「可愛い」を探せ-4
女の子二人で、量販店とはいえ服屋に入って、となったらもうちょいと、あれが似合うのサイズがどうのとキャッキャウフフしたり、同性をええことに着替え手伝うたりするもんやなかろか。
てか、うちはそのつもりで、なにが似合うかのうフフフとか時間たっぷりかけて物色したかってん、可奈子本人はといえば。
いきなり店の前に吊られてた、なんかのタイアップのマークがついたTシャツをとって「このへんかな」とか勝手に納得しとる。
ちゃうやろ、色とか柄とかもうちょい悩む余地あるで? てか、買わんでもええから試しに着てみよ、とか言わせぇや!
「あ、これは楽そうでいいな」
次に手に取ろうとしとったんは、腰にゴムが入ったルーズパンツで。
「ジャージと大差ないやんけ!」
「むしろ結羽がこういうの履くべきだと思うなあ。いつも足ばたばたさせるんだから」
「ここで操縦するわけやなし」
可奈子は不承不承、ルーズパンツを棚に戻した。それから、となりの棚のスラックスをじーっと眺めとる。
「せっかくやし、こっちのスカートも穿いてみん?」
「どうせ床に座ったりするしー」
「ここは作業場でも無か」
ええい、こうなったら、うちが適当に見繕って押しつけたろかとも思うたけど、これは、てやつに限って今度は予算の壁が邪魔しよる。
なんせ元が上下芋ジャーやけん、ちゃんとしよう思たら上下フルセットや。痛いわ-、どこかに丸顔巨乳眼鏡っ娘に可愛い服を着せたがっとう金持ちのおっさんとかおらんやろか。着せたら満足してどっか行ってくれるん。無理か。
とか言うてるうちに、可奈子は勝手になんや選んで試着室に入ろうとしとった。
「て、手伝ったろか」
慌てて、ついでに女子ならではの気安さでカーテンに首突っ込みに行く。せやけど可奈子はえろうつれなくて。
「困るようなの選んだつもりはないけど、なにかねその目は」
ジャージの上だけ脱いだ体操着姿で、じと目を返してくれよった。
「ちったあ困るようなもんに挑戦しぃや」
男子向けラッキースケベとか期待しとらんで?
部室からこのかたずっと、どないなブラつけとんのかは気になっとぉけどな。
結果的には、なるほどいちおう一般人の姿にはなったものの、可奈子のセレクトは、うちの期待からはまだ遠かった。
てか、印象としてはあんまし変わらん。飾りっ気なし、動きやすさ重視のパンツスタイル、ジャケの下は謎T。胸のマークはロボットアニメの部隊章なんやて。ブレんなあ。
ともかくも、最低限の条件がクリアされたんやし、他にも店を回って、可奈子に「可愛い」とは何かをじっくりと教えんとあかん気はしとる。
「……いっそ、ここでも入ってみっか?」
今度はロボットに頼らず、メイド喫茶の看板の前で立ち止まってみる。モールに入るよな店やし、あんまし濃すぎるちうこともなかろ。実際に入ったことはないけど。
「こういうとこって、ジャージで入っても、お嬢様って呼んでもらえるのかな」
「試すなや?」
たぶん呼んではもらえるやろが、恥ずかしくていたたまれなくなりそうや。
うちが。
「結羽はこういう服が着たいんだ?」
「自分で着るんと見るんは別やろ。猫可愛いってやつはみんな猫になりたいんかい」
「……着ないの?」
「……昔は着とった。今はタッパが逆にちと、な」
「せっかく髪染めてるんだし、本格イギリス風なら似合いそうだけどな」
なんやその提案。あんた、自分の心配せや。
「あ、猫といえばペットショップもすぐそこだ」
おう、話が巻戻った。てか、そこに食いつくんかい。まあ、ええけど。
「可奈子は猫派と犬派どっちや?」
「その二分法があんまし好きじゃないな。フェレット派とか爬虫類派とかの立場はどうなんの」
「爬虫類派なん?」
「私たちと別のリクツで動いてそうとか、表情読めないとこはロボットみたいで嫌いじゃないな」
「結局またソコかい!」
「まあ本当は、強いていえば……おお?」
ペットショップのウインドウから覗ける運動場に、くりっとした目の小型犬が走り回っとった。品種はよう判らんが、こっちの姿を見て寄ってくる。
「この子、可愛いねえ」
「今日、初めて意見が合ったのう」
意外といえば意外やけど、ようやっと安心できたんも確かや。
「なんや飼っとる?」
「試作の犬型ロボットならいるけど、本物のペットは無理かな」
「うちは実家になら猫おったけど、いまはなー」
「結羽の印象がネコ科っぽかったけどな」
「今は違うんかい」
しばしガラス越しに子犬をかまって、いっそ中で抱かせてもらおか、しかしどっちも実際に飼えるわけやなし、と未練がましくうろうろしとったら、店内の掲示板に新たに犬の写真が貼り出される瞬間に出くわした。
「里親募集やろか」
「いやー、だとしても引き取れないから、可愛かったらかえってまずい」
……見てもおらんうちからメロメロになってどないすんねん。しかし、たしかに写真の犬は可愛えテリアやったけど、引き取りの話やなかった。
「探しています、やて」
言われてみると結構、猫がいなくなったの、インコ拾ったのて掲示がある。いまどきはネットで拡散やろと思っとったけど、こういうんも健在なんやねえ。
眺めていると、そのチラシを貼っていたあんちゃんが、うちらに気づいた。
「君たち、ちょっといいかな」
なんや、ナンパか、うちはとっさに、可奈子の前に出た。あの乳を見知らぬ野郎の目にさらしてなるもんか。
けど、あんちゃんが見とったのは、うちの制服のほうやった。
「君たちの学校、ドローンでゾーンに入れるところだよね?」
制服マニアちゅう訳でもなさそうやった。改めて、チラシを渡されて文面を見る。
「ゾーン内で行方不明、やって?」
うちは可奈子と顔を見合わせた。なして、そないなとこ連れてくねん?
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