アトランテス王国と三都市同盟

 アトランテス王国は、城壁都市より南に位置する大国で、周辺都市を取り込み勢力を拡大した宗教国家である。


 王家の祖はモンタンドロー、つまり現在の城壁都市に端を発したと信じられていた。エムロードのアンゼルが廃したアダマントとの関係があるとされている。そのため、アトランテス王国側からは「聖地」として認識されており、第二次侵略攻防戦は、アトランテス側では「聖地奪還」をスローガンとしていたことが分かっている。


 彼らはEnneadエナード(城壁都市読み)と呼ばれる太陽神を中心とした九柱神の神々を信じ、牛を神使としている。五段階のピラミッド型の階級を持ち、国王は神官を兼任し、貴族は併合した都市国家の長や神職で固められた。最下層は奴隷身分であったことが分かっている。

 王家の管理する青い鉱石サフィールを用いた高度な生体合成技術を持ち「神の再臨を実行する代行者」を称して憚らなかった。

 国家財源は琥珀山銅オリキャリク(Orichalque)と呼ばれる希少価値の高い金属であり、城壁都市で採掘されるエメラルドの倍の価格で取引がされていた。この金属の錬成に関してはアトランテス王国の秘蔵の技術であり、現在多くの研究者がこの神秘的な金属に関心を持たれている。


 アトランテス王国は王権の交代によって、領土拡大の戦略に転向。異教徒への征伐は苛烈を極めた。改宗や王族との婚姻によって傘下都市国家に加わることで戦火を逃れる都市は多かったという。

 アトランテス王国に関してはその後地上から完全に消えることとなり、A.Dの現代においても、城壁都市以上に謎の都市とされている。城壁都市ではアトランテス王国の衰退についてのちに「宗教国家消滅す」とだけ記している。


 巨大な敵アトランテス王国を迎え撃つため、城壁都市の背に広大な水を蓄えたエムロード湖に接する三都市で結ばれた同盟、 三都市同盟グラン・エムロード・アライアンスは、大きな役割を果たした。


 三都市同盟と銘打っているが、実際は「都市」としての規模を有する国家は城壁都市のみとなる。

 この同盟に加わったのは、城壁都市の前庭と側面の山並に住む人々、草原の民リール・クール山岳・裂け山の民モン・ティコル

 そしてエムロード湖を共有する水竜信仰を中心とした農耕民族集団のアグリコールである。それぞれ自治権と歴史を持つ独立民族集団で、彼らの生活領域は城壁都市と密接に結びついていたことから、アトランテス王国の侵略に際しては都市にかかる厄災と同様の不利益を被ることが分かっていた。

 

 中でもエムロード湖を共有する農耕民族集団のアグリコールは城壁都市と似て水竜を「神・または友」として崇めていたため、アトランテス王国からは城壁都市と並ぶ悪しき存在として見なされていたに違いない。城壁都市が陥落すれば、次はアグリコールに矛先が向けられることは必須であった。


 城壁都市は水エネルギーを主として高度な循環システムを構築する都市であるため、エネルギー源となるエムロード湖の死守は戦争時においては重大な課題であった。アグリコールや山岳・裂け山の民モン・ティコルがアトランテス王国側につくとなると、エムロード湖を含めて完全に包囲される形になってしまうのである。そのため城壁都市はアトランテス王国から不可侵条約を破棄された時点で、三都市同盟グラン・エムロード・アライアンスの締結へ動き出したと言える。


 元来同盟を結んだ人々と城壁都市の関係は、近隣民族として互いの文化や産業を尊重しあい、婚姻関係を結び絆を深める関係であったが、 三都市同盟グラン・エムロード・アライアンスでは三都市(4民族3大生活圏)の恒常的な友好関係を未来へ繋ぎ、相互扶助を約束する同盟となった。


アグリコール代表のハクダイは、以前から交流のあったドラゴンマスターや赤靴下のピッピに関してこう語っている。


「我々にも竜の巫女はいるが、城壁都市のドラゴンマスターは、エムロード湖のトモエ(*1)様の言葉を伝えてくれる意味では同じ存在だ。彼らは自分の利益のために、竜神の言葉を飾ったり嘘をついたりしない。信頼のできる隣人で、常に傍らにいて欲しい仲間である。小さなドラゴンマスター(*2)は水田で田植えを体験した時に、泥だらけになりながら、アグリコールでは赤靴下ではなく茶靴下だとほがらかに笑っていた。彼らが我々の文化や伝統を尊重する限り、我々も彼らを尊重しお互いを守ることを約束する」(*3)


(*1)水竜王トモエリバー。

(*2)赤靴下のピッピ

(*3)三都市同盟グラン・エムロード・アライアンス締結に際しての側衛官記録より

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