「可愛い」を探せ-2

「……って、ただのバッテリー警報やん、おどかすなや!」

「それで驚いてる君のほうが驚きだったよ」

 部長はくすくすと笑いながら去って行く気配。うぬれー。

「慣れたと思って適当やってるから。位置情報出して輸送ドローン呼んで。回収したら、私たちの今日の活動は終了」

 呆れたような可奈子の声のほうが、部長に笑われるよりこたえるな。言われたとおりにして、ゴーグルのモード切り替える。あらためて見ると、リアルの可奈子もやっぱ、眉毛を八の字に下げて苦笑いしとった。

「ステータスモニタしとったんは、あんたやろ」

「イベント起こせって言ったじゃない?」

 うぬれ、はかったなお主。

 半分のVR視界の中では、ドローンがうちらのロボをがっちりと掴むんが見えとった。今度こそ、ちゃんとロックを確認。空中班の操縦者のほうとも、チェックを交わして、うちの仕事は終わり。あとは無事、愛しのロボが戻ってくるのを待つだけや。

 ゴーグルを外す前に、ちらと時間を見る。

「なあ、終了時刻まで、これでゲームしてたらあかんの?」

 ドローン部のゴーグルは、授業用のとほぼ同じやけど、通信機能がちと高め。さすがに、地球の裏側の軍用ロボと繋がるだけのことはあるわ。

 せやったら、それでゲームの通信対戦もしたくなるんが人情ってもんやろ?

「部のサーバのリソース食うなよー」

「けちくさいなー。せっかくまた、うちの華麗なるテクニックを魅せたろう思ったんに」

 可奈子がうちのプレイを覗いとったことは知っとんのや、興味がないとは言わさへんでえ?

 ところが、可奈子は乗ってこんかった。

「私はちょっと、次の仕様変更の検討するからパス」

「えー、ちょい待ち、したら今度こそ可愛くしようや」

 釣られたんは、うちのほうやった。や、もちろんゲームはしたいんやで?

 せやかて、ジャージ色のまんまのロボには、ひと言口を挟まんと気が済まん。

 言うまでも無く、可奈子は今日も指定の芋ジャーや。ちいとは暑いんか、前のジッパーは下げとるが、下もただの体操着。ただ、名札がゆがんでまともに読めん。

 体育が合同になったこともないんで、うちはいまだに、可奈子が着替えたところを見たことがない。本当に着たきりなんやあるまいな?

 てか、この体操着の下にどないしてあのでかい乳収めとんやろ。気になるわ。あくまで女子として。うちはサイズで悩んだよな贅沢な経験はないけどな、可奈子は大変そうやん?

「結羽さんや、そのオヤジくさい視線は、ロボットの可愛さとどう関係あるのかな?」

 可奈子の冷ややかな視線を、眼鏡の透明感が増幅しとった。あかん、ばれたか。

 てか、女子としてやってのに、オヤジくさいは失礼やな!?

「クラスの女子とは、そないな会話せんのかいな」

「男子のいるとこでは、さすがにしないわ」

 せやな。たまに油断するけど、この部室も半分は男子やった。

「そもそも、結羽のいう可愛いロボットの基準てのが、ちょっとわかんない」

「おや、恰好良くないのは認めたんやなかったん?」

「アニメの巨大ロボ基準の話だし、格好良いとカワイイは違うよねえ。ていうか、私はそれなりに、可愛いつもりで設計したんだけどな、あれ」

「……そら初耳」

「じゃあ、こないだの軍用と比べてみてよ」

 部屋の隅に、先日うちが戦場でやらされたんと同型やっちう、アメリカ製の地雷探査ロボットが置いてあった。仕様がちいとちゃうけど、カメラが角張っててごついのは同じやっちゅう話。

 まあ、あれに比べればたしかに、うちらのロボットは頭も丸っこいし、カメラのとこも丸くて二つあるから、なんぼかは可愛え、いうて間違いない。

 なんちゅうても、作った可奈子にちょいと似とる。

 いやいや、そこははじめから認めとるねん。うちが言うとるんは、だからこそもっと可愛くなるはずやっちう話やねん。おそろいの芋ジャー仕様にしてどないすんねん。

 うちとこの制服やって、ベストとプリーツスカートいうなんのヒネリもないデザインやけど、ジャージよりはちったあマシやで。たまには着てこんかーい!

 ……ロボットの話や。このパターン何度目や?

「よかろ」

 うちは一計を案じた。

「可奈子さんや、このあとヒマ?」

「何に付き合わせる気かな?」

「このさいや、決着をつけたろ。可愛いとはなにか、はっきりさせたろやないか」

「具体的には?」

「駅向こうのショッピングモールで」

 女の子が連れ立って、可愛いモノ物色するいうたら、そのへんが無難やろ。服でも小物でも、なんかあるし。

 ゲームもな……いやいや、あかん。今回はそれは我慢や。

 いまゲームやるタイミング逃したぶん、よけいにハマるのは目に見えとる。あ、でも、可愛い縛りでファンシー系とかキャッチャーならありか?

 うちのほうはこないに自制しようと悩んどるっちゅうに、可奈子はといえば。

「ふむ……いいよ。あそこなら、ロボットもいるね」

 しもた。うちは早くも計画失敗に気づいた。

 てか、ちっとは自重せや。人の気も知らんとー! まあ、このブレないとこが可奈子のおもろいとこでもあるんは確かなんやけど。

 まあ、ええか……いまどき、なんのロボットもドローンもおらん所のほうが、探すの難しかろ。

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