城壁都市各区の特徴

 アンゼルが開き、都市の中枢として機能していたモンタンドロー山頂付近を「1区」と呼ぶ。B.D3000頃から200年ほどの間は、1区が城壁都市の全てだった。全盛期になると城壁都市全体の15%しか占めない。

 都市の重要な行政施設が集中し古い建築物や水楼閣が点在していた。3区4区と比べて急な坂も多く、斜面を生かした建築群は「初期城壁都市様式」が多い。

 1区のシンボルとなるのは、王城モンブランである。

 モンブランとは「白い山」の意で、都市最大級の水車塔を守るように巨大な白壁が囲み、風車塔を備え付けている。都市中をめぐる水楼閣の頂点であり、ここから都市全体に大水楼閣が伸びる。

 王城の水車塔は都市に水を運ぶだけでなく、風車塔と合わせて公共エネルギーを生産した。都市のエネルギーの6割を王城で生み出していたという。

 

 地下採掘場への入口が城にあるため、一般市民の出入りも多い。市民にとっては職場であり水源管理の場であり、都市全体を把握する基点になり、祭事の本部、ランドマークとなっていた。外部からの侵略・攻撃を受けた際の最後の砦になるように堅牢に作られた王城は、一度も侵略を受けることはなかったとされる。


 王城と言っても貴族の長たる王がそこに長年座していた訳ではないようだ。そう呼ばれたのはこの場に都市の象徴たるドラゴン、クラウンミルの巣があったからではないかと推測される。残念ながら現状の発掘においてはクラウンミルに関する新しい遺物の発掘はない。


 モンブランの発掘は「図書館」発掘後に優先的に発掘が進められた。

 水車塔と風車塔跡は基礎部分だけ発掘された。水車塔から地下へ続く採掘場入口が見つかった時は、調査員の誰もが市民の気持ちで地下へ降りる興奮を味わった。

 記録によると採掘されたのは、魔力を帯びた鉱石の他、緑色が美しい宝石エメラルドが多い。都市の重労働者の5割はこの採掘作業員であったとされる。発掘調査時にも大量の鉱石が見つかっていることから、都市が廃山により衰退したという学説の支持者は少ない。


 採掘場地下には未確認のドラゴンが存在すると言われており、長時間人間が滞在すると怒りに触れ地震を引き起こすとされていた。実在に関しては引き続き調査が必要とされるが、 落盤事故などから身を護るための信仰として、また長時間労働を回避するために労働者たちが作り上げた逸話である可能性も高い(*1) が、明らかに様式の違う遺跡や構造が点在していることから、神話時代の高度文明との繋がりに関しても調査が進められている。


 「2区」は公的機関や大学・研究所が集まり、貴族や古くから都市に住む人々の家が点在するモンタンドロー山中腹に位置する。1区と比べて発掘中に出土するものに生活感がみられた。

 時代が下るにつれて裾は拡大され最終的には4区まで広がった城壁都市であるが、かつてはこの2区が城壁都市の裾であり、物見台や侵略に備えた背の高い城壁跡がいくつも発掘されている。

 厳しい坂道と、家々が入り組み迷路のような地形が作る景観が特徴で、高低差のある家々が並んだ姿は、遠くリッシオーオワル平原からもよく見えたと言う。

 2区には銀梨王リスシオワンの巣と、氷結王一家が暮らしていた氷室に繋がっていたため1区よりは広いが人の住むエリアは大差がなかったとされる。観光名所としての風光明媚な場所であったようだ。


 「3区」は人口拡大により、B.D1000~800頃に都市拡張計画で広がったモンタンドロー山中腹~裾をさす。都市が充実し人口増加したのもこの頃で、一般市民が多く居住し、職人が多く住んだことが分かっている。

 土地に愛着を持って代々暮らし継ぐ者が多く、ドラゴンに騎竜して数々の難題をこなす都市の伝統的祭典、エメラルド杯を開催したりと自治体による特色あるイベントが度々催された。

 また4区拡張計画の際に、さらなる防衛のために3区と4区を区切る城壁を建てたことから、3区を旧市街と呼ぶことも多かったようだが、4区が拡張されてからのB.D700頃からの呼称となる。


 「4区」は都市の領域で最も広く、市民の生活基盤となる一次産業と商業・交易が盛んで、山の裾で高低差もさほどないので住みやすいことから、もっとも人口が多い。1~4番街と大きく分けられ、それぞれの街を守る自治体代表のドラゴン「金の葡萄のドラゴン」「黄金リンゴのドラゴン」「銀の梨のドラゴン」「銀のさくらんぼのドラゴン」が存在して水楼閣と治安を守った。

 5区まで拡張されることはなかったようだが、市民がそう呼ぶ飛び地も存在したと言われている。

それぞれの区は城壁と門によって区切られており、最も巨大な城壁は4区となる。



(1) 氷結王フールスキャップがB.D100頃に「地下に隠れた仲間はいない」旨の発言を残している。

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