「可愛い」を探せ-5
翌日、チラシを持って部に出ると、部長はとうにその話を知っとった。
「昨日、部のSNSに依頼があってね。うん、依頼人の名字と同じだ」
「あれま」
うちと可奈子はまた顔を見合わせた。当然のことながら、可奈子は今日もジャージや。そらま、学校に昨日の服は着てこんやろーけど。
依頼の書き込みについとった画像も、アングルちゃうけど確かにチラシのと同じ、中型のテリア。毛は黒っぽくてモフモフ。名前も一致。「ジェイク」君やて。そこは可愛い系の名前やないんか。
「本社には行かなかったんですかね」
可奈子が首をかしげる。そらそうやな、うちらが「ゾーン」にロボット入れられるんは、部活ちう建前で実質、「本社」様から仕事頼まれとるからや。
あそこで捜し物するんも、外国で地雷処理するんも、基本、本社が窓口になっとるもんやと思っとったけど。
「まあ、ペット探しにいちいちPMCに連絡する人もそうそういない。先代のころまでは、直接依頼も結構あったよ。そのころはまだ、連れて逃げられなかったのが結構残ってたから」
「今度のは、今になってわざわざあそこに向かったってことよね」
「犬の事情はわからないけど、断る理由はないだろう。ところで、今から予想地点に投入できる地上機というと……」
「はいはい、バッテリーのチャージは済んでます。輸送機回して」
最初からこうなると判っていたように、可奈子は作業場のオペ席に向かった。充電器に繋がれた、うちらのジャージ色メガネッコ戦車ロボは、グリーンランプで待機中。
「ま、そうなるわな」
もちろん、うちもこうなるやろとは思っとったんで、すかさずゴーグルを取り出した。ほんまやで? あんな可愛いワンコが廃墟をさまよっとるんや、地雷踏ますほどやないにしても、ほっとくわけにもいかんやろ。
ちょいとまずいな、思うたんは、投入座標を確認してからやった。
「いつも走っとるあたりより奥やな」
「元の家がそのへんだから、戻ってるとすれば多分、て話だけど」
そらま、自宅がその後「ゾーン」の奥地になるなんて、予想して住んどったやつはおらんな。
「ふだん行かないあたりだからデータが十分かどうか。あと本社軍ほか警戒部隊の軍用機に間違って攻撃されないよう、IFFは出しっぱで」
いずれにしろ、機体はもうランディングや。覚悟は決めなあかん。
地形データは輸送機からもらいつつ、そのまま引きつづき上空監視をお願いするいつもの体制。ステージが新しうなっただけや、自分に言い聞かせてリリースのキーを押す。
「ワンダバが欲しいとこだねえ」
「男子っぽいことを言う」
言うたものの、ここでカッチョイイBGMが流れたら盛り上がるんは間違いない。そこは認めるで。ゲームかてそうやん。うちは何となく覚えとる古くて有名なんを口ずさんでみた。
つったかたー、たかたった……歌詞までは知らん。
「救助隊のほうか」
「救助隊やん、うちら。少なくとも戦闘ロボやなかろ」
「レスキュー戦隊ロボのテーマもあるんだけどな……む、微妙なことに」
「うち音程外した?」
「じゃなくて、気象情報」
VR画面の隅に出るデータだけやと、スマホで見るよりたよりない予報やけど、なんや上空の大気が不安定とか言うとるらしい。
うちは頭上を見上げた。いまのところは、よう晴れとる。けど、ずっと遠くには、雲が見えるような気もせんでもない。
「部活中は保ってくれるといいな。ともかく急ごう」
「らじゃ」
うちは慎重に前進を始めた。奥地やからて、瓦礫や廃墟には違いはあらへん。
少なくとも、見たところはそう思えた。
残念ながら、天気は保ってくれんかった。びっくりするよーな勢いで、めっさ暗くなってきとる。てかVRの視界やから、いきなり眼前なんか塞がれたみたいや。
「光度上げて。空中班は帰還間に合わないから廃墟のどこかで雨宿りだって。雷に備えて通信回線保護」
「かなわんなー」
何がかなわんて、目当てのジェイク君、色黒やねんで。暗くなった上に空から見てもらえなんだら、見つけにくうてかなわん。
「降ってきたら、犬だって雨宿りすると思うよ」
「したら物陰や、よけい見えんわ。けど、飼い主によるとあんまし物怖じしない子や、いう話やん。涼しい言うて歩き回っとるかも」
言うとる間に、雨が本格的に降って来よった。カメラにも水滴が付いてきよる。ますますもって見づらいことこの上ない。
「捜索を中止して、朝ハワイのオペに引き継いでもらうか?」
部長が無体なこと言う。現実的っちゃそのとおりやけど。
「可奈子のロボは、雨くらいでどうにかなるんかね?」
「全天候に決まってるでしょ、なめんな」
「したら、決まりやね」
威勢のええコト言うた直後、雷鳴が轟いてうちの視界がブラックアウトしよった。
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