ドラゴンマスターの活躍 赤靴下のピッピ

 もっともドラゴンに愛されたドラゴンマスター


 B.D300頃円熟期のドラゴンマスターとして活躍した赤靴下のピッピは、7歳でドラゴンマスターとして都市に承認された女性のドラゴンライダーであり、記録が残る中では最年少のドラゴンマスターである。

 第二次侵略攻防戦期は非常に多くの記録が残されており、ピッピの逸話は数多く残されている。その一部を紹介する。


 都市生まれ、都市育ちとされる。

 ドラゴンの巣で育ち、人の言葉を覚える前にドラゴンの言葉を理解したと言われる。都市のドラゴンレースで優勝を重ね都市中に名前を轟かせた。しかし富や名声より、ドラゴンの隣人であることに誇りを持ち、弱者に寄り添う優しさを持っていた逸話が多く残されている。

 騎竜したドラゴンの数は記録にあるだけでも都市最多で、相手ドラゴンを選ばなかった強者だが、小柄で華奢な姿はドラゴンマスターのイメージからはかけ離れていた。(*1)


 ライダーブーツが特徴的な赤であったことから、赤靴下のピッピの愛称で呼ばれる。名前は姓であるピピンから転じたものという記述が「ドラゴンマスター記」に残されている。炎の魔術を心得ており、その理由は「ドラゴンブレスが暑いから炎の加護が欲しかったのと、ドラゴンが僻地で死んだ際に、放置して悪用されたら困るので、自分の炎で葬るため」(*2)と語っている。

 彼女の住居はその後も保存されており、つい先月の発掘調査で一部が見つかっている。


氷結王フールスキャップを育てた

 クラウンミルと共に初期から伝説に記されるドラゴン「氷結王」の直系子であるフールスキャップは誕生はB.D500頃とされるがすぐに誕生することなく都市地下で長く眠りについていた。彼女が氷結王を目覚めさせ、育てたとされる。

 彼の眠る洞窟へ通うためにも、炎の魔術は必要不可欠であった。

 氷結王は城壁都市の記録が残る最後の時まで都市を守護したとされるドラゴンである。氷結王の発言はのちB.D50頃まで残り、長くピッピを忘れずたびたび引き合いに出していたことが、多くの書物に記録されている。


第二次侵略攻防戦に従軍し、クラウンミルの亡骸を焼いた

 彼女が存命中に起きた第二次侵略攻防戦では旗手を勤め、協力するドラゴンたちを導いた。図書館には何枚も彼女とドラゴンが戦場へ赴く絵が残されている。

 従軍したドラゴンマスターとしては最年少であった。

 数々の幸運に恵まれ戦場を生き抜き、戦争中に斃れたクラウンミルの亡骸を焼いて葬った。都市の象徴であるクラウンミルを一存で灰にしたことは多くの議論を呼び、戦後裁判や聴取の記録が残されている。


「私が息絶えた彼女を焼いたのは、彼女の誇りを守るためだ。みんなの中には、美しく誇り高い彼女が残っていればいいと思った。クラウンミルはあんな姿を市民の誰にも見られたくなかったはずだ」


 戦場でクラウンミルの亡骸を見たのは、ピッピと銀梨王リスシオワン、そして氷結王フールスキャップの1人と2匹だけであったという。

 銀梨王リスシオワンは一切の問いかけに応えず、氷結王は詳細を問う検察官に、ただ「俺は吐いた」「ピッピは泣いてた」「あれからピッピが口をきいてくれない」と答えたという。(*3)

 彼女がクラウンミルを焼いた理由は、当時は混乱を呼ぶため公表されていなかったが戦後何年後かに開示されたようだ。

 この一件で、ピッピはドラゴンマスター位を返上するが、のち暁の谷から都市へ戻ると、再度マスター位を与えられる。


暁の谷への冒険

 B.D300年頃の第二次侵略攻防戦あとの旅。

 神話時代から登場するドラゴンの故郷、暁の谷への冒険が複数の形態で記録に残される。

 記録原本となる「暁の谷へ」はピッピが冒険中に印したノートで、個人的な思考を含め暗号や図説など豊富で、戦後の城壁都市の混乱、復興、ドラゴンマスターとしての孤独や矜持、外部の都市の様子が分かる貴重な資料である。

 原本から冒険譚が出版され、小児向け絵本、若者向け小説など複数の出版形態が確認されていたようで、幅広い世代に愛されたようである。(*4)


 一連の「暁の谷へ」資料解読により、クラウンミル没後、ピッピが新しい都市の象徴としてのドラゴンを探しに暁の谷へ向かい、2代目が誕生したことが分かった。都市滅亡時のクラウンミルと、マルタンが発掘したウロコの主は別の個体である可能性もある。

 2代目クラウンミルは初代の意思を継ぎ、クラウンミルがアンゼルを唯一無二のライダーと認識していたように、ピッピ没後は他に騎竜を許さなかった。


ヒールキャップなしで都市を飛んだ

 晩年は騎竜に必要なアイテム「ヒールキャップ(CDT)」なしでも騎竜したという。現在解読が進められているドラゴンライダーの記録においては、他にない偉業であり、神話時代の初代ドラゴンマスター・エムロードのアンゼルに並びもっともドラゴンに愛されたドラゴンマスターと讃えられる。(アンゼルに限っては史実とは食い違う部分も多いため、数に入れるべきかは議論が必要である)

 またピッピの愛用した宝石形のヒールキャップ(CDT)は普及型として現在もたくさん発掘されている。

 


(*1)初代クラウンミルはピッピに騎竜を許すことはなかったが、それでも彼女を気に入っていたことは確かだ。6階文庫「クラウンミルによる開祖の記憶」、側衛官司書による「クラウンミル記録」では、ピッピはアンゼルと面差しや思考が似ている旨があると記されており、髪の色も同じであったとされる。

(*2)ドラゴンライダーは、騎竜する相棒ドラゴンに合わせて魔術洗礼を受けたと言われる。この魔術洗礼とは自然四大元素の精霊と契約するもので、契約をすればその属性の加護を得られるというものだ。炎の加護を得れば、火の魔術で負傷することは無くなる。ただ反する水属性に弱くなる欠点が生まれてしまう。

(*3) 暁の谷へ向かう旅に同行した当初はお互いの関係は最悪な状態であったという。敵陣に落ちたクラウンミルを助けに行こうとしたピッピを、氷結王が制止したためである。ピッピは氷結王が止めなければクラウンミルを生きて救うことができたと考えていたが、氷結王はピッピも無駄死にするだけだと判断した。

 暁の谷への道中、お互いのわだかまりは消える。ピッピはクラウンミルに、氷結王とクラウンミルはピッピに「生きて欲しい」という"A mon seul désir"を寄せた結果だった。

(*4)『あかつきのたにへ』『ドラゴンベインと海の王』『凍りの森のエルフ』『商業都市の反乱』『天空幻想』『最果ての入り口』『ドラゴンのお姫さま』『城壁都市のドラゴンマスター』の全8巻からなる。

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