漂うあまい頽廃の香り、忍び寄る崩壊の足音

3章4つめのエピソード「松柏に瑞雪(1)」まで拝読した段階でレビューを書いています。
中華風と銘打たれていますが、なるほど熟れてくずれる桃の感触がする。実に陰鬱で暗澹、中華風の闇を凝縮して煮詰めた雰囲気です。
でもそれがサイコー。
決められた色彩でありながら陰影の濃淡が見えてくるような。
纏足の香りがする。

ある山に住まう一家の闇を、長男である春峰の視点で描いた作品です。
春峰は戦の怪我のために、かつては美しかった容貌が崩れ、またいろいろな障害を負っています。
でも、彼は傷つく前から傷ついていたのでしょう。ひょっとしたら戦に行っている間こそ人間らしくいられたのであって家に帰って妹の青浪の奴隷のように扱われている今の方が大変なのでは?
対する青浪はとても無邪気な娘です。まるで幼子が虫の脚をもぐような純真を感じます。夫を迎えましたが、おとなにはならない。ただただ自分の素直な感情で春峰を振り回す。正直に言って何をしでかすか分からずちょっと怖い。
病んでいるのはこの兄妹だけじゃない。母の玉蘭はもちろん、使用人の丹や青浪の夫・深玉もちょっとおかしい。この家にいるとみんな狂っていく。そんな感覚がある。

母の玉蘭の体調不良をきっかけに春峰と青浪の関係が変わろうとしています。
この先何が起こるか分からないです。
不安と期待を抱えて続きを楽しみに待とうと思います。
できれば春峰が、そして青浪も、この家の何か重苦しい空気から解き放たれますように。
でも解き放たれなくてもいいんです、そのまま溺れ死ぬのもまた一興と思える、そんな世界観です。

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