放課後ロボライダー:4

「そんなの映画だけだってば。凍結させて運び出す手もあるけど、今は装備してないようだし、周りの人に警告して退避してもらって……あとはその場で爆発させちゃうのが一番安全かな」

 可奈子の方で、警告シグナルを出してくれた。さっきの兄ちゃん達が了解のサインを送って塀に隠れる。空中の別のドローンから、周囲に人がおらんのを確認してもらう。崩れた家の中も、だれもおらんようや。

「さっきのワイヤーひっぱれば爆発するんやね?」

「その置き方だと、道に向けて破片が隙間から飛び出すと思うから、ロボットは壊れるかもね」

「壊れるのはリスクのうち、やろうけど……」

 うちは一度、次に怪しい車のほうを見た。ここでロボットが壊れたら、こんどは誰があっちを確かめるんやろ。また代わりのロボットが来るまで、みんな待たされるんやろか。それとも犬が来るんかな。そう思ったら、ちっとは、頭使わな、て気になった。

「なあ可奈子さんや、このロボットであの上に乗っかったら、どうなるん?」

「さっきの画像からすると、石がつかえてすぐには潰れないと思う」

「したら、その上で引っ張ったら安全やんな?」

 うちはまず、遠廻りして爆弾に被さってる瓦礫に乗り上げていった。みしみしとか言うとるんか、視界はちょっとヤな感じに震える。でも、なんとかうちは、埋まっとる爆弾の真上に乗り上げた。そこから、ゆっくりとアームを地面に向けて伸ばす。ああ、タイムラグがもどかしい。あと動きがなんか硬くてフィーリングに合わん。可奈子のロボットは、そんなことなかった。なんちゅうか、こう指の動きに吸い付いてくるような。

 それでもやっと、地面から仕掛けワイヤーを掘り出して、ゆっくりとテンションをかけんようにつかむ。タイムラグが0.1秒もあるけん、動きの先を読まなあかん。格闘ゲームのキャンセル技みたいや。なんとか無事掘り出せたら、一気に引っ張った。

 次の瞬間、世界が上下に激しく揺れた。

 あっ、と思う間もなく、二、三回バウンドすると、普通に座っとるのに視野だけが横倒しっちゅう奇妙な状態に。土煙がもうもうと上がっとるんは見えたんで、爆破は成功したっぽい。

「可奈子-、これ、どうなっとるん?」

「壁ごと吹っ飛ばされて転がってる。マシンのステータスは、お、意外にも大きなトラブルは出てないみたい。どこか物理的に壊れてない?」

「どうやらアームは動くし、先っぽのほうも、ちょっと焦げただけっぽいで」

 カメラの前にかざして確認すると、うちはアームと補助キャタピラを、よっこいせ、とばかりに動かしてロボットを立て直した。よしよし、ちゃんと動くな。

「第一ステージクリア。さて、次いったろか」


 結果をいえば、いちばん怪しいと思っとった車には仕掛け爆弾は無かった。もともと放置されとったらしく、タイヤがパンクしたまま長いこと走ってなさそうやった。

 通りのひと区画を走破したところで、うちらの担当時間は終了。西の方にバトンタッチして、今日の部活は終了や。

「お疲れ。どうだった?」

 可奈子はうちを気遣ってくれとるんやろが、それとは別に何かを聞きたそうやった。なんやろね。この子のことや、どうせロボットのことやろな。よう考えたら、うちは生まれて初めてほんまもんの「戦場」におったんやで。初陣ちゅうやつや。どえらい学校に来てしもた。

「あんまり足動かしてなかったから、どうしたんだろ、って」

 おや、モニタにはりついとると思ったら、うちの事もちゃんと見とってくれたんか。

 けどまあ、誰が怪我したでもなく、犬も死なんですんだ。あんまし、怖いっちゅう気はせんかったのが正直なとこやね。ただ。

「あのロボットは、あんまし趣味やなかったな」

「そう? メーカーの正規品だし、製品クオリティは高いはずだけど」

「確かにキビキビとは動くんやけど、なんやろね、こう、うちの指に吸い付いてくるような、一緒に歩いとるみたいな感覚とはちゃうなー、と」

 ちょっとエアプレイやってみてから、うん、とうなずく。

「可奈子のロボットのほうが、うちに優しいわ、やっぱ」

「……そう?」

 優しさでもロボは動かんのやないか、とも思うたけど、可奈子はなんもツッコんでこんかった。調子狂うわ。

「それにあれ、可奈子のやつよりさらに、可愛くなかったわ。丸さが足りん」

 うちは調子に乗って、可奈子の乳に、ぴとっと指で触れてみた。

「オヤジか!」

 今度こそツッコミが入って、勢いよく指をはたかれた。

 痛いわ。折れたら操縦でけんようになるで?


 その時は気づかんかってん。

 グアムにやって、予備の一人や二人おるやろに、わざわざ日本のうちらにタッチする必要あるかいな、と。

 仕組まれとったんやないか、あとで言うたんも可奈子やった。

 うちら、試されたんやないかと。

 うちが、学校から「そこ」へ行って、どうするんか、を。



 それから二日、ようやっとうちらのロボットも整備が完了、うちの本意からはかなり外れたジャージ色に塗られた、可奈子との愛の結晶が飛び立っていくのを初めてこの目で見送ることになったわけや。

 今度こそたしかにドローンと呼んでええはずのプロペラついたテーブルみたいなんが、地上班みんなのロボットをつかんで、一斉にプロペラを回し始めよる。人の乗れへんドローン言うても大型やし、これだけ回ると壮観ちゅうか、けっこうな風起きるんやな。

「結羽さんや、私たちがジャージにしてる理由、もう一つあった」

 唐突に可奈子がつぶやく。うちは、しゃがんだ彼女の視線に一瞬気づかず、そしてやっと、あわててスカートを押さえてうずくまった。

「先に言いや、そゆことは!」

「しかし、意外にも普通に白なんだねえ」

「オヤジなんはどっちや!」


 以後、うちは部に出るときは下に短パン履くようになった。

 それはそれとして、関係無いときでもずっとジャージ着てる可奈子は、やっぱズボラなだけやないか、ちう疑いが晴れへん。

 いつか、何か着せたる。恥ずかしいほど可愛いのを。


                     (放課後ロボライダー 初陣篇:了)

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