第0話(Side:結羽)-2
うちにはまず、この眼鏡が「訳のわからんことを言う女」と認識された。何かの引用やったらしいけど、んなもん解るかい。
それより、うちにとって大事なのはゴーグルとパッドのはず、なんやけど、胸の高さに掲げられているとどないしても、同時に、胸自体も視界に入る。
「てゆーか、でかくね?」
うっかり声に出た。いやマジな話、体自体は太くもないんでこれが目立つんよ。
「オヤジか。まあ、よく言われるけど」
可奈子は恥ずかしがるでもなく自慢するでもなく、じつにドライなもんやった。
可愛げがないちゅーか、あざとさがゼロっちゅーか、これは男子も困るやろな。せっかく可愛い顔しとんのに、と、余計なことまで考えてから雑念を追い払う。
「で、ウチにどんなゲームをさせてくれるん?」
「ゲームかと言われるとちょっと語弊があるけどね、ある意味、リアルさは保証」
「……もしかして、ドローンのほう?」
IT教育強化校とは仮の姿、真の目的はサイバー戦要員養成、ちゅうのは公然の秘密。金を出すおっさんの「ゲーム世代に無人機操縦させたら良いんじゃね?」という思い込みの産物。資金源の「本社」は民間軍事会社とかいう物騒な業種やっとんねん。で、業務(婉曲表現)用のドローンを、世界中の生徒に操らせとるとかいう。こん目の前の眼鏡は、そのとおりのことを直接頼みに来たんやろか。
「ごまかしてもしょうがない。それよそれ。まあ、私は厳密には地上班だから、ドローンとは言わないけど。UGVとか」
あっさり認めよった。
「でもこれは保証する。ウチの部なら正式に、他の誰も入れないステージに行けるんだけど」
可奈子はまったく悪びれん。うちとしては、素直にうなずきとうはない。
「けど現実のロボットなんて、ゲームのやつほど格好良くないし動きもとろいやん?」
突っ込むとこそこか、とは、自分でも思うんやけど。ところが可奈子は皮肉にも素直に答えよる。
「そこは今のところ否定できんなあ、戦車みたいなもんだし……けど、ステージは自動的に更新されるから飽きないよ。なにしろ毎日ちょっとずつ、勝手に壊れるからね、あそこ」
「……それ、『ゾーン』のこと言うてる?」
謎めいた避難指定区域のことくらい、うちでも聞いたことはある。ただし、その実体はやはり謎。テロやら某国のミサイルの誤射やら宇宙からなんか落ちたやら、公式からネットの噂まで百花繚乱、どれがホンマかもう訳わからん。
「話早いなあ。意外と頭回るね」
「意外と、は失礼やな」
「よけい気に入った。それじゃ、百聞は一見にしかず、てことで」
「押しが強いなあんた」
「どうせサボろうにも、ゴーグル取り上げられたんでしょ?」
図星を指されると同時に予鈴が鳴って、教室移動を控えた生徒が急ぎ足で飛び込んでくる。次の可奈子の行動は、さすがに予想外やった。
気がつくと個室に押し込まれて、便器のフタに座らされ、ゴーグルを被せられった。
「お、君もわりと眼鏡似合うねえ。どうよ、このさい電脳メガネッコにならんか?」
可奈子は一緒に個室に入って、後ろ手に鍵を掛けた。
「何考えとんねん?」
「君のことが気に入ったから、一緒にさぼってもいいかな、と思った。珍しいことですよ?」
可奈子はそう笑ってうちの手にゲームパッドを押しつけっと、自分も眼鏡に触れて何かの操作をしつつ、タブレットPCを取り出して画面にも触れる。
「GUAM―Op、Req=LD3、アイハブ・コントロール、OK? よしデータ回ってきた」
説明を受けるより先に、ゴーグルにデータが転送されて来よる。どっかで見たようで、誰も見たことのない廃墟の風景がそこにあった。
「あ、狭いからちょっと、失礼。重いとか言うなよ」
ふにっとした感触に、ついゴーグルをずらして現実を確認する。可奈子はうちの太腿の上にぬけぬけとまたがり、手を背中に回してきた。巨大でやわらかい胸が、自分のどうということのない胸に押しつけられる。なんやこれは、男子向けのラッキースケベイベントか?
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