「可愛い」を探せ-7
タンカみたいなのにくるまれて、ジェイク君が空輸されてきたんは、それから数十分後。さすが戦車ロボを運べるドローンだけあって、中型犬くらいはどうってことないんやね。もっとも、犬にしてみりゃ空中運ばれるんは、やっぱし怖いやろな。
校庭に着地したとき、真っ先に駆け寄ったんは意外にも可奈子やった。自分のロボは後回しで現地置き去りやのに、そんなに犬好きだったんかこやつ。
まあ、バッテリ残っとるなら置き去りはいつものことやけど。
けど、長らく実際に飼っとらんかったんで、雨に濡れた犬に不用意に近づくとどうなるか知らんかったんか。
ハーネスを解かれたジェイク君は、当然、その場で思い切りブルブルしよった。長毛種だけに、ついとった泥水の量も、ハンパなかった。
「……」
可奈子はあまりのことに呆然としとった。まあ、無理もなか。可奈子のメガネもジャージも、一瞬にしてべとべとになってもうた。
「あーあ、だから言うたのに」
「いや言ってないから。ええい、こうなりゃ毒を食らわば皿まで」
可奈子は開き直って、バスタオル広げてジェイク君にとびかかった。さよけ、そないなまでに犬モフりたかったんか……混じるべきか、うちはしばし悩んだけど、制服汚すのも帰りが、なあ?
ところが可奈子さんや、まさかそのまま帰るとか言いださんやろね? ジャージまでは許しても、泥まみれは勘弁やで。
さすがに、なんぼ可奈子でも帰りは着替える言いだして、うちはちと安心するとともに、今度こそ着替えに立ち会える、思うとなんか無駄にドキドキしてきよった。
けど、なんでかジェイク君の世話っちゅうか見張りを押し付けられて機会を逃すことに。そらワンコは可愛いけど、うちが今見たいんはそっちやのうて。
「お待たせー」
「早っ」
ものっそい勢いで可奈子は戻ってきた。早着替えの術でも持っとるんか。いやそれより重要なんは、可奈子が制服やっちゅうこと。
よう考えたら、出会って以来、うちらがおそろいの恰好しとるんは初めてや。同じ学校に通っとって、どうゆうこっちゃ。
ベストの下のシャツは、やっぱりあの乳を収めるにはちと窮屈そうで、スカート丈はデフォのまんま、そして素足は特別細くもなく、さりとてむっちりもしとらん。引き締まってはおらんから、運動はしてなさそうな感じ。してみると、やはり乳だけ特別に過剰なんやろか。ぷに。
気が付くとうちは無意識のうちに、可奈子の胸をつついとった。当然、可奈子はぺしっとその指をはたいて、「オヤジか」と言う。
「それより、ご期待どおりジャージ以外を着てるんだけど、ほかに何か言うことは?」
「……思ったより普通やったね」
そうなんや、せめて制服ならちったあマシになると信じて、いや実際マシなんやけど、なにかこう決め手にかけるっちゅうか、足りんちゅうか。
「そっか、素っ気なさ過ぎるんがあかん。ふだんがこうなんやから、たまには装飾マシマシで行ってみたら」
その時、うちの脳裏にあのモールのメイド喫茶がフラッシュバックした。
「メイドさんとか、どうやろか」
「ロボットに?」
なんでやねん。
まあ、それはそれでありかもしらん。ジャージ色のままよりはましやろ。よし、服作ったろ今度。いやまあ、裁縫そんなに得意なわけやないけどな。
例のあんちゃんは救出成功を聞くや、学校に駆けつけてきた。リードを渡すとき、ジェイク君はもうおびえてはおらんかった。うれしそうに飼い主に飛びつく。
良か、良か。と思ってたらふと、あんちゃんの顔がかすかに曇った。
「ありがとう、ところでつかぬ事を聞くけど、首輪になにか、付いてなかったかな」
「何か?」
うちには何も思い当たることは無かと。すると可奈子が代わりに答えた。
「とくに何も付いてませんでしたけど、もし何か付けていたとしても、どこかで外れたかもしれませんね」
あー、うち、確保するとき首輪つかんだわ。鈴とか名札でもあったんやろか、あのときに取れたかもしれんなあ。
うちの目が見逃すとも思えんのやけど、失策といえばそうやったかも知れん。すまんことをしたかね。頭を下げると、あんちゃんは慌てて
「いや、それならいいんだ、悪かったね」
「どういたしまして。あ、どうやら何か、すごく怖い目にあったらしいんで、優しくしてあげてくださいね」
念を押すように可奈子が言うと、あんちゃんの顔が一瞬、ひきつったように見えたんは、今度こそ見間違いやないと思うんやけど。
この時、可奈子が何に気付いとったんか、にまでは、うちはまだ気付いとらんかった。
けど、後日、例のペットショップで、あんちゃんとジェイクが楽しそうにしとるんを見かけたんで、まあ、ええんとちゃうか。
終わりよければすべてよし、言うやろ?
(「可愛い」を探せ/了)
「ところで、SNSに書き込んだのは本人ではなく家族の誰かだったらしいんだけど、救出成功を本人から聞いてなかったらしいよ。なんでだろね」
「なしてそうやって、ほのぼのと終わらせてくれんのや、いけずやわ!」
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