放課後ロボライダー:3
「そこ」は、「戦場」やった。
ありていに言って。
あたりは砂っぽうて、岩っぽうて。「ゾーン」と同じく廃墟もあるけど、壊れ方があきらかに、ちゃう。コンクリか石だか、うちらはわからんけど、壁には丸っこい穴がいっぱい。
これ、あれやん? 鉄砲や大砲で撃たれたんやね?
間抜けな感想やも知れへんけど、あのロボット対戦ゲームのテクスチャにそっくりやな、思うた。
前と同じよぉに自分の「体」を見回してみると、やはりキャタピラと腕がついとって、でも可奈子のよりちょっとごついし、視界も立体感がちと足りん。カメラが一個の、部室の備品と似たようなやつなんやろな。そんかし、マーカーの情報量はえろう多い。表示は全部英語? 距離計とか、そのへんはまあ、わかる。
後ろを見ると、壁の向こうに青いヘルメットの兄ちゃん達がかがんで、うちの方に親指立てたサイン送ってきよった。
なんかの真っ最中やったんか。そら、交代も急ぐわなあ。
うちは納得しかかって、カメラを前に回し、諸々のセンサー表示を確かめた。
「で、何探したらええのん?」
「IED。まあ、即席爆弾とか、あと地雷」
可奈子はこともなげに言いよる。
「戦争の真っ最中!?」
さすがにうちは声上げたけど、部室はあんまり騒然とせんかった。
「そういう学校の、そういう部だからね。でも戦闘のまっただ中には生徒は送らないし、万が一のことがあっても、そのロボットが吹っ飛ぶだけだから」
「十分、おっそろしいわ」
とは言うてみたものの、実感はまだ、あんまし、なかった。
「組織的戦闘はだいぶ前に終息してて、今は住民復帰のために爆弾撤去してるはず」
「したら、人助けなんかね、これ。前進して大丈夫なん?」
「地面スキャンして。それで何か見つかったらマーカー置いて。このロボットはいま埋設物はろくに掘れないから。なに、軽いから対戦車地雷は踏んでも平気」
それ以外はあかん、てコトやんか。
うちはセンサで足下をスキャンし、カメラにもなんぞアヤシイもんが映っとらんか確認してから、スティックを押した。
……んん?
可奈子のロボットのときは、ゲームのロボットと比べて、とろい、言うた。これは、さらに、とろかった。通信距離が遠いぶん、ごく微妙にタイムラグがあるんやろ。そのくせ動き始めるとシャープで、行き過ぎそうになる。
アームを動かしてみた。ありゃ、ちょっと向きがずれとる。そっか、急かされたんでキャリブレーションせんかった。やっぱ調整は大事やね。
「どうにかならん?」
「こっちで修正かける。一度まっすぐ前に」
言われたとおりにして、腕がごく微妙に斜めになったんを、可奈子がなんやキーボードに打ち込んで、もう一度。ようやく、腕が真正面に延びた。
その先に、警報。えーと、この英語表示は……?
「爆薬、かね。ニオイを嗅ぎつけた、てことで、ええんかね」
「合ってる。問題ない」
気の利いたこという余裕は、さすがの可奈子にも、ないんか。
警報の方向にあるんは、崩れた壁と、元は家だったらしい土台と、壊れた車。日本車っぽい。よく知らんけど。
「どれが怪しいん?」
「定番は車爆弾だけど、古典的には埋めてあるかも」
化学センサー様、そこまではまだ嗅ぎ分けられないっぽい。その意味では犬のほうがまだ優秀なんやて。で、お犬様が吹っ飛ばされることもある、て、そら、今聞かさんといて。そないなこと聞いたらいよいよ失敗できんわ。
こう見えても繊細なんよ、うちは。
まあ、それならたしかに遠くのロボットが壊れるほうがまだしも気楽や。可奈子が作ったわけでもなし。そう思い直したうちは、まず車に近付いていって、その手前で地面になにか違和感を感じて止まった。カメラをじっとズームにする。
「これ、あの壁の下に続いとらん?」
うちの見たところ、なにか埋めた後っぽいのが長く続いとるんやけど。
「古典的なの来たかな。ワイヤーが爆弾に繋がってるタイプ。でも、それがダミーという可能性もあるから」
「ずっこいわ」
跡を辿って、ガレキの下をのぞき込む。カメラの台自体もアームみたいに伸ばせるのはええけど、画像の動きがなんや酔いそうや。カクカクする。やっとのぞき込んで見ると、壁の下に円筒形のもんが挟み込まれとった。なんやろ、これ。
「画像照会……。ん、クラスター爆弾の子弾、だって」
「なんやそれ」
「飛行機から落とす爆弾を、地雷に転用したんだわ」
ふつーの地雷とどっちが安いんやろ。そういう問題やないんか?
「で、どないするん? このロボットで、青と赤どっちの線切る、とかやるん?」
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