Aliceの冒険(Side:A-2)-2

「だったらいつ休みになるのさー。次の土日とかだめなの?」

 亞梨子は食い下がる。ううっ、その上目遣いをやめろー!

「せめて試験が終わるまで待って」

「えー、もうそんな時期? 今年は出席日数、絶望的かなー」

 言うまでも無いけど、本当は亞梨子だって学生なんですよ? ただ休学せざるを得なくなってるだけで。

 ただでさえひとつ下なのに、このままだとさらに学年が開いて、あたしが大学生になってもまだ進級してなかったりしたらどうしよう?

 とか言うのは、まずあたしの成績次第だ。浪人でもすれば追いつかれるかもしれないじゃない?

 それはそれでありかも。たぶんまともに勉強で勝負したら、亞梨子のほうが頭いいんじゃないかな。

 使い方に問題がある気はするけど。

「ちぇー」

 亞梨子はまだぶつくさ言いながら、アリスを起動してベッドの周りを歩かせ始めた。機体の行方を追わずにずっとタブレットの画面だけ見てる。

「ほらほら、カメラも前のよりよく見えるみたい」

 それは良かった。例によって買いに行かされたのは、あたしだ。

「羽根はちゃんと開く?」

「やって見せようか。ほいっ」

 軽く画面をタップするだけで、アリスの背中に仕込まれた翼とジェットエンジンが飛び出す。ここまでは、前と同じ。

 問題はそのあと。なにしろこれだけだと、向こうについたあとはこのまんまで歩かなきゃならない。さすがに邪魔よね。というわけで。

「ほいっ」

 広げたときほど勢いはないけど、キューッとモーターの巻き上げ音がして、翼が元通りに引っ込んでいった。あたしの縫ったスカートの隙間に、うまいこと巻き込まずに入ってくれてるようだ。

「今のところ二回使うとバッテリーが心許ないから、向こうについたとき一回だけ畳んで、帰りにもっぺん開くだけかな。せっかくモーター一個回したんだから、もっとパタパタさせたいよね」

「どっかのサーボと兼用できないかな。巻き取るときは腕ぐるぐる回すとか」

「お姉ちゃん、変なこと考えるね」

 そうかな? 必死に腕回してるアリスを想像すると結構かわいいと思うんだけど。

「いっそ首と兼用にしようか」

「それは怖いからやめて」

「お姉ちゃんの基準がわかんない」

 そうかー? 首ぐるぐるは絶対怖いと思うぞ。ていうか、それだと髪がからまるよね絶対。

「あとは増槽ね。これで片道分、帰りは機内タンクで」

 以前あたしが買ってきたポリビンにストローがついたみたいなのをアリスに持たせると、幼女がLLサイズのシェイクを抱えて飲みきれなくなってるみたいにしか見えない。けど、これが一回のゾーン行きでカラになる計算だっていうから、ジェットエンジンてとんでもない。

「これでいつでもゾーンに行けるね!」

「試験が終わったらね」

 改良の成果を怒濤のように披露して、あたしの気が良くなったところに天使の笑顔を乗っければどうとでもなる、とか思ったか、妹よ。

 甘い。あたしだってダテに、来る日も来る日もそれにさらされてきたわけではないぞ。予想していればなんとか耐えられるってものよ。

 そこまでしても、なんとか、なんだけどさ。

「ちぇー」

 アリスはまた、口をとがらせた。

 そろそろ、すねた顔もかわいくてたまらんのだけど、どうしてくれようか。


 とか、言っていたのに。

 あたしの試験が終わるより先に、アリスは勝手に、冒険の旅に出ようとしていたのだった。

 何があった。ウサギにでも出会ったの?

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