城壁都市の防城戦

 城壁都市の市民兵たちは、主に平野戦プラーヌ壁上戦ダ・ゲ騎竜戦シュバールを駆使し、防衛戦を主軸とした。

 侵略に対して防衛をすることを重きに置いた城壁都市得意の籠城戦である。

 

 アトランテス王国軍も、守りに固い城壁都市への攻めについては数々の対策を練って開戦を迎えた。アトランテス王国軍は、破城槌や投石機による外壁の破壊を目的とした攻城兵器の強化の他、長期戦を念頭にいれた築城、水源となるエムロード湖への干渉を試みた事が分かっている。

 数々の作戦が検討される中で、もっとも戦火が集中したのは、玄関とも言える城壁都市外壁である。リッシーオワル草原に面し敵と対面する外壁上の戦闘は、壁上戦ダ・ゲと言われ戦法も確立していた。


 壁上戦ダ・ゲの主たる防城法は、長弓やバリスタ、設置型の投石機による城壁上からの射撃や落石、投火である。物資は上流から水楼閣で運ばれてくるため、補充に事欠かず、第一次城壁都市侵略攻防戦において「ドラゴンブレスの火矢」「炎の王冠」と言わしめた、猛烈な火矢の雨が有名である。これまで草原に陣取った侵略者の大半はこの斉射で焼き尽くし追いはらってきたことが、守衛記録に印されている。

 第二次城壁都市侵略攻防戦においては、敵国第一波に対して、城壁都市外壁弓兵5千による一斉掃射が確認されている。

 平時より兵役で外壁を守る守備兵の錬度は高く、巨人兵によりViaducヴィアディック7、3外壁の城壁が損傷し敵兵侵入、壁上戦に混乱が生じた際も、冷静な対処で殲滅した。

  彼らが巨人に対して過剰に混乱しなかった理由は、普段から大きなドラゴンと向き合っているためだろう。


 アトランテス王国軍は、正門破壊による正攻法を主軸に捉えたが、壁上からの攻防と、騎竜戦シュバールによる防衛で門への接近までは困難を極めた。


 城壁直下に穴やトンネルを掘り侵入と壁の崩壊を誘うため、工作兵が都市外壁下を採掘したが、接触により爆発・有毒ガスを発生させる炭硝石たんしょうせきが埋められているため、作戦中断を余儀なくされたり、震動を都市側が察知し排除されるなど、外壁は厚く地下からの侵入作戦は早々に潰えた。


 死傷者の危険が多い壁外平野戦プラーヌと比べ、圧倒的な高低差で攻防できる壁上戦ダ・ゲを支えた城壁都市外周は、破城槌や投石機に負けない堅固なドラゴン石の厚い壁(*1)があって為せる戦略であった。


 平野に出て敵と同じ目線で戦う平野戦プラーヌでは騎竜戦シュバールも並行して戦線に立った。都市を守るドラゴンを戦士として動員して陸空より攻撃にあたることで、これまでの戦では被害が最小限に抑えられてきた。

 アトランテス王国軍は過去の城壁都市戦について調べ上げ、ドラゴンの戦力を計算。彼らを足止めするために巨人族ガルガンチュア合成獣キメイラなど人外を駆使し、ドラゴンの聴覚・視覚を乱す歌声の持ち主、楽師姫イーヒ、多額の費用を投じてドラゴン殺しドラゴンペインの英雄ベオルフを用いることで対抗した。


 巨人兵ガルガンチュアの駆逐は時間を有したが、敵軍にとって目立ち当てやすい標的のドラゴンと同様、城壁都市側も大きな彼らに狙いを定めることは難しいことではなかった。苦戦を強いられる場面も多かったが、巨人によって外壁を破壊されたのは1度に限り、その際も上腕部のみで壁としての機能は保持され、復旧も容易かった。


 第二次侵略攻防戦の平野戦プラーヌで死傷者を多く出した合成獣キメイラには、城壁都市は最も対策に苦心した。動くものを見れば躊躇無く猛獣の牙で襲い、鷲の羽で飛ぶ怪物は疲れを知らず、歩兵や騎兵隊を勝る兵器であったと言う。

 もっとも死傷者を多く出したのが合成獣キメイラ(*2)であったとされる。

 ドラゴンとは違い長時間滞空する能力や空の上での小回りが利かないことから壁上戦ダ・ゲを中心とした展開となっていたが、駆逐のために出撃する騎竜戦シュバール楽師姫イーヒのため足止めされ被害が拡大した傾向が見られた。最終的には奇襲作戦により生産施設を破壊し、量産を防いだ。


市民兵たちは、どの作戦や戦場においても、隊を乱す反乱や撹乱に動じず不屈の精神で立ち向かった。その精神力を支えたのは彼らの友であるドラゴンの存在や、ホームグラウンドである城壁都市本国においての争いであった点が上げられる。

 度重なるドラゴンの死に胸を痛める市民たちは戦意の喪失を越えて怒りを燃やして立ち向かった記録が多く残されている。

 

 貴婦人クラウンミルの行動については、評価は大きく分かれている。

 研究者間では実質的に総大将としての立場にありながら、自ら戦線に飛び出したことを誤った判断であるとする者もいる。

 人間側の指揮官相当のドラゴンマスター・また騎士団・魔法院のトップが健在であったため政治的な問題はなかったのが幸いであった。

 最近発掘・分析された側衛官記録を見ると、クラウンミルは氷結王フールスキャップへ「城壁都市の象徴」としての継承を進めていたことが分かってきた。老齢の貴婦人は、最初からこの局面で体を張って都市を守り抜くつもりでいたのかもしれない。

 私は絶望の中で、象徴たる彼女が意地と勇気を見せてくれたのだと解釈している。大切な友のために命がけで愛する都市を守りたいと思う気持ちは、彼女が強く心に宿し続けた思いだからだ。

 遙か遠い過去となってしまった、たったひとりの彼女の騎手、エムロードのアンゼルを思い続けた日々は、この時のラスト・ダンスで大成したのだと思う。


 城壁都市の象徴である貴婦人クラウンミルを動かした点においてアトランテス王国軍の攻撃と作戦は戦略家に評価されており、長い城壁都市の歴史の中でももっとも苛烈な争いであったとされる。


(*1)外壁は城壁都市内を葉脈のようにめぐる水楼閣と比べて、2~3倍の厚さを有していた。巨大な石壁は発掘調査でいくつも確認されているが、巨大さから移動することができず、そのままに残されている。

(*2)アトランテス王国では生者との合成により、死者の蘇生を試みる技術も研究されていたことから、合成獣キメイラ製造の施設が戦場に用意されたのは撃破したドラゴン・城壁都市兵を用いて実験に用いるつもりであったのではと推測する研究者もいる。

 味方が敵に回ることで精神的打撃をも与えようとしたのだろう。だが実際には味方が死体兵として現れた記録はない。

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