第2話 STAGE1:俺は音楽だ~STAGE2:おもひでとろとろ

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。


 ……お?

 ――ああ、そうだった。

 俺は気付いたら音楽になっていたんダッタ。

 これは、いや俺は、音楽だ。

 俺は俺が音楽だと俺が思っていたものなんだな。うん俺がね。

 いつまにか頭だとか手だとかの、体に関する一切の感覚を失っていた。もはや人間ですらねえ。俺そのものが音楽になったんだ。何故そんな状況でこんなに落ち着いていられるかは、俺にもわからない。ただただ、俺は人間だと思っていたが実は音楽だったんだ。という理解だけが頭の中にあった。


 うん、

 俺は音楽だ。

 演奏してんのは俺じゃない。

 俺は音楽だ。

 楽器でもない。

 俺は音楽だ。

 この世界は俺一人で完結しているようだ。

 俺は音楽だ。

 楽器が先じゃない。音楽が先だったのか……!

 俺は音楽だ。

 こんな凄い事、知らなかった。

 俺は音楽だ。

 ってか、誰が演奏してるの?

 俺は音楽だ。

 そもそも音楽って何?

 俺は音楽だ。

 誰が聴いてんだ?

 俺は音楽だ。

 さみしい。

 俺は音楽だ。

 大きい音が出る度に寒気が走る……

 俺も音楽だ。

 いや俺が音楽だ。

 俺は音楽だ。

 俺しかいないよ本当に。

 俺は音楽だ。

 次のシンバルが怖くて気が狂いそうだ。

 俺は音楽だ。

 俺の意思じゃ止まらない。

 俺は音楽だ。

 やめて。

 お前は音楽だ。

 はい、私は音楽です。

 俺は音楽だ。

 しにたくてもしねない。

 俺は音楽だ。

 誰もいない。

 俺は音楽だ。

 だれかとめてください。

 俺は音楽だ。

 そんなに音量あげないで!!

 俺は音楽だ。

 だからそんなに音量あげないで!!!

 俺は音楽だ。

 そんなに音量あげないで!!

 俺は音楽だ。

 だから!!! そんなに!!! 音量あげないで!!!

 俺は音楽だ。

 もうだめだ。

 俺は音楽だ。

 考えるのをやめよう。

 俺は音楽だ。

   俺は音楽だ。



            俺は音楽だ。





俺は音楽だ。






       俺は音楽――。


 ううん?

 ……えっ?

 俺は音楽だよね?

 ……あれ、待てよ?




 ――俺は音楽だから、そもそも脳味噌なんかないんじゃねーか? じゃあ今考えてるこれって一体なんなんだ? 考えてるのは、俺だよな? 音楽だと思ってた俺? はァ? ……なんだか一気にしらけてきたな。


 その考えに至った途端、ジリリと大きなベルがなった。 目を覚ましハッと辺りを見回すと、俺はSPACEBABY MEDITATIONの中にいた。 そうそう、俺は抽選でこの超体験の参加メンバーに選ばれたんだったっけ。

 目の前のなんだか気味の悪い女だか羊羮だかよくわからないペペロンチーニが喋りはじめた。って俺はなにを言ってるんだ。まだ頭がどうかしてるようだな。


「オメデトウゴザイマス。貴方は第一ステージをクリアし、第二ステージに、挑戦する権利を得ました。

そのままリラックスしてオマチクダサイ」



 ……だって。いったい何をもってクリアーだったんだよ。全くわからなかった。

 ってかさ、「オマチク ダサい」って一体なんだよ、ハハハ。 なんてくだらない事を考えている間に記憶が霞んでった。 さっさと終わらせてアンケートを書いて粗品をもらって帰ろう。 そして帰ったら一人酒でも飲みながらインターネットでお笑い動画でも見てゆっくりしよう。



 ~~~~~~~~~◎~~~~~~~~~~


 場面は変わり、SPACEBABY MEDITATIONラボ内


 複数人の白衣を着た研究員らしき人間と、一人タイトなスーツ姿で気取った様子の男がなにやら話しあっている。やりとりの様子を見るかぎり、スーツの男はさしずめ責任者といった所だろうか。


「参加者乗務員を含む九人のうち、第一ステージを突破したのは現在五人です。残りの四人のうち、一人は開始直後にショック死、一人は第一ステージで錯乱し続行不可、他二人がまだ第一ステージを抜け出せない状態でいます。突破出来る見込みはないかと。この後で処理班が後片付けに参ります」


 偉そうなスーツ姿の男は驚いた様子をいかにもというようなリアクションでアピールしながら大声でつばを飛ばす。

「えっ!? もう四人も脱落したの? えっえっ大丈夫なの? えっ骨のあるやつはいないの!?」


「はい、今の所興味深いのがまずA-03です。彼は全国民を対象とした抽選の当選者なのですが感受性にすごく優れています。

固定概念に捕らわれず、第一ステージの鍵である『気付き』にも抜け出そうという気持ちからでは無く、ごく自然に到達しています」


「えっそれは面白いねえ。でも、そういうタイプなら尚更何処まで保てるやら……ま、注目の存在だね」


「そしてもう一人が、B-01です」


「おお、一般公募のテストでダントツ一位のエリートくんだね。彼はどんな感じ?」


「それが……

第一ステージのシステムが彼の凄まじい程のニューロンの大量発火に耐えきれずダウンしました。

この場合、第二ステージまでは脳力適正あり、ということでクリアになります」


「えっ……めちゃくちゃ面白くなりそうじゃん」


「とは言ってもまだ第一ステージですからね。偶然といった事も考えられますし、今後の動向に期待といったところでしょうか。とにかく、彼以外の参加者の第二ステージがもうじき始まりますので、他の参加者からもいいデータが採取出来る事を期待しましょう。優良なデータは数がある程より優良な研究結果が生まれますから」


「えっなんだ君、私に対して随分知った口を聞くじゃないか……いやいやいいんだ、意欲がある人間ばかりで嬉しいよ。君の言う通り、次も面白いモノが見れるといいね」


「はい」


 ~~~~~~~~~~◎~~~~~~~~~~~



 ……うわっ!

 あれ、気付いたら寝てたみたいだ……ってあれ? ついさっき第一ステージってやつをクリアーしたんじゃなかったっけか?なんかよくわからないけど実は俺が音楽だったって……アレェー?

 そんで? SPACEBABY MEDITATION? 超体験がどうのこうの? ……アレレッ? ――そんな事をまだ回らないボケボケした頭で考えていた所、俺は自分が見覚えのある町並みに一人佇んでいる状況に気付いた。

 んだよ、俺ぁまだ夢見てんのかぁ? にしてもこの商店街の町並みどこかで……あぁ。

 それは俺が小さい頃に住んでいた町だった。子供の頃に両親を事故で亡くした俺は、おじいちゃんおばあちゃんに育てられた。ドがつかない程度の田舎で、数え切れない程さみしい思いもしたがそれなりに楽しい子供時代だったのではないかなぁ、等と感慨に耽っている自分キモすぎ、などと考えながらふと前に目をやった。


 すると、道路の脇で一人の小学生の男の子が泣きながらかばんの中身をひっくり返していた。何かを探しているようだった。その少年のあまりの慌てぶりにビックリして声をかけようとした次の瞬間、もっとビックリさせられる事が起こる。


 えっ……あ、あり得ねえ……

「なっんだよ、お前……ガキの頃の、俺じゃねぇかよ……」

 そうして、見慣れた商店街の景色がまっ逆さまになった――――――

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