Aliceの冒険(Side:A-2)-4
そろそろ、外じゃみんなの学校も終わる頃。その証拠に通知がいっぱい来るようになった。けど、今は出てる場合じゃないからチラ見するだけでスルー。
ロボットのフォーラムのほうにも何か上がってる。
お姉ちゃんからは、五分置きくらいに来てるみたい。
でも、こっちはとうとう、ゾーンに突入しようってとこなんだ。よそ見なんかしてらんないよ。
GPSの座標は間違いなくゾーンに近づいてるけど、空中には立ち入り禁止の柵はない。大型のドローンなら、アリスのカメラの性能でも多少遠くから見える。けど、小型機だったら、ちょっと難しい。激突まではめったにないとしても、できれば見つかるのも避けたいし。
もっと難しいのは着陸。目の届かないところでやったことないもん。地面がどんなことになってるかも、今じゃもう、わかんない。
けど、一定、事前に計算しといた動作はある。昔の地図から大きく変わってなければ、この先はしばらく大通り。それから高度を下げつつ、角を曲がる。街路樹や電柱より低くなっても回避はなるべく自動。タイムラグがいやだから。でも、倒れてたりして予想と違うときは仕方が無い。
緊急回避、ゲームやる人とかだったらもっとうまく出来るのかな。私もちょっとはやるけど、バーチャルだけの大会とかには縁が無かったからなあ。
そして外縁ブロックを抜ける頃、先のほうに大型のマルチコプター型ドローンが何機も飛んできてるのが見えた。
PMCが、自分とこのドローンを探しに来たのかな。もしかしたら、かなちゃんたちの学校かも。そろそろあっちも放課後、しかも向こうのほうがゾーンの近所だから、先回りできる計算にはなる。
ネットで、かなちゃんに聞こうかとも思ったけど、やめた。低空では何にぶつかるかわからないし、こんなに道中にゴミが散らかってちゃ、安全に降りる場所を探すだけで一苦労。見つからないといいけど。
こっちのほうに公園があったはず、あそこなら軟着陸できそう。スカートをめいっぱいエアブレーキに使って減速、ジェットを前に向けて逆噴射。
でも、ちょっと計算が狂った。砂場に軟着陸するはずが、木々の間を突っ切ってしまう。おかしいな、この公園は知ってるのに。それに、今時期なら葉が茂ってるはずなのに、ほとんど枯れ枝。おかげで見通しだけは良かった。枝にひっかかりながらむちゃくちゃに減速して、突き抜けたころにはほとんど速度ゼロ。でも、これなら逆に、垂直着陸できる。そして私は、あのとき以来何年かぶりに、私の生まれた町に立った。
ありていに言って、廃墟。
何があったのか、壁が崩れたり、道に穴が空いたりしてる。本当にゴジ○が出たんだって言われたら、信じそう。
大好きだったパン屋のショーケースが砕けて中身が無くなっているは、動物がみんな持ってっちゃったのかな。最初のアリスを買ったおもちゃ屋さんのショーウィンドウも割れて、中のぬいぐるみがみんな倒れてる。
アリスの視線だから、子供のころみたいに、なにもかもを見上げる形になる。もちろん本当は、いくら私だってホビーロボットより小さかったことはない、あったとしたら歩いてない、はずだけど。
でも、あのカウンターから、お店の人が笑いながら見下ろしてたのは確かで。
今は誰もいないのも事実で。
いとも簡単に、泣きそうになる。お姉ちゃんがいてくれたら、見栄張って我慢できるかも。ううん、逆に抱きついて泣いちゃうかな。
でも、今はいない。なんでいてくれないの?
分かってる。勝手に飛び出した私のせいだ。でも、悔やんでも遅い。
「ゾーン」なんてもったいつけた名前で呼ばれる理由も、ちょっと分かった。ここで起きたことは、絶対、ただごとじゃない。
けど、わけがわかんない。考えてもわからない。マッドなお茶会に呼ばれた物語のアリスも、こんな気分だったのかな。
たぶん、違うな。
そして、ビルごと崩壊しかかってる、私の入学祝いを買ったデパートに、灰色のプロペラが突っ込んでるのが見えた。
プロペラはひん曲がって、胴体も折れていたけど、その形は今朝上がっていた、行方不明の「プレデター」の姿と一致しそう。
番号とかマークとかは、もっと近づかないとわからない。別の機体だとしたら、夕べのはまた別のところに落ちてるかもしれない。
もっかいくらい余計に飛べるかな。私はアリスを、その上のフロアにジャンプさせた。足下がおぼつかないけど、なんとかバランスをとる。ホビーロボット競技会で、毎回障害物競走に出といたのは、こんなときのためだ。
でも、ちょっと判断を誤った。上からだと、灰色の機体に灰色の瓦礫がかかって、よく見えない。たぶん、さっき飛んでたドローンからも見えにくいだろうね。
って、待って。もともと置いてあったわけじゃないのに、上からビルの破片が被さってるのって、おかしくない?
あるとしたら、昨日はまだ立ってたビルに、これが後から突っ込んだ、ってことになる、よね?
何してくれちゃってるのよ、私の思い出の場所で。
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