ドラゴンに乗る人たち


 城壁都市ではドラゴンに乗るものたちを、ドラゴンライダーと呼んだ。

 彼らは騎竜に際してヒールキャップ(*1 CDT)を装着し、それ以外の身体的特徴は現代の我々と相違ないことが分かっている。

 ドラゴンに乗るだけでなく、彼らとの意思疎通、荷物の運搬や偵察、戦争が起きれば竜騎兵として戦陣に立った。

 騎竜に資格はない。市民以外でも騎竜はできたが適性が必要とされ熟練度、ドラゴンとの意思疎通の可不可のレベルに応じて、ライダー、ナイト、マスター(*2)とランク付けがされていた。

 マスタークラスに至る騎手は少ないが、名誉称号として与えられたナイトも長い歴史の中で存在している。


 ドラゴンマスターは都市の花形であった。

 「図書館」でみられる書物の多くに、彼らの活躍が登場する。

 彼らの物語は今でも口伝でいくつか残されているが、物語の誇張されるだけの人気があったようだ。都市の公式行事には必ず彼らの姿があり、ドラゴンと人との通訳の立場を持っていた。有事にはドラゴンに力を借り都市を守るための戦士として敵と立ち向かったのである。

 彼らは都市の魂の象徴であった。

 ドラゴンマスターは専業ではなく副業を持つものも多く、貴族や騎士、果てはコーヒースタンドのスタッフまで本職は様々である。

 年齢は平均して30代が多く熟練の乗り手に与えられる称号であったようだが、着任年齢最年少は7歳の少女も存在した(*3)。


 ランク付けが行われるようになったのはB.D1300頃とされ、「図書館」の各種書籍と照らし合わせにより、ある程度の正確性が確保されている。

 記録によるとドラゴンマスターは全ての時代を通して226人存在しており、B.D100頃に記録が止まっている。研究者の間ではこの頃をB.D元年と修正すべきではないかという声もあがっている。

 ドラゴンマスターの存在は都市と強く結びついた存在であり、その登場がなくなった時点で都市のドラゴンの姿や習慣が完全に途絶えたと考えるべきだとされているからだ。B.D期をどう定義するかに関しては、発掘と研究が進み次第また明らかになっていくことだろう。 


 著名なドラゴンマスターは「クロヌドレ叙事詩」、「ベルクロヌ口伝」、「ラストッカドミネラ」などに登場する、最初のドラゴンマスターであるグランドマスター、エムロードのアンゼル(別呼称多数)、「ラドンテル」の白の魔導士ドロテア、「暁の谷へ」の「赤靴下」のピッピ、「ロワゾブルー」のティルティル 、「ヴェオレパール」など。


 彼らについての子細がここまで把握できたのは、「図書館」に勤める司書たちが、彼らに随行し記録を残していたからである。

 司書たちは書物の管理編纂の他に、ドラゴンと人との記録をとる重要な役割を持つ存在であったようで、ドラゴンマスター一人につき側衛官エスコルトとして割り当てられた。

 彼らは武官の側面を持つドラゴンライダーと異なる文官であり、マスターたちから倦厭されることもしばしばあったが、相棒として強い絆で結ばれる関係も存在した。(*4)

 側衛官は騎竜適性のない者がなることが多かったが、ドラゴンライダーと同等の強い思いを持って仕事をこなし、名誉称号としてドラゴンナイト、マスターの称号を与えられることもあった。

 側衛官司書の記述には整合性があり、公的資料としての価値を有している。

 地下6階から発掘された書庫はすべて、彼ら図書館司書たちによるドラゴンとドラゴンマスターとの交流の記録である。

 研究者の間で解読と研究が続けられており、「6階文庫」(*5)として独立して研究チームが組織されはじめている

 226人のドラゴンマスターそれぞれの研究も進められている。

 

(*1)CDT= couvercle du talons ドラゴンに指令を伝え、また騎竜時に安定した飛行を叶える道具であった。形や素材はさまざまで、宝石のような形をしているものが多いが、現代においての「チェストの飾り引き手」と酷似しているように見える。

 CDTの中央にねじ穴が貫通しており、騎手が履く専用のライダーブーツのヒール部分に回して装着した。消耗品であり専門店が存在していた。

(*2)現地言語においてはライダー(カヴァリェ)、ナイト(シュバリェ)、マスター(メィトル)となる。

(*3) ドラゴンマスター・ピッピ (通称、赤靴下のピッピ) 

(*4)「ドラゴンマスター・ベルトランと側衛官ラーシェットの物語」など

(*5)6階文庫はリングイネン院に研究本部を置き、ヴェルミヨン上級研究員が主任を務める。ドラゴンの生態や歴史についての研究を続けている。マルタンが発掘したウロコ「クラウンミル」も一時この学術院に保管されていた。

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