第18話 介入
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所変わって、B-01は暇を持て余していた。
「ねぇ。僕はこう見えて、結構せっかちなタイプなんだよ……?」
……。
彼は一体、自分がどういう印象で見られていると思っているのだろうか。
びんぼうゆすりが彼のイライラ度合いを浮き彫りにする。
しかし、いくら退屈だからといって、B-01がここまでストレスを感じているのには、一つ大きな理由があった。
実は彼はディオニュソスの回想の話の時と同様に、ただ待つ事にしびれを切らして主人公が幻視体験を受けている空間に干渉しようと試みていたのだ。だが、予想外に大きな力が働きそれを阻止されて結果近寄れずにいた。
~B-01は退屈ながらに考えた~
「どうしたものか。あの時内側から働いていた力は正にグレートサイレンスに匹敵する程の大きな力だった。外から介入を受けた際は理由を問わず全て『否承認』にするというプロトコルが働いているようだね。
そもそも世界のルールとして『グレートサイレンス』という絶対的なルールはクリエイターが世界を構築した際にあらかじめ決めた固定のもの、あるいは例外としてクリエイターから直接許可を得た『デザイナー』が一人につき一つだけ世界に付け足す事が出来るという『独特なルール』がある。
したがって、こんな一時的な空間にグレートサイレンスを働かせているということは無いだろうから、誰かが彼を対象として、脳力を用いた強力な空間を作り出してるとみたよ。
しかし、凄い力だね。
だって――僕が入れないんだよ? ついさっきまで、彼にテコ入れしたりとか自由にできてたはずなのにさ」
B-01はステージ3をすぐ握りつぶしてしまったため、アマニタの存在を知らなかった。
B-01は爪を噛みながら、平静を装っている。しかし、そのストレスは尋常ではなかった。
「誰かの特化型脳力で僕が彼の居場所まで入り込めなかったところまではまだいいよ。基本的に脳力ってやつは構造的にも攻めよりも守りの方が最大値が高いからね。
問題はそこじゃない。
見たところ、僕が入れなかったにも関わらず、すんなりと入り込んでいる部外者が一人いるみたいだっていうところ。
――なんなんだ、そいつは。外からじゃ詳しく探ることはできないけど、
そもそもこの世界で僕よりも高い脳力を持っている存在なんてあり得ないんだよ。
そんな存在がいたら僕が知らないわけがない。……ただ、外からでも十分に伝わってくる、この物凄いエネルギー量はそいつのものなんだろう。
この世界には無い、言わばブラックホールを思わせる程の質量のエネルギー――こんなの相手じゃ、内部で脳力を駆使している特化型脳力者の守りですら、何の意味も持たないだろう。
――そうなると、本当の『部外者』か。
なんにせよ、気に入らないな。
ノブル君、頼むから頑張って。次のステージで僕と君は合流できるんだ。
その時にそいつも必ず消してやるから。僕だって、ただ賢いだけじゃないんだ」
B-01は部外者の得体の知れない存在感に、いつの間にか爪を噛む癖を刷り込まれたのだった。
図図図図図図図図図図図図図図図図図図図図図
そのピンクのホルモンみたいな物体は、明らかに俺の生きる世界には実在しないものであると断定するに容易い姿をしていた。
というのも、考え方によって『見え方』がガラッと変わるのだ。
生き物には見えないが、そう思ってるうちに妙に生き物らしく見えてくる。生き物ならば、というか生き物なのに、目が見当たらないじゃないか等と思うと、その物体全体が目に見える。耳は無いのか?等と探してみていたはずが、気づけば物体全体が耳でしかないように見えてくるのだ。なんなんだよ一体。
存在意義すらも全く読み取れないそれは、取り敢えず有り得ない物体だという大雑把な結論でしか頭が整理できなかった。
相変わらず、マグマが沸騰するよりも何百倍も遅いであろうスピードで、グツグツと成長を続けている。
俺の世界に現れてきておいて、共通の時間感覚などには無視を決め込んで、俺が体感している時間よりも遥かにゆっくりと進んでいるであろうスピードを携えているようだが、俺の時間が巻き戻ってもその影響を一切受けることなく、その物体の成長は始めに存在を認識した時から今まで確かに継続している。
お前って一体、何者なんだ……。
そんなことを思っていたら、俺は母さんから受けている残酷な仕打ちをすっかり忘れ、その物体に完全に目を奪われていた。
――すると突然の事だ。
その物体に俺が視点を合わせていた一ヶ所がプツッ! と音を立てた。
俺はその瞬間、うわ! ごめん! と何故か心の中で謝った。
