エムロード湖を囲む人々

 城壁都市とアトランテス王国との攻防に関わった三都市同盟グラン・エムロード・アライアンスの一翼、草原の民リール・クール山岳・裂け山の民モン・ティコル、農耕民族集団のアグリコールについてもう少し触れておきたい。


 あえて草原と山岳とで分けて記載をしているが、民族的には両者とも同一の一族と見なす研究者が多い。近からずも遠からずの親戚関係であったとされる。


 山岳・裂け山の民モン・ティコルは、普段は山から下りずに厳しい山中でアマルテイ、ユニコーン、ベエヤード(*1)などの放牧生活を主にしており、遊牧民や商人との交流が深かった。そのため各国の情勢について詳しく、国境周辺を生活範囲にしていたことから、言語に巧みな者が多かったようだ。

 時には山賊まがいの行為もした山岳・裂け山の民モン・ティコルは、諜報や偵察面での協力の他、ドラゴンペイン・ベオルフの足止めや最終局面においては山岳・裂け山の民モン・ティコル騎馬隊2千を率いて敵背後から敵軍を挟み込むなど勇姿を見せた。

 彼らの操る騎馬は山岳のグリフォンと言われた、前半身が鷲、後半身が馬のヒッポグリフと呼ばれる生き物だった。図書館にはあまり多く資料が残されていないが、ヒッポグリフは誇り高い生き物で、城壁都市の女主人クラウンミルの敵陣単身突入を見て、介入を決意したとされる。彼らはドラゴンライダー達に親近感を持つものが多く、ライダーを戦士と呼び交流を深めた。


 草原の民リール・クールは城壁都市の前庭、主戦場となったリッシーオワル草原で暮らす放牧・農業の民で、文字を持たず、口伝と歌を数多く残している。先祖代々の地を戦場にしたアトランテス王国を、戦後も蛮族として語り継いだ『呪われし者達』が有名である。戦場では草原の民リール・クールの乙女たちが 山岳・裂け山の民モン・ティコルから借り受けたユニコーンで駆け、得意の弓で敵兵の足もとを掬った他、平原の特性を誰よりも深く知っていたことから、戦略面での助けとなった。女性も率先して戦に出る集団であったことが分かる。

 彼らにとっては神に等しい存在であるドラゴンを、邪悪なものと見なすアトランテス王国に対しては厳しい態度を崩さなかった。

 族長(Récolteレコルト)は、代々女性が担ってきた。

 捕虜となったアトランテス大貴族キャピタルの罵詈雑言に対して「黙れ耳が腐る」と厳しい発言をしたことが議事録に残されている。(のちに謝罪があったとされるが正式な記録には明記がない)


 農耕民族集団のアグリコールは水耕栽培で稲穂を育て四季を愛する、穏やかで文化的かつ温和な民族である。本来武器を持って振り回すような集団ではないが、アトランテス王国軍の別働部隊「琥珀軍アンブル」との対峙を余儀なくされた。

 特殊金属琥珀山銅オリキャリク(Orichalque)による武器との交戦は困難を極めたが、錬金に卓越した彼らは、無敵の金属を溶解するという手段で危機を乗り切る。

 城壁都市を背後から奇襲し挟み撃ちで陥落させようとした作戦は、苛烈を極めたが20Janvierに、アグリコールの知略と水竜王の活躍で潰える。

 水竜王トモエリバを尊敬し崇めたアグリコールの人々にとって、彼の住まうエムロード湖を穢すことは許されざる行為であった。

 戦場の中心が主戦場から離れ、アグリコール領内中心のため、この戦に関しては城壁都市側よりアグリコール側の発掘資料を期待したい。


 彼らの助けがあったため後顧の憂いなく城壁都市は前面に展開した戦場に集中できたといえる。また彼らの領域であった裂け山を通り、城壁都市の非戦闘員は戦場から避難した。その道中を守り導いてくれたのも、心優しい戦士たちの力添えがあったからである。


(*1)アマルテイは山羊の一種で、現代とは異なりオーロックスに似た巨体であったとされる。ベエヤードはユニコーンと似た馬だが、水を嫌うため、城壁都市周辺には現れず、幻の馬とされた。

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