一度踏みいったら戻って来られない、魔性の世界への入り口。

世間から隔絶され、山の中の屋敷でひっそりと暮らす四人の「おとこ」と「おんな」。
屋敷にほとんど戻って来ない「化け物」を頂点に生きる彼らは、おのおのが違った異様さをもって、どろりと湿った時間を創り出している。終始薄暗くて先に光は見えないのに、朽ちていく果実の甘い匂いに抗えず、読者はずぶずぶとこの屋敷の中へ意識を引きずりこまれていく。恐ろしいほどの艶かしさで、絶望の住まう方向へまんまと誘惑されていくような気持ちでした。

戦役を退いて屋敷に戻ってきた醜い兄・春峰と、屋敷で溺愛されて育った愛らしい娘・青浪。
そこへ青浪の婿としてやってきたひとりの美しいおとこ・深玉。彼も果たして「異様」なのか、そうでないのか。
世の理が通じぬこの山奥の屋敷で、血縁が、家族が、そして兄妹という関係が、いったいどんな意味をもつのか。
やがて深玉の存在は、死臭漂う閉鎖的な世界で変化と破滅の歯車を回し始めるのです。

母であり圧倒的な女帝・玉蘭の支配する山奥の家で、「おとこ」をめぐって織りなされる禁断のストーリー。忌まわしいものほど美しい、という感覚が骨身にまで刻まれます。一度ページをめくったら、二度と同じところへは戻って来られません。

触れてはならないものはより魅惑的にみえるものです。最初のページを、ぜひとも心して開いてください……。

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