水楼閣の役割

 都市の特徴のひとつである、水楼閣(水道橋)の発掘は日々発見が続いている。


 城壁都市は風力・水力を主なエネルギー源とする都市だ。自然エネルギーを使って日々の生活を快適に運用する術を持っていた。


 水楼閣の最頂点は、1区の王城である。

 地下・そしてモンタンドロー山裏の湖、エムロード湖から引いた水を運ぶ、もっとも巨大な大水楼閣をViaducヴィアディックと呼ぶ(*1)。

 王城を中心として放射線状に裾である4区まで広がり、時計回りに0~12の数字が割り当てられている。最初に都市に建造された大水楼閣は Viaduc0ヴィアディック・ゼロ、またの名をグレース・レールと呼ばれ、都市の水楼閣の基点となっている。

 Viaducヴィアディックから枝分かれして、中水楼閣Ave.アヴェニュに水が注がれ、小水楼閣Impasseインパッセが屋根や小道を巡り、広場や家庭に水を届けるのが城壁都市の仕組みだ。


 水楼閣を流れる水は、飲料水やエネルギー生産だけでなく、郵便物を流し運ぶなど物流も担った。管理は自治体により厳正に管理されていたようだ。水楼閣周辺では建築物の規制が行われ、水楼閣と同等の高さの建築物はドラゴンの巣・または水質管理権利を持つ貴族の館のみとされていた。(*2) 水質の汚染は発生地点の自治体・統治貴族の責任となり法により厳しく罰せられた。


 水質管理は多くの方法がとられ、主に水質変化に敏感な水竜の放流、毒物・汚染に反応する水竜のうろこ、水草などでチェックされる。

Viaducヴィアディックには水竜が住み、異常があれば人に知らせた。(*3)そのため大水楼閣は水竜が住める大きさで建造され、その大きさは水竜王トモエリバを基準にされている。水楼閣建造には特殊なドラゴン石が必要とされ、長い時をかけて拡張されていった。


 平時は都市に水を運ぶ水楼閣は、高度な切り替え機構によって水路を最上段から内部の二段目へ移動することもできた。これにより最上段を通路に変更し、城塞としての役割を持たせることもできた。

 火災時は延焼を防ぐ壁となり、楼閣内は都市や自治体による物資・装備等の共有倉庫などに使われた。戦時中は捕虜を収容することもあり、多目的な用途に使われたため、建造には都市最高の石工が携わった。(*4)

 複雑で高度な役割を担った都市の生活・防衛の要であるため、職人の最高傑作であったといえる。完璧な形で水楼閣が発掘されることも多い由縁は、完成度の高さからといえよう。


 これからの構造の基礎は、神話時代に建造された高度技術を流用し複製されていったものだとされる。城壁都市にとっては背になるモンタンドロー山の湖の底には、当時の遺跡がまだ残っている。

 建造時期によって水楼閣の様式や機能・外見には違いがあり、大きく「基礎フォンダン様式」「Jeux D’Eauジョドー様式」「Reflets dans l'eauルフレ・ダン・ロ様式」「Jardins sous la pluie (雨の庭)様式」「Chanter sur l'eauシャンティ・スュ・ロ様式」に分かれる。

 

(*1) Viaducヴィアディックは都市を編み目状に巡り、人口増加や産業の需要によって増やされた。すでに番号の振られたViaducの間に増えたものは、Viaduc4.5など間を取った番号が振られたため、都市の大水楼閣の数は12以上存在する。

 また住所や案内の基準にもされ、水楼閣郵便はそれぞれの水楼閣に割り振られた番号に添って流れた。


(*2)水質の管理という大役を担う貴族は、少なくとも20家以上存在した。都市において貴族の財産、権力、社会的地位の保持には責任が伴うことを指すnoblesse obligeノブレソブリージュを遂行した。水質管理や領域管理を怠った貴族の腐敗は市民間でゴシップとなり、Bouchonneブルジョネというニュースジャンルとして確立され、話題にされたという。貴族は公的調査機関からの調査を拒むことができず、財産と特権以外は下着の色さえ秘匿を許されないとまで風刺された。上流に管理領域を持つ家ほど、責任は重かった。


(*3)大水楼閣Viaducヴィアディックを『遊び場』兼仕事場としていた水竜たちは、貴族たちが生活を共にすることが多かったが、中水楼閣Ave.アヴェニュ規模になると、水楼閣の規模も小さくなるため、小柄の水竜を住まわせ、暮らしを共にする自治体が管理する景色もあったという。水の管理に生活優先度をを置く市民は、水竜が住む自治体で生活する者も多かった。


(*4)水楼閣を建造する石工達は、都市の最高技術者たちのみ関わることが許された。(石工のギルドでランク付けがされ、そのうち最高位を意味する五つ羽根いつつばねの職人のみとなる)

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