Side-EX)/前
(注意:本作はHeNoVe14初出、同12掲載作の裏のさらに裏ですがつまり事実上全然別の話です。カクヨム掲載分の時系列では「水着回」の前。あと、この回だけ「おねショタ」成分があります。)
男の子というのは強いロボットに夢中になるものらしい。そう言われることが、姉たる私にはさっぱり分からなかった。
なぜなら、男の子に限ったことじゃないからだ。
もちろん、私に限ったことでもない。今、このロボットバトル全国大会選手控え室内には、隣国の女子大生もいるし、うちみたいな家族ぐるみのチームもいる。「父の作ったスーパーロボット(ただし身長60センチ)を操る少年」も今は珍しくない。
弟の幸村が、まさにそうなんだけど。
父が作った、と言いつつも、いまドライバー片手に最終調整をやっているのは幸村自身。こないだ中学に上がったばかり、かけてる眼鏡は視力関係なく、VRとブルーライトカットのフレーム太いエンジニア系なやつ。私とお揃いなのが生意気にも不満らしいけど、高いので使わないとも言えないみたいだ。
まあ私と違って、どっちかというと熱血系ロボットアニメ主人公みたいなタイプだから、似合ってるかどうかは微妙。いっそ髪を整えれば、イギリスの秘密エージェントに弟子入りしたみたいになるかしら。
それをいったら、私がかけるにもごつい気はするんだけど。
もうちょっとしゃれたのはないのかなあ……ふと、私はもう一人、眼鏡をかけて調整中の女の子を遠くに見つけた。私と同じく高校生くらいで、かけているのは半円形の個性的なフレーム。VRじゃなさそう。ロボットは背中しか見えないけど、明らかにドール系。可愛いけど戦えないタイプかな。格闘大会といっても、アピールのために予選だけエントリーすることもあるから、それかしら。ひっきりなしにタブレットに話しかけてるみたいだけど、誰かと通信しながらなんだろうか。
「千鶴ねえ、コードまだ?」
弟の声で我に返った。そうそう、私だってにぎやかしで来てるわけじゃないのだ。
ステージのほうでは、次々に予選タイムが読み上げられる。出番は近い。走るプログラムをちょちょいと修正してロボットに送信。予選はこれでいけるはず。
「次、エントリーナンバー24番、ロボット名・コンバットバトラー5号!」
レフリーの声とともに、歓声が上がる。さあ、いよいよ出番だ。私は弟を後ろからぎゅっとしてやった。まだ背は私のほうが高い。
「よせよ、それ」
弟はいやがってるふうに装って、でも振りほどきはしない。顔ちょっと赤くして、なにか意識してるのバレバレです。私のこと天然だと思ってるんなら大間違いだぞ。姉はわかっててからかってるのだ。
「さ、地区認定大会チャンピオンの貫禄、見せつけてこよう」
弟は角張ったスーパーロボットを抱え、ふんぞりかえって控え室を出て行った。もちろん、私もついていく。
大昔のTVアニメに出てきたやつみたいな装飾と名前は、父さんの趣味。版権がやばいのでクドくもじってあるけど、だから一号機のころからずっと「5号」。なんだそれ。
ついでに、私の名前もそのアニメのヒロインから取られた。弟は主人公になる予定だったけど、母さんが止めた、というより権利を奪って、戦国武将の名前になった。
けど母さん、私は知ってしまったんです。それ、リアル歴史のほうじゃないですね?
だからって、別に親に無理強いされてやってるわけじゃない。なにしろロボットは動くように作ればちゃんと動いて、手を入れれば入れるほど見える結果がついてくる。
見なさいこの幸村のドヤ顔。タナボタでも不条理でもなく「強いロボットを作ったから勝てた」という単純な現実は、人をこうも自信たっぷりにするのだ。
……まあ現実はそこまで単純じゃない。ロボットは機械だから、どんなに強くてもどこかに想定外のトラブルが起きる。強豪の意外な不調で番狂わせが起きるのも、よくあるよくある。油断大敵。
ステージにあるのは、4.5メートルのコース。もちろん私たちが乗るわけじゃない。我らが「コンバットバトラー5号」を載せて弟がスイッチを入れ、私がノートパソコンを開く。キュッという音がしてロボットの間接が伸び、自力でまっすぐ立つ。
ホビーロボットの格闘大会だけど、予選は障害物走、速いのから予選通過っていうルールだ。いまどき殴り合うだけのロボットには用はない、っていう運営の強い意志を感じる。なに、そのくらい我が家では想定済みですよ? 私がさっき打ち込んだコードは、ちゃんとそれを越えられるように設定されているのです。
予選通過ラインは十秒前後ってとこか。トラブルがなければうちのは五秒台も狙えるはず。認定大会勝ってるから、予選結果関係なく決勝のリングには立てるけどー。
と、余裕ぶっこいてる私たちの隣に、あの子が現れた。
半円眼鏡の手から降ろされたのは、いかにもな青いアリス服なのに、なぜかまん丸の眼鏡をかけたドールロボット。どうして、お揃いにしてないんだろう?
