放課後ロボライダー:2
「ゲームみたいにかっこええんは諦めた。ならせめて、もうちょい可愛くならんもんかね」
「何の意味があるのかなそれ」
「うちのノリがちゃうかも。ゲームやアニメのロボットかて、エースは色が違うたり何か飾りがついとったりするやん?」
「あー、赤かったり角がついたりね。そんなことしても三倍早くはならないよ。識別マークならついてはいるけど、電源生きてれば識別信号出てるから、これ以上目立たせる意味は考えてなかったわ」
あくまでロボット同士で識別させるためらしい、QRコードみたいなマークが車体と後頭部についとった。ちゃうねん、うちが求めとるのはそういうんとちゃうわ。
いや、待て。
これがカッコええロボットやったらともかく、丸顔に丸眼鏡やろ。したら……
「指定の学年カラーでも塗るか?」
可奈子は先回りしたように、自分の芋ジャー指しよった。あかんてそれは。ロボットまでズボラに見せてどないするんじゃ。言うたやろ、せめてもっと可愛くしようや。
せっかくあんた、可愛い顔しとるんに。
……ロボットの話やなかったっけ?
「で、これ、今動かせるん?」
「もうちょっとかかるかな。自分で作ったぶん、整備が人任せにできないところあるんだよね。なるべく部品は共用にしてるんだけど」
はー。機械もめんどいことで。
「はー、じゃないよ、あんたが操縦するんだから、ある程度覚えてもらわなきゃ。あと、最終調整はあんたに作動チェックやってもらうから」
「うちも、やるんか」
「ゲームのコントローラーだって、初めて使うときキャリブレーションするでしょ」
ああ、あれな。そういやこいつのコントローラーもゲーム用やった。可奈子は改めてうちの真正面に廻ると、うちの手をとってまっすぐ見つめてきよった。
「組んだからには、このマシンは二人のものだから。整備も改良も、共同作業になるんだからね?」
「協同作業、て」
ケーキ入刀みたいなことを言いよる。
「したら、この子はうちらの愛の結晶やね」
もちろん冗談やで? あくまで、あくまでも、な。
もしかしたら、言った側からうちの顔、赤くなっとるかもやけど。
せやのに、可奈子にはさっぱり受けんかったようで。
「愛で動いてくれたら、工学はいらん」
さいでっか。世知辛いのう。
「したら、今日はウチ、整備してるんを見学するだけっちゅう訳やの?」
「うーん、そうしてもらいたい所だけど、できれば着替えてきて、髪もなんとかしてほしいかな。でもなあ、落ち着きなさそうだからなあ結羽は」
「失礼な」
「足」
可奈子は、制服のスカートから伸びるうちの生足を指して眉をしかめた。
「もしかして、授業中にもそれでばれたんじゃないかな」
「え、あれ、やっとったんかねウチ」
操縦中、無意識に足ばたばたさせとったコトは、可奈子に指摘されるまで自覚なかってん。大会とかやと立ってやっとることも多かったし、普段のゲームのときはどうやったんやろね。何に乗っとるかによっても違うんやなかろか。
レースゲームの時だけ体傾く人、おるやん? せやから、落ち着きがない、ちゅうのは的外れやなかろか。
授業中くらいゲーム我慢でけへんのか、言われたら、返す言葉もないやね。
「しゃあない、今日は一日、この子を可愛くする方法を考える日にすっか」
ウチは観念して、髪だけは後ろ手に結いはじめた。
せっかく殊勝な気分になった、そんときや。また部長があちこちのブースをのぞき込みながら「誰か、手の空いてるオペいないか」と声をかけまくって、うちらの方にも近付いてきよった。
可奈子の顔が一瞬、曇った気がしたけど、それより先に部長はめざとく、いかにも手持ちぶさたそうなうちの顔に気づきよった。目が合うた瞬間、この御仁、確かに笑いよったん。
「そちら、投入までまで少し時間あるな?」
「え、ああ、はい……」
あきらかに可奈子は不本意そうやった。けど、部長はかまわずうちの方を見て
「じゃあ、丁度良い。本社経由で緊急操縦代行依頼。中東展開中のやつ。見習いの任務としては悪くないだろ」
「本オペどこなんです?」
「グアムのあの人がさっき急病で」
可奈子が、はぁーっ、とため息をついて自分のロボットから離れた。グアムいうたら、うちが最初に可奈子のロボットを引き継いだときもそうやってんな?
「そ、あの人。となると断れないわ。悪いけど、結羽、ソウルに引き継ぐ時間まで付き合って?」
「なら、しゃあない、な」
可奈子が断れない相手やったら、うちが断れるはずもないやん? でも、VRゴーグルを受け取るとき、うちは正直ちょっと、わくわくしとってん。
やっぱ、見てるだけより動かしたいわな。
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