すると次の瞬間、視点を合わせていたそこに穴が開き、中から濁った膿のようなものがドボドボと吹き出した。
得体の知れない物体はどんどんと破け、内側から外へ向かってめくれ上がっていく。
「え……ああああ、はは? おい、一体なんなんだよ……あは、あははは」
俺はその光景を見て、その物体から膿のような液体が出れば出てくる程に、同じだけ自分が侵食されていくような、頭がどうかなってしまったような感覚を味わわされていった。
×
あああ……ああ……ああああああああああ
どれだけその光景を眺めていただろうか。
今まで俺よりもよっぽどゆっくりとしたスピードで一生懸命成長を続けていたピンクのホルモン野郎は、俺が視線を注いでいた先からプツリとやぶけ、ドボドボ膿を流してめくれ上がっていった。
あああ……ああ……
そしてそのピンク色の物体に共鳴しているかのように、自分の後頭部辺りがグジュグジュと蠢いている感覚――それはまるで頭皮の中を虫が右往左往這いずり回っているような感覚がして、それが俺の錯乱に拍車をかける。
いいい、いいいいい……
ついさっきまでは。
死にたい等とのたまってはアマニタに甘ったれだのと悪態をつかれて、いざ死ねば死んだで終わらない死に絶望していたが、今、恐らく死の何億倍も恐ろしいものが、俺の目の前で起こり始めている! 自我がそいつに吸い込まれるように崩壊していく!
……そうして完全なる虚無に近づいていく。
――そんな事をぼけっと考えていた俺はまだ呑気だったのかな。
次の瞬間だ。
ピンク色の物体は一瞬ぎゅっと体を収縮させた。そして――
「ホギャァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
突然だった。そのピンク色のグロテスクな物体は膿を流し続けていた穴からおぞましい叫び声をあげた。
その声を間近で聞いた俺、アマニタ、ナナは肉体が細胞まで一瞬にして凍りつく。
そしてその物体は叫び終わるのを待たず、完全にめくれ上がり、その穴体が丸ごとひっくり返った。
ひっくり返ったそいつは意外にも、小さくとても無機質な球体になっていた。
そしてスンっと一瞬の物凄い引力を経て。
…………ん?
ギャリリリリリリイイイイイイイイイイイイ――ッ
そいつはエネルギーを大爆発させた。その瞬間に、ナナとアマニタは肉体も精神も一瞬にして塵になってしまったのが、横目で見えた。
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音よりも早いスピードで衝撃波が走った後、
あったかい空間にゆっくりと包まれていった。
グジュグジュ
煌びやかなイメージがビシィ! と広がり、その上に金平糖のような華やかさが散らばった空間に俺は包まれた。体が膜に覆われたような生温かさに包まれて、完全な無音の中でかすかにオルゴールのような優しい音色が聞こえる。
……無音なのにな。
グジュグジュグジュグジュ
あの化け物がヌゥッと姿を現した。ゆっくりとこっちに近づいてくる。
これ以上、もうどうするつもりだよ。いきなり人の世界に現れたと思ったら、挨拶も無しに無茶苦茶にしやがって……。
グジュグジュグジュグジュグジュグジュ
気付いたら目の前まで来ていた。
俺の事、食うのかな。食ってくれていいから、もう繰り返すのは、勘弁し……
「気が済んだかな? もう、還ろっか☆」
そいつは満面の笑みを俺に向けてそう言った。
――そして俺はそれを聞き終わる前に言い放つ。
「イ ヤ だ ね 」
――ビュルルルルルルッ
俺の口頭部から勢いよく矢印が伸び、俺の後ろの方へ物凄いスピードで伸びていく。その勢いに俺は引っ張られ、これまた物凄い勢いでバケモノの前を後にする。
バケモノは触手のようなものを伸ばし、俺の足に巻きついてきた。俺はトカゲのしっぽ切りの要領で、足を砂のようにボロボロと崩れさせ触手から逃れた。
俺はぶっ飛んだ思考回路の中でイライラとする。
なんだよ、過保護かなんかか? やめてくれ。
「もう、いいんだよ」
俺は目を閉じた。
ズウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン。
――ハッ。
目を開けた。
あれ、今どうなってる? 俺は死んだ? え?
目の前に気味の悪いロボットが喋りだす。
「オメデトウゴザイマス。無事、第三ステージ、クリアーデス。第四ステージガハジマルマデ、ゴユックリ」
「は……えっ、うっうそ……はァ!?」
後味が悪いだなんてリアリティのある感想なんざ、出てくる余裕なんか無かった――――――
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