桃の爛れる音がする

最初から最後まで、死の匂いがぼんやりと、しかし濃密に漂っている。
閉塞的な場所で営まれる異常な生活。しかし、おそらく、このひとたちにおいてはそれが正常だった。かれらの正常に紛れ込んだ「ふつうの」男こそ、異質だったのかもしれない。
腐った水のにおい(どこか妙にかぐわしい)がずっと物語の中核を静かに流れていて、最後にそれが堰を切って溢れ出す。止める方法を誰も知らないし、止める気などないのかもしれない。
鬱々とした物語の中でも唯一希望が残されるような終幕が、暗いままの気持ちにさせない幕引きが、一縷の光が残される終わりが、新たな物語を予感させます。
でも、やはりどれだけ流れても「海」へは辿り着けない、行き着く先は水溜まりであるかのような細く流れる物語が魅力です。

その他のおすすめレビュー

宮崎笑子さんの他のおすすめレビュー5