「可愛い」を探せ-3
うちは甘かった。
女子が二人してショッピング、いうたら、なんぼなんでも着替えてくるやろ、思うとったんやけど……
「ジャージ、浮いとるで」
うちは可能なかぎり冷ややかな声を演出したった、つもりやったが。
「いつも来てるから問題ない」
可奈子は、ヌケヌケと言い放ちよる。来とるんかーい、その恰好で!
「で、どこから?」
いちおうは希望を聞いてくれるぶん、いつもよりは遠慮しとる、つもりやろか。
「うちとしてはまず、可奈子の着替えをなんとかしたい気分やけどな」
しかし、ジャージで入れる服屋か。そうなると、イチオシのとこは無理やなー。し○○らとか、あのへんならどうやろか。
まあ、予算的にも、そのへんが限度やけど。
したら最初から敷居の高い店、候補に入れんなや、て話やろが、ちゃうねん、そういう問題やないねん。うちは可奈子にやな-。
「お、いたいた。やは」
例によって人の気も知らんと、可奈子は勝手に誰かに話しかけとった。誰や、うちらの間に割り込むんは。同級生か部員か、いずれにしろ承知せえへんでー!
勢い込んで振り向くと、可奈子は中腰にかがんで、白い子供に話しかけておった。
乳ばかり目立つわりに、尻はそんなでもないんやねえ、とか思うとる場合やない。これじゃいよいよオッサンやんか。まして触ろうとかしてへんで。ほんまやで?
ちと誘惑にはかられたけど。
それは置いといて、いったい相手は誰なんや。
まあ、ちょっと見ればすぐ解ったし、まんざら知らん顔でもなかった。
「久しぶり。いつもその恰好だね」」
同意せざるをえんような返事しとったのは、同級生でも部員でも親戚の子でも無うて、ロボットやった。
小学生くらいの背丈で、白いプラスチック製。丸い目をした接客ロボット。モールの入り口あたりにある案内所で、始終せわしなく客に語りかけとったやつや。
「よしよし、認識機能もしっかりしてるね君ぃ」
「て、結局最初っからロボットかーい!」
どっちにかは自分でもようわからんけど、突っ込まずにはおれんかった。
「なんか悩んでるからさ、こっちのが早いと思ったんだけど、なにかまずかった?」
「そもそもうちが何を悩んでると思とるんや」
つーか、誰のせいやと。
「初代より表示もスマートだし、AIも良くなってるから何悩んでても平気」
んなこと聞いとらんわ!
まあでも言われてみれば、子供の頃見た初代のやつは、胸にとってつけたよーな、でかいタブレット抱えとったっけね。
よっしゃ、可奈子のココロを奪うに値するやつかどうか、うちが見定めたる。ちと意地の悪い気持ちを込めて、あいまいな質問をしたった。
「可愛いお店、どこかなあ?」
ついでに思いっきり声も作った。ロボットがどう捉えるかは知らん。ただ、可奈子がそこで、ぷっと吹き出したのは見逃さんかったで。ほんま今日のあんたは失礼やな!
「可愛い、お店、かあー。そうだなー」
お、こいつ、オウム返しに答えるだけのくせに、いっちょまえに考えるふりしよる。
「このへんで、どうかな?」
ロボットは初代よりはスマートに埋め込まれたパネルの脇に両手を添えると、案内の3DCGを浮かびあがらせた。モールの立体地図や。傍目には透明の模型を、四次元ポケット的なあれから持ち上げた、ようにも見える。
「可愛いお店は、服が三軒、食器は一軒、ステーショナリーグッズは一軒、ペットショップが一軒、メイドカフェが一軒あるよ。どこに行きたい?」
うっ、テキトーな質問やったのに、それっぽいのが並んどる。しかも、ちゃんとウチのお気に入りの店が入っとって、服屋なら全部入るかと思いきや紳士服は外してある。
さすがに、想定内のワードやったろか? まあ、これが完璧かどうかはわからんが、ペットショップとメイド喫茶を入れてくるかー。そうかー。
「で、どう、この中に行きたいとこある?」
ロボットやのうて、可奈子が聞いてきた。
「ま、まあな……そっちは、どないや?」
「私は、この子だけで満たされたからいいよ」
可奈子は案内ロボットの頭を撫でた。
「ここで私の可愛いといったら、この子だからね。どう?」
どう、と言われても。その微妙に笑ったみたいな顔のつくりが、角度によっちゃむしろ、むかつく、言うたら可奈子は怒るやろか。
せやけど、よう見るとなるほど。目のところが丸くくぼんで、頭全体は丸っこいところは、うちらの戦車ロボットと似とらんことも、ない、かな?
こいつ一体買うて塗り直したら、可奈子ロボになるやろか。戦車と違て、人型やったら服も着られるわな。その場合……
あかん、もうジャージしか想像でけへん。
うちは本題を思い出した。
「とりあえず服見にいこか。もう、可愛くなくてええから、せめて一般人の恰好してや」
うちは指を当初の見込みどおり、し○○らのCGに向けた。一応、可愛い店に入っとったけど、ロボットに気ぃ使われたような気もせんでもない。
……個人の感想やで?
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