城壁都市の図書館発掘

 城壁都市発掘と歴史研究が飛躍的に進んだのは、マルタン没後70年後のことである。


 手探りの発掘が続く最中、「1区」で 「図書館」(*1) と呼ばれる遺跡が見つかった。

 この偉大な発見により、一部研究者のみが熱中していたこの城壁都市は再び注目され、多くの学者たちから協力を得られることになった。


 「図書館」は数千年の時の流れを経ても、内部はほぼ完璧な状態で残されていた。

 分厚い壁は岩盤を削り構成され、地下へ地下へと続く「図書館」は酸素や光の届かない密閉された空間が構築され、細菌やカビ、生物、災害による書籍の劣化を防ぐ対策技術が施されていた。高度な技術知識がB.Dに存在したことが、たくさんの調査員を驚かせた。城壁都市の文化レベルは、語り部が創作で語るだけでそれまで誰も実物を見る事が無かったからだ。


 「図書館」は最初に地下4階部が発見され、入り口には部屋の堅固なる封印と共に、祈るような姿勢のまま朽ちた人骨が発掘された。

 その人骨は、各層に配置されていた。

 発掘を担当した人間は、呪術的な気配や、墓のような不気味さがあったと日報に書き残している。

 完璧な密閉空間にするための機構は、内部から扉を封じる必要があり、非常事態にのみ行う一度きりの機構であることも分かってきた。発掘担当主任のグラ=ノルベールは当時の発掘中の記録にこんな言葉を残している。


「最初に遺跡の扉を見つけた時、私はマルタンの魂をここへ呼びたいと強く願った。彼はこの瞬間に同席したかったことだろう。人骨の発見だけでなく、整頓された完璧な図書資料を前に最初は皆、ここは貴人の墓ではないかと思っていた。時に墓の副葬品には金や宝石ではなく書物が残されることもあったからだ。しかし発掘が進むにつれて、この遺跡の主役はあくまで図書たちなのではないかと、皆が気づきはじめた」


 現在我々が知る多くの城壁都市の物語や営みは、この「図書館」によって得られた過去である。都市が滅びるようなことがあったとしても、命を賭して都市の息づかい、文化と伝統を残そうとした「司書」たちが存在したのである。グラ=ノルベールは続ける。


「図書館の発掘と、都市の司書たちが残した文献によって、今まで存在しないと言われていたあらゆる出来事、あらゆる存在が受肉した。図書館には都市の地図が残されており、マルタンが発掘した最初の神殿と図書館の位置を照らし合わせ、その後全ての歴史的遺跡が発掘されたと言っていい。闇雲に発掘をして貴重な遺跡を破壊することもなかった。文化を残すと言うことは、命を賭けて守る行為と同義であると言うことを、私は強く感じることになった」

 

 この「図書館」に残されていた記録を読み解くには言語学者たちの協力を得る必要があり、多額の資金が必要となったが、各国の資金援助もあり着実に進められた。この解読に関する詳細な記録は、主任解読員であったジェフロワ大学教授の手記(*2)を参照にされたい。


 研究者によって書籍に使われていた紙についての研究も進められた。公的文書を残すための紙、個人的な記録、日々消費される紙など数多くの紙が用いられており、中には「魔法使いのための紙」と呼ばれる特殊な紙も存在していた。数にして200種類以上。製紙のための労働者組合ギルド(*3)や職人が存在して高度な技術を有していたことが分かった。


また都市にとっての正史「クロニクル」という書物の存在も解読から明らかになっているが、クロニクルはこの図書館には保管されていないため、発掘調査の今後が期待される。


(*1)「図書館」はのちの調査によって都市の文書や資料などの管理と編修・保管・伝承を目的とした施設であることが判明し、正式名称は「Bibliothèque du Notre Dame」(貴婦人の図書館)とされている。この貴婦人はクラウンミルを指す言葉であり、都市最高峰であるという印であると認識されている。都市国家最高の学術資料拠点である。

(*2)『水楼閣巡る城壁都市の言語探求』

(*3)調査の中で製紙ギルドの出版した書籍が数冊発掘された。書籍には組合構成員の事務所や工房の住所、マイスターの名前、得意な加工技術、主な造紙や特許について、そして最新の製紙技術に関する情報の記載もみられた。都市は水楼閣を使って手紙のやり取り(水楼閣郵便)を行っていたことが分かる。「届いて手紙を読み終わったあとにすぐ水に溶かして消せる紙」などの開発が注目されていたことを覗うことができる。

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