都市の色彩 -ひととドラゴンの闇-
首から下の世界の象徴、「
『都市色彩の倫理』では
「黒(ノアル)は精神界の色彩であり、大地と鉄、結晶の色彩、夜の源、静寂の色であり、魔術性、重力、男性の不屈さと女性の気高さを意味する。ドラゴンライダーの誇りと誓いを象徴し、行動、向上心、個性、完全の中のほころび、無限の魔力、
B.D1800頃の学者アンリ・ヴィクト・ルニヨは著書『色彩引力』の中で
「黒は大地に引き寄せられる力であり、白は天空へ解き放たれる力である。肉体はその中間にあり双方向の力の中心点である。ドラゴンライダーはその黒の力をドラゴンと中和することによって白い力を多く得て天空へ誘われる」と記している。
黒とは大地に根ざした認識色なのである。
また液体であり流動的な認識の白と対比され、黒は固体であり不動なものとしてイメージされ、揺るがない意思、染まらない思考など確固たる意思を示すイメージを持っていたようだ。
都市生活でもっとも目につく黒とは、水楼閣ではないだろうか。
セシル・ヴィリアが『都市色彩の倫理』を書いたB.D1900頃大水楼閣12基建築されていたのは間違いない。当時外壁はドラゴンの炎で焼き固められ「黒」であったとされる。(後期城壁都市は観光業が盛んになり建築様式の多様化により白壁が増えた) 白の意をもつ水を黒の水楼閣が支えるというバランスのよさは色彩的な安心感を市民に与えただろう。
ドラゴン色で黒は
ドラゴンの炎が原因で起きた火災を表す単語
都市で黒を思わせるドラゴンは複数いるが、その多くは
由来としては彼らの炎で灰燼となったもの、焼け焦げたあとに残る色彩が、炭化した黒であったからと言われる。
城壁都市の
黒は白の強い光を吸収する力があると言われており、その結果輝きを押さえた表現に使われることもあったのだろう。
ちなみに彼の銀梨王リスシオワンが
「王は巨大で威圧感があった。王の住処である洞窟は少し暗く、彼の王の光を吸うような鱗に灯りという灯りはすべて吸い取られてしまったかのようだった」
「王の鱗は角度によって色を変える、というような貴婦人のような遊色はないが、落ち着きがあり光をその内々に蓄積しているように思う。それは私を安心させた」
(箱絵描きの日記 /アグラエ・ゴロワ BD330?~BD249)
我々がいま銀梨王の巨大な体躯や特徴的なぶち柄の表皮を直接拝むことはできないが、都市の色彩感覚を紐解くとその表皮の想像も助けてくれる。
黒はA.D期に不吉なイメージがつきまとう。死は黒く表現され死神の衣も黒である。城壁都市においても負のイメージはつきまとうが、明暗を示すための色として扱われ認識されることの方が多かったようだ。
市民生活においては伝統的であったり、熟練であったりを意味することも多く(職人などが研鑽を積んだ結果汚れにより暗くくすむという認識であろうか)職人が多く住む3区では看板にこの黒が多く用いられていたことが分かっている。やがてその利用傾向から、行動、向上心、個性、といった職人を象徴するような意味が付属していったのだろう。
『都市色彩の倫理』では
白は精神を象徴する色であったと言われるが、黒にもその要素は多くある。
市民の心の在り方、第六感を問い、己を見つめるための言葉となる。市民たちにとって「心」とは心臓の位置にあるものと認識していた。
つまり首から下である。
心をもって行動とする、その理念こそ
染織分野において城壁都市は大変優れた黒をいくつも生み出している。
原材料は植物1割、残り9割がドラゴン由来の成分が多い。
都市の印刷に用いる黒い顔料インクはドラゴンの炎で焼いた鉱石が原料で、A.D期に劣らぬ着色剤を有している。
B.D期は周辺国において「城壁都市の黒」の価値は非常に高く、薄汚れた黒とは一線を画す「極めて深い黒」に高貴の印象がつき、黒染の布を買い求める貴族が後を絶たなかったと言われる。この黒を布に定着させる技法は、水楼閣を経た(水竜の表皮や分泌液が混じったもの)水を用いなければ叶わず、類似品を他国で生産することができない点からも、希少価値が高かった。
黒を象徴とする石はA.D期にもよく知られた黒曜石や、ドラゴンの炎によって生まれるドラゴン石などがあてはまる。
直感から得られる色である白、そこからより深めた意思に対して黒という色を置いていた市民たち。それぞれの色は循環し、黒は白に、白は黒へと巡る価値観を持っていた。四季を持つ季節感にリンクし、どちらの色に優越もない無彩色としての位置を確固たるものにしたのだ。
黒は市民たちにとって、精神の根幹、強い意思を示す色であったと考えていいだろう。
城壁都市案内 AfterDragon 惠 @47kei
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