放課後ロボライダー:1
うちが実際に入部届けを出したんは、出会ったその日やのうて、翌日やった。
取り上げられたVRゴーグルを返してもらうために一仕事あったんを、二人して忘れとったんやね。あほらしい話やけど。
かてて加えて、うちが操縦する「ロボット」と実際に対面できたんは、さらに後。
ドローン、やのうてロボット。あるいはUGVとかなんとか。
ドローン部、いうんが通称でしかないことくらいは、うちも聞いてはおった。せやかて、実際に部で使っとる「無人機」の詳しい種類やら呼び方やらは、なかなか覚えられんかった。
「私たちは地上班なんで、厳密にはドローンは操縦しないんだけど、輸送には空中班のドローンに乗せてもらったりするから。ドローンて言っても全部がマルチコプターなわけじゃなくて――」
と、可奈子はニコニコしながら教えてくれる。ああ、語れるのが嬉しいんやろなあ。これがゲームのことやったら、うちもああなるんやろな。
うちらの学校でもでかい部なんで、部室もロボットをいじる作業場はやたら広いし仕切られとった。部員も多すぎて全員は紹介されんかったし、されてもよう覚えきれん。ただ、部長だけはさすがに一発で覚えられた。この御仁、うちのHNを聞いて「ああ、もしかしてeスポーツ全国大会で……」と反応しよったんで。
まあ、ゲーム対戦歴は長いかんね、見られとっても不思議やないね。こう見えてもそこそこええとこまで行ったことあるねんで?
と、いう話を部長と盛り上がろうとしとったら、ただでさえ丸い可奈子の顔が心なしかさらに丸い。眉毛を八の字にせんでもええやんか。
「スカウトしたのは私ですからね、部長にはあげませんから」
棘のある口きいて、うちの腕を引っ張りよる。おお、なんや、うちを巡って修羅場か? まあ、うちとしても他の部員と組む気はないねんな。それはそれとして可奈子さんや、うちの肘があんたの胸にめり込んどりますけどええんか。
見た目に違わずやらかくて、うち、どうかなりそうやけど。
ちなみに、このときも可奈子はいつもの芋ジャージやった。見ると部員にもわりかしジャージ姿が多い。とくに女子で、スカートひらひらさせとるんは小数派やった。
「だって、何かにひっかけたらやばいし。なんと言っても授業も部活も体育もこれ一着でOK、しかも部屋でだって着ていられる、生徒の万能ウェアですよ?」
可奈子はきわめて真剣なまなざし眼鏡越しに向けてきよる。
「あかんて、それ、ただのズボラや」
「合理的と言って」
いや、部活で油まみれになったら、そのまんま布団には入れへんやろー?
「したら、その髪ももしや」
「楽だし、前に垂らすと何にひっかかるか解らないじゃない?」
えーと、たしかに、伸ばしてても後ろでまとめとる子、多いねんな。うちもなんかのときはそうするんか。せっかく染めとるもんを切りたくはなかね。
とはいえ可奈子の本音は、先の「楽」なんやなかろうか。
うーむ、たまには違う恰好も見てみたか。
人の気も知らんと、可奈子はロボットの置いてある作業机まで、ぐいぐいとウチを引っ張っていく。
「ほんまに強引やな。もう入部したけえ、逃げんって」
「あ、ごめん。早く見せたほうがいいかなって」
可奈子は笑ったけど、ちょっと苦笑いに見えた。何か焦るようなこと他にあるんやろか。
「だって、整備終わったらまた、ゾーンに送っちゃうし」
「そういや、最初にいじったときはいきなりあそこにおったんな」
無人のロボットやから、動ける間はずっと現場に起きっぱなし、ちゅうことも可能やってのは解る。とはいえ本当のところは、わりとすぐ電池切れたり、しょっちゅう壊れたりするんで結構頻繁に帰ってくるんやて。
したら、なおのこと焦る必要ないやんな?
とはいえ、それはほかでもない、可奈子が作ったいうロボットや。そのへんで売っとるもんとは、わけが違う。うちとしては、会っておかんわけにはいかんわな。
すでに一度はうちの体にもなったわけやし。
もっとも、実際に対面すると、うちとしてはなんと言っていいか悩むもんやった。
いや、最初から解っとったで。キャタピラと腕がついとることは。そこがいかにも素っ気ないメカやったから、そら、全体もそんなもんやろうということは。
ちゅうても、可奈子が作った、いうからには何かそれらしいところがあると思うやろ。
で。
ぱっと見戦車みたいな車体と、機械の腕1本と、あとは頭っぽいのが上に飛び出しとって、たぶんここがカメラやんな? うん、悪いけど、部の備品とか軍隊の装備や言われても、正直区別つかん。
「いや、さすがに部品は買ってるから」
それは言い訳なんか可奈子はん。
まあ、しいて言うなら丸っこい頭に丸いカメラ二つついとるところは、眼鏡みたいで可奈子に似とらんこともない、か?
ほかのは、と見ると、だいたい頭角張ってたりカメラは一個だったりするみたいやね。
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