「続いてエントリーナンバー25、ロボット名・アリス!」
レフェリーが読み上げる。名前もそのまんまなんだ。まあ、この見た目で走れるだけでもたいしたものかな。
タイムアタックなんだから、気にせず先にスタートしちゃっても良かったんだけど、なんとなく気を取られているうちに、その半円眼鏡の子はタブレットの画面を、自分じゃなく外に向けた。
私は思わず「えっ」と声を上げ、つられて振り向いた幸村も「あ」と、さすがに無視できなかったらしい。ていうか、画面に釘付けになった。
ロボットと同じ印象の、文句の付けようのない「薄幸の美少女」が、画面に映っていたんだから。ドールじゃなく本当に女の子だけど、どこか現実離れした存在感。
「どうもー、初めまして。アリスのオーナー、亞梨子でーす。会場には行けないので、今日は、お姉ちゃんに行ってもらってます」
画面の美少女が紹介すると、半円眼鏡の子は「あ、姉の瑠衣です」と挨拶して、審査員と、観客と、最後に対戦相手の私たちに三回ぺこりと頭を下げた
そうか、この子もお姉ちゃんなのか。ちょっと親近感。姉妹というわりにはあんまり似てないな。ちょっとりりしい系の顔立ちだけど、物腰はおっとりふんわり。
弟はずっと画面の方をガン見していた。さては惚れたな、まあ無理もないわ。
「……千鶴ねえ、あれ、どっかの病院だ」
言われて初めて気づいた。どんだけよく見てるんだ。けど、薄幸の美少女ってのはただの印象じゃなかったということか。
「えーと、ここから遠隔操作してもいいんだけど、予選は自律で行きます。お姉ちゃん、スイッチよろしくー」
亞梨子が画面で両手を振る。可愛いだけじゃなく、フリーハンドの宣言でもあるんだろう。「おおーっ」と歓声が上がった。自律部門もあるから、それ自体は今時驚くことじゃないけど、なにしろファーストインパクトが絶大。どこまで上乗せしてくるつもりよ、この姉妹。
と、突然、幸村が立ち上がって瑠衣さんに、というよりタブレットの画面に人差し指を突きつけた。
「ど、同時スタートだ。俺の速さを見せてやる!」
おいおい。ライバル認定したのか、いいとこ見せたいのか、どっちにしろもう小学生じゃないんだぞ。女の子相手にその態度はどうかと姉は思うぞ。
けど、瑠衣さんと亞梨子は一緒ににこりと笑って「いいよ」と、弟の不躾な挑戦を受けて立った。
あれ、もしかして自信ある?
あちらのアリスも、きゅっとサーボの音をさせてスタートラインに立った。あらためて見ると、手足もホントに細い。どんなモーターが入ってるんだろ。
「……あいつも、共振して無ぇ」
幸村がいかにもメカっぽいところに気づいた。ホビーロボットは、サーボが共振してブルブル震えることがよくある。それが全然ないってのは、調整がすごいのか。ともかく、見た目以上に完成度は高いってこと。
自信があっても当然か。でも、私が組んだ走行プログラムだってねー。
「――スタート!」
レフェリーの声と同時に、私と瑠衣さんがコマンドをタップ。カウンターの数字も動き出す。我が家のコンバットバトラーは、安定した足運びで、一歩速く前に出た。
ところが、アリスはやや前のめりになりながら、本当に子供みたいに急加速して、私たちに追いついた。頭が大きい分、重心も高めで動歩行の勢いがつくのか。
けど、そのまま障害物コースに突っ込んだらこけるよ。
と思ったら、アリスはこともなげに体を傾けて斜めの床を駆け抜け、突起物は飛び越えた。
コンバットバトラーも、斜めはそのまま走破できる。けど、突起物は手動で避けるしかない。幸村のコントローラーさばきは的確で、自己ベストともいえるスピードでスラロームを抜けた。
けど、それも遠回りには違いない。その間にアリスは私たちを追い越し、差を付けて、そのまま逃げ切ってしまった。
タイムが、やばい。秒速1メートルを越えてる。
私たちも、トップ3には入れるタイムだ。認定枠がなくても、余裕で決勝に出られる。けど、アリスはいまのところダントツで一位。
私たちは、呆然としていた。何かミスしたわけではない。ベストだったのに負けたんだから、つまり単に実力差ってことになるよね?
私は、それじゃ仕方ない、って思った。けど、幸村は違った。
「おい、決勝には出るのか!?」
また、失礼にも瑠衣さんに人差し指を突きつけてる。本当にやめなさい。それに相手は年上だ。とはいえそこは私も気になった。
ドール系だと、バトルには出ないことも多いから。
けど、瑠衣さんはアリスと、亞梨子の映ったタブレットを一緒の高さに抱えて、困ったように笑った。画面の亞梨子のほうがよほど不敵に、にこりと笑って答えた。
「もちろん出るわ! アリスは戦ったって強いんだから!」
「……だ、そうです」
お姉ちゃんとしてはなにか気の進まないことでもあるのか微妙な態度だったけど、幸村を納得させるには十分だった。
「よ、よし、絶対来いよ、決勝のリングで待ってるからな!」
「ゆーきーむーらー、その態度は失礼だからやめたまい」
私は後ろからのしかかって、突きつけた指を降ろさせた。例によって「やーめーろーよー」とかいってるのを無視して、瑠衣さんにぺこりと頭を下げる。
で、弟よ。本当に来て欲しいのは、本当はどっちなんだね。うりうり。
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