城壁都市色彩案内

都市の色彩

 虹の色がA.D期の我々の認識するところとなったのはA.D1700をすぎてからニゥトン『光学』の発表によるものである。


 B.D期の城壁都市市民たちも自然現象として虹を認識していた。

 B.D2750には雨の後ドラゴンの飛行で拡散された雨粒により各所で虹が立つと、「Pont L'arc en ciel空にかかる橋」 と呼ばれた。

 ドラゴンのためのRueと言われ好意的な解釈がされていたようだ。


 都市の花形、ドラゴンマスターたち「暁の谷へ」の「赤靴下」のピッピ、「ロワゾブルー」のティルティル 、「ヴェオレパール」…ドラゴンマスターたちの二つ名も色鮮やかである。 

 B.D期の世界はとても鮮やかだ。

 それは彼らの生活が豊かであったからだろう。


 ここでは長い城壁都市の歴史の中で、果たして「色」はどう扱われてきたのかを掘り下げて行きたい。

 色は文化を如実に表すものだ。

 都市の新しい視点が見えてくるだろう。

 


 A.D期を生きる我々にとって、色の認識は国ごとのイメージが異なるだろうが、ここは著者紹介に記載の我が母国を基準とさせて頂き、説明を添えつつ比較解説をしていく。


 まず解説において中心的参考図書について紹介をしよう。


 『都市色彩の倫理』は最優秀図書である。

色彩の教本として長く城壁都市の色彩言語となった古典辞書とも言える本である。

 B.D1900頃、貴婦人の図書館司書であり、紋章管理官であったセシル・ヴィリアが生涯を賭して書き上げた。

 色彩見本も兼ねながら生活の中の色の利用に関する推奨と注意、染料について網羅され、識者によるとその文体からB.D330頃の写本まで8人の専門家による初版を尊重した補足が行われている。

 城壁都市の色彩を語る上でもっとも古く信頼性たりる文献である。

 図書館に残されていたのは『都市色彩の倫理』の写本アンリュミニュール出版物であり、実物は喪失しているとみられる。

 本文は全三章から成り立ち、一章では色の成立と逸話、二章で利用についての説明、三章で職人へ向けた色彩調合の注意や詳細が綴られている。


 『都市色彩の倫理』を熟読し筆者が感じるのは、城壁都市は「神を恐れぬ」民であったということだ。彼らは天から降り注ぐ絶対的な意思より、眼前の自然とドラゴンという超越した神秘「目に見える神々」を尊重した。

 私は一神教の道徳教育下で育ち、精神の根底に赤、青、緑、黄色、黒、白、紫の7色を基点とした「混合されない自然にあるがままの色調こそ正しいもの」、「色による差別」の影響を少なからず持つ。


 だが都市の精神とはあり方が異なる。

 城壁都市は色は区別であり差別とは異なる、という確固たる認識を元に、色に感情を乗せる器用さ、中間色や流行色など多彩な広がりを見せる色彩観を得ていた。


 基礎色彩体系は我々と重なる部分も多い。

 城壁都市の色彩の大きな柱は、白・赤・緑・黄・青・黒の6色とそれに付随するドラゴン色(別称・魔法色・内包色など)で構成され、さらに濃い・薄いの幅で広がりを見せていく。

 なぜこの6色が選ばれたかといえば、都市で暮らす多くのドラゴンたちが6色型色覚であったからとされる。

 城壁都市市民は、色彩感覚もまたドラゴンと共にあったということである。


 色を通して歴史を語るという視点は、色彩文化史家であり象徴学者であるのミシェル・パストロ氏より賜った。ここに感謝する。


 それでは案内をはじめよう

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