城壁都市案内A.D

はじめに

 私が城壁都市の研究雑録を発表してから、人に声をかけてもらうことが増えた。


 現在都市の発掘を担当しているアビス氏やダン氏をはじめ貴婦人の図書館を研究する研究者まで、周知の事実ばかりの私の文章に目を通して頂ける光栄は大変なものだ。ここで感謝を述べておきたい。


 ここ暫くの間、テレビクルーが城壁都市跡を飛行しドキュメンタリーを制作するので解説として作品作りに関わって欲しいと請われ力を注いでいた。

 私のような若輩者が、本格的に発掘に関わり情熱を注ぐ方々を差し置いて城壁都市について語ることはおこがましいと思うのだが、学術的・そして歴史的な側面で注目をしてもらうためにも、入口は広く浅く、そしてライトであるべきだと割り切り多くの発言をさせてもらった。


 私は各分野の専門家ではないが、広く都市の文献を読み、解釈し、なによりこの不思議で魅力ある都市を愛してる。

 現代に生きる城壁都市市民であると胸をはって言えるだろう。


 放送は見る勇気はないが、読者諸君からの反響を見ると悪いものではなかったと言える。もちろん良い意見ばかりではないし、私にとってもまだ勉強の必要さを感じるばかりだ。なにせ労力の割に報酬は大したことがない。

 私はテレビディレクターや編集者にはなれない事が分かっただけで十分な報酬は貰えたと思っている。


 しかし、ひとつだけ確実に、そして胸躍る出来事が起きた。

 熱心なファンなどいない、しがない一研究者に送られてきた手紙。

 差出人はアンヌマリー・フィーニー、そう我らが城壁都市研究の開祖、パイオニアである冒険家マルタン・フィーニーの孫娘さんからだ。


 手紙にはドキュメンタリーを見たこと、マルタン・フィーニーへの思いを感じとったこと、そして一度フィーニーのオフィスに足を運んで欲しい歓迎するとあった。


 私が知る限り、彼女はこれまで多く語らず、家に研究者を上げることはなかった。何か思う事があったのだろうが、それについては不作法だが直接会って聞きたいと思う。


 こんな喜びはあるだろうか。私はすぐにアンヌマリーとコンタクトを取った。一週間の休みを取り、飛行機のチケットを取った。

 孫娘さんからの話は、新たな城壁都市の側面を示してくれるだろう。オフィスで彼だけが知っていた新たな資料を目にすることができるかもしれない。


 私が飛行機事故に遭わない限りレポートは更新されるだろう。

 どうかレポートを楽しみにしていて欲しい。

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