Aliceの冒険(Side:A-2)-5
下に降りようと思ったけど、アリスのサイズで降りられる階段なんかない。距離センサーで、プレデターまでの数字を確かめる。このくらいなら、一気に飛び降りるほうが関節のダメージも少なくて済むかな?
帰りの燃料を考えると、ジェットはもう使わないほうがいいよね。一番安定しそうなのはたぶん翼の上だろうけど、下過ぎる。尾翼のあたりだったら、近いし、目測を誤ってもすこしはつかまれるかな。アリスのハンドには物をつかむ機能ないけど。そこまでサーボ入りそうになかったし、だから増槽だった抱きかかえてるだけだし。
よーし、行ってみよう。ぽん、と軽くジャンプすると、お姉ちゃんに縫ってもらったスカートがパラシュートみたいにふわりと開く。下から見てる人なんていないと思うけど、ちゃんとドロワーズはいてます念のため。こないだ素っ裸のアリスを病院で走らせたら、怒られちゃったからね。
ただ、スカートが広がると、カメラの視界は妨げられちゃうのがちょっと難。
ちょっとぐらついたけど、どうやら着地は成功したみたい。目の前には、灰色の丸木橋みたいに胴体が続いてる。六角柱なのかな、おかげでちょっとは歩きやすそう。でも、どこを探せば、これがどこから何しに来たのか、確かめられるんだろう。たぶん、そういう印をどうするかは決まりがあるんだろうけど、軍用の飛行機のことはわかんないなー。飛び出す前に調べておくんだった。
ネットに上がってた画像と照らし合わせるしかないか。とりあえず胴体の上だけを見て、チェックしながらそろそろと降りていくしかない。
胴体の真ん中あたりに、黒でアルファベットが三文字。これはどうやら、PMCの会社名。よし、まずそこは一致。
それから、本当に武器もついてたのか。細かい番号とかも、どこかにありそう。翼の先の方は、折れちゃっててもう、確かめられないね。
とりあえず主翼の付け根のあたりまで降りていく。まだ、私に読めそうなデータは現れない。
そうやって下ばかり見てたせいか、そもそも最初は翼の影だったせいか、私は「それ」に気づくのが、ちょっと遅かった。
アリスに広域スキャンとかの機能がないせいもあるけど。
ともかく、視野の隅になにか映った気がして、私はそっちにカメラを向けた。スワイプするだけだけど、現地ではアリスが首だけ向けたはず。
「向こう」からは、そう見えたね、きっと。
そして、アリスは亞梨子だけどあくまで分身、だったおかげで、うっかり足を踏み外さなくて済んだ。あれ、自分があそこ歩いてたら、たぶんそれやって落っこちたよ。
それがトランプの兵隊だったならまだしも、ここまであっけにとられることはなかったんじゃないかな。
だって、すぐ下の地面にいつの間にかいたのは、アリスと同じようなエプロンドレスを着た、戦車……? だったんだもの。
アリス服、いや、黒と白だし、もしかしたらメイドさん?
その上には丸っこい頭が乗っかってて、まん丸い眼鏡みたいなカメラが二つあるから、いちおう半分は人型っぽく見えるけど、フリルのついた両肩には腕は付いてない。車体の上に広がったエプロンとスカートの下に、作業アームみたいなのがついてはいるけど。
足はなくて、キャタピラが二重についてる。
えーと、これ、どういうこと?
この変なのも、このドローンと関係あるのかな?
だとしても、こんな格好させて送り込んでくるのが、軍隊とかそういう人たちとはちょっと思えないけど、お姉ちゃんが見たらなんて言うかな?
どうしても気になって、アリスを地面に降ろした。また例によって、ほいっと飛び降りる。それから一歩近づいて、相手をもっとよく見ようとした。
とくに何かしてくる様子はないなあ。なら、もっとよく見させてもらお。かがみ込んで顔を近づけてみたり、後ろや横を見ようと首をかしげてみたり。
向こうのオペレーターからはどう見えてるかな。アリス、自慢じゃないけど可愛いから、私に似て。
首をかしげる軸、ホビーロボット界隈じゃ「萌え軸」って言われてるの、初出場のときに聞いたけど、搭載したときは実際、可愛いと思って付けただけで、横長の視界を縦にできる、なんてのは後からつけた機能なんだよねー。
初期のアリスはそもそもカメラを搭載していなかったのだ。我ながらよくここまで進歩したよ、うん。
それはそれとして、相手のメイド戦車、だいたい作りはわかった。基本的には、よくあるクローラ走行のレスキューロボットだ。そのカメラ台のところに、なぜかドール用の服を被せてあるだけ。
アームの位置が、座った人の足にあたるから、ちょっと車椅子に乗ってるようにも見える。そんなんで接触した相手が、ここでこうして車椅子に座ってるとは思ってないだろうな。
可愛いと可笑しいの、微妙な狭間にいる眼鏡メイド戦車。何考えてこんなことしたんだろ。向こうにも、お姉ちゃんみたいなのがいるのかな。
悪いけど、裁縫の腕はお姉ちゃんの圧勝みたいだけどね!
じっと見てても、メイド戦車の顔は動かないし、何か音出してたとしても、こっちは音声関係は入出力ともに何もないから、ここから先、どうしよう?
そう思ったとき、向こうのアームがいきなり、すっと動いた。
「捕まる!?」
とっさにそう思ったのは、こっちが不法侵入してるって負い目が、いちおうはあるから。理屈より先に、私の指はアリスを後退させていた。
配置が配置だから、あっちのアームは「蹴った」ようにも見えたけど、本当にそのつもりかは、わからない。けど、どっちにしろアリスはぎりぎりで避けてた。
後ろを確認。プレデターの翼からぶら下がってるところがある。あそこならジャンプ一発で届くな。向こうの真意はわかんないけど、ここは逃げたほうが良さそうだ。
えいっ
計算がばっちりはまって、アリスはその上に一発で飛び乗った。
乗っちゃってから気がついた。武装したドローンが下にぶら下げてるものって、もしかしてこれがミサイルとかなんか、なんじゃないかしら。
やっば、ここにいても降りてもアリスのピンチだ。たぶん。
潮時かな。出直したほうがよさそう。私は翼とジェットを展開して、自動帰還のプログラムを呼び出した。
そのときだった。
「亞梨子! あんた、レスもしないで何やってんの!?」
背後から、ものすごく切羽詰まった姉の声がして、私は勢いあまって、その場で帰還命令をタップしちゃったのだった。
……ミサイルの上でジェット噴射なんかしちゃって大丈夫だったのか、アリスの視界はもう空しか見てなかったから、わからない――
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