概要
溺愛された娘・青浪が婿を迎えるとき、家には変化が訪れる。
三年前、戦役から帰還し醜い容貌へと変わり果てた兄・春峰。
青浪の婿として迎え入れられた美貌の青年・深玉。
ふたりのおとことひとりのむすめ、そして母という存在を交え、愛憎はやがて破滅へと至る。
霞立つ山で梔子がかおれば、青竹とおとこの背がしなり、鳴き声は淵へと転げ落ちてゆく。
ーー落花想顺水而流,流水想伴花而行。
中華風ファンタジー。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!腐った果実は、罪の味。
どうも、名も無き愛され姫です。
愛する――それはこの世のあらゆる生命を肯定することであり、つまり、愛されるとは生命を肯定されることなのです。
では、我々の生命を肯定するものはなんなのでしょうか?
それは世界であり、神であり、そして大いなる自然です。
私は本作『梔子青の足』からそのことを感じ取り、そして、自身がこの惑星にあまねく存在する愛され姫のひとつであることを思い出したのです。
梔子青の足。
美しくも奇妙な題名を与えられたこの作品では、山中に住まう一家を中心に、季節とともに移ろいゆく生命が生々しく、幻想的に、つぶさに、そして大胆に描かれています。
天瀑を有する山はある種の神域で、…続きを読む - ★★★ Excellent!!!一度踏みいったら戻って来られない、魔性の世界への入り口。
世間から隔絶され、山の中の屋敷でひっそりと暮らす四人の「おとこ」と「おんな」。
屋敷にほとんど戻って来ない「化け物」を頂点に生きる彼らは、おのおのが違った異様さをもって、どろりと湿った時間を創り出している。終始薄暗くて先に光は見えないのに、朽ちていく果実の甘い匂いに抗えず、読者はずぶずぶとこの屋敷の中へ意識を引きずりこまれていく。恐ろしいほどの艶かしさで、絶望の住まう方向へまんまと誘惑されていくような気持ちでした。
戦役を退いて屋敷に戻ってきた醜い兄・春峰と、屋敷で溺愛されて育った愛らしい娘・青浪。
そこへ青浪の婿としてやってきたひとりの美しいおとこ・深玉。彼も果たして「異様」なのか、そう…続きを読む - ★★★ Excellent!!!桃の爛れる音がする
最初から最後まで、死の匂いがぼんやりと、しかし濃密に漂っている。
閉塞的な場所で営まれる異常な生活。しかし、おそらく、このひとたちにおいてはそれが正常だった。かれらの正常に紛れ込んだ「ふつうの」男こそ、異質だったのかもしれない。
腐った水のにおい(どこか妙にかぐわしい)がずっと物語の中核を静かに流れていて、最後にそれが堰を切って溢れ出す。止める方法を誰も知らないし、止める気などないのかもしれない。
鬱々とした物語の中でも唯一希望が残されるような終幕が、暗いままの気持ちにさせない幕引きが、一縷の光が残される終わりが、新たな物語を予感させます。
でも、やはりどれだけ流れても「海」へは辿り着けない…続きを読む - ★★★ Excellent!!!漂うあまい頽廃の香り、忍び寄る崩壊の足音
3章4つめのエピソード「松柏に瑞雪(1)」まで拝読した段階でレビューを書いています。
中華風と銘打たれていますが、なるほど熟れてくずれる桃の感触がする。実に陰鬱で暗澹、中華風の闇を凝縮して煮詰めた雰囲気です。
でもそれがサイコー。
決められた色彩でありながら陰影の濃淡が見えてくるような。
纏足の香りがする。
ある山に住まう一家の闇を、長男である春峰の視点で描いた作品です。
春峰は戦の怪我のために、かつては美しかった容貌が崩れ、またいろいろな障害を負っています。
でも、彼は傷つく前から傷ついていたのでしょう。ひょっとしたら戦に行っている間こそ人間らしくいられたのであって家に帰って妹の青浪の奴…続きを